O13 Stockholm, Sweden (The Guitar Artistry Of Bert Jansch) (2011) Rounder Vestapol 13125



Bert Jansch: Guitar, Vocal
Martin Jenkins: Mandocello, Violin

1. Come Back Baby [W. Davis]  S1 S5 S14 S18 S27 S29 S33 S36-1 S36-6 S36-8 P19 O20
2. One For Jo  S9 S9 S10 S11 S18 S23 S36-4 O10
3. Cockoo (aka Avocet)  S14 S15 S17

収録: 1978年 スウェーデン、ストックホルム

注: ジャケット写真はO16と同じ

          

2011年5月に発売された「Conundrum In Concert」O16の再発盤 「The Guitar Artistry Of Bert Jansch」のボーナストラックとして収録された映像。僅か3曲ではあるが、バートとマーチンの二人コナンドラムの演奏風景を楽しむことができる。バートのバンドは、マイク・ピゴーがツアーを好まなかったこと、ロッド・クレメンツが好条件でのリンデスファーンの再結成の話を断れなかったこと、そしてピック・ウィザースがダイアー・ストレイツ(バートの言葉によると「パンク・バンド」)に加入して大成功を収めたため解散状態となり、代わりにダンド・シャフツのメンバーだったマーチン・ジェンキンスがツアー・メンバーとしてスカウトされた。

彼等の主要ツアー先にスカンジナビア諸国があり、本映像はスウェーデンのストックホルムで撮影されたもの。会場は小さなパブと思われ、天井にはシャンデリアが吊るされ、オーディエンスの机の上にはビール等の飲物が置いてある。1.「Come Back Baby」で、マーチンはピックアップをつけたマンドセロを弾いている。バートはロブ・アームストロング製作のギター(O25参照)を弾いている。淡々とした演奏で、観客の反応も冷静だ。 2. 「One For Jo」でマーティンは、バイオリンを演奏。 3.は「Cuckoo」とクレジットされているが、アルバム「Avocet」1979 S15 のタイトル曲 の原曲である。コペンハーゲンのライブで、ピーター・アブランソンがこの曲を気に入り、彼がオーナーであるデンマークのレーベル「ExLibris」でのアルバム製作が決まり、発売後の好評を受けてイギリス本国カリスマ・レーベルでの発売が決まったというエピソードがある。ここではバートのギターとマーチンのバイオリンによる演奏で、当時は「Cuckoo」と呼ばれ、演奏時間は6分弱だったが、スタジオ録音は、ダニー・トンプソンのベースを含むトリオ演奏による 18分におよぶ長い曲にアレンジされ、タイトルも「Avocet」に変更された。その後日本で録音され、同国のみで発売されたバートとマーチンのライブ盤「Bert Jansch Live At La Foret With Martin Jenkins」S17 1980でもこの曲を演奏しているが、そこでの演奏時間は10分強となっている。演奏中のバートの右手、左手のクローズアップがあり、彼の運指がバッチリ映っていて、ファンにとって面白い映像。

バートとマーチンによる二人コナンドラムの演奏風景を捉えた貴重な映像ですね。

]2011年9月作成]


 
O14 Black Birds Of Brittany (1979) Streetsong NO 1
 
O11 Black Bird Of Brittany









[Bert Jansch + Connundrum + Richard Harvey (1)]
[Shirley Collins And The Music Works Band And Choir (2)]

Bert Jansch: Guitar, Vocal (1)
Shirley Collins: Vocal (2)
Anne Power, Gillian Elkins: Back Vocal (2)
Martin Jenkins: Fiddle, Back Vocal (1)
Nigel Portman-Smith: Bass
Brian Gulland: Keyboard, Recorder
Richard Harvey: Recorder

Austin John Marshall: Producer

1. Black Birds Of Brittany [Austin John Marshall, Bert Jansch]
2. Mariner's Farewell [Samuel Taylor Coleridge, Jeremiah Clarke]

録音:1978年11月


3. Cuckoo [Bert Jansch]

録音:1978年、Stockholm, Sweden (Live on Television)

注) 写真上: オリジナル盤(Streetsong版)シングル・レコード 上記1, 2.収録

   写真中上: Shairley CollinsのCD3枚組ボックスセット「Within Sound」 2002 上記2.収録。

    写真中下: オムニバス盤 「Live In Hope: The Wild Life Album, Vol.2」 上記1.収録

   写真下: 2016年 Earth Recordsから発売されたシングル・レコード 上記1, 3 収録
Angel Fish Ltdという団体が発行したストリートソングというレーベル名のシングルで、当時タンカー座礁による大規模な原油流失事故により大打撃を受けたフランス・ブリターニュ地方沿岸のことを歌ったプロテスト・ソング。タイトルの「黒い鳥」は、原油を被って真っ黒になった水鳥のこと。B面はイギリス・フォーク界の歌姫シャーリー・コリンズ名義。1.「Black Bird Of Brittany」は彼のギターの他、ドラム、ベース、フィドル、マンドリン、リコーダー、ハンドクラッピング、バック・ボーカルが加わり、彼の作品としてはかなり重厚なサウンドで、シリアスな感じの作品。後半は同じメロディーのリフが延々と続き印象的。

本作にはパーソナル、録音データが一切記載されていなかったため長らく詳細不明だったが、2002年にシャーリー・コリンズの4枚組ボックスセット「Within Sound」に 2.「Mariner's Farewell」が収録され、上述のメンバーが明らかになり、B面の2.にもバートがギターで参加していたことが確認された。2.のイントロはレコーダーによるバロック調のアンサンブルで、約 1分後にシャーリーのボーカルがフィルイン、バートのギターが聞こえ、後半は重厚な合唱になる。彼女はフェアポート・コンベンション、スティールアイ・スパンとの関係が深い人で、デイヴィー・グレアムとの共演も名盤の誉れ高い。本作はバートとの唯一の共演作だ。

レコードのレーベルや添付されているポスターサイズのパンフレット等、どれも自主制作盤のような出来上がり。パンフレットの内容は環境保護についての記述で、本作のプロデューサー、1.の作者でパンフレットの編集人であるオースティン・ジョン・マーシャルによるコメントがある(彼はシャーリー・コリンズの最初の夫だった人)。バートがその趣旨に賛同して録音に参加したものと思われる。ごく短期間しか出回らなかったため貴重盤となった。

蛇足であるが、シャーリー・コリンズの上述のボックスセット「Within Sound」 2002は、添付されたブックレットの内容の豊かさとアートワークの素晴らしさは特筆もの。

[追記]
1.については、2006年に発売された自然保護をテーマとしたオムニバス作品「Live In Hope: The Wild Life Album, Vol.2」にてCD化された。

[2016 追記]
2016年ロンドン北を本拠地とする独立系レーベル、アースレコードは、2010年代の後半より「Moonshine」1973 S8や、80年代以降の作品のリイシューを手掛けており、2016年4月16日「Record Store Day」(ネット販売の大手ショップに対抗するため小さなレコードショップが始めたイベントで、毎年4月第3水曜日に世界同時開催される。そこでは各アーティストの賛同を得た限定盤が販売され、特に近年再評価されているビニール盤の製作が顕著)のための1,000枚限定シングル・レコード盤として「Black Birds Of Brittany 」 の復刻版を制作、日本ではディスクユニオンで販売された。表紙デザインを担当したHannah Alice氏は、2009年 Camberwell College of Arts卒業の若手イラストレイターで、ケンブリッジ大学関連の施設などで商業イラストを提供している。動物や鳥を描くことが好きとのことで、日本画を思わせる淡くシンプルな描き方の中に、対象物に対する秘めた思いが感じられる。彼女はのちに発表される「Avocet」 S15の復刻でもイラストを提供している。

なおB面はオリジナルとは異なり、「Cuckoo」という曲が収録されている。1976年スウェーデンのテレビ番組のライブが音源とのことであるが、「The Guitar Artisty Of Bert Jasch Conundrum In Concert 1980」 のボーナス映像 O13 と同じものだ。バートとマーチン・ジェンキンスの活動記録から、レコード盤に記載されている「1976年」は誤りであるのは明らかで、1978年が正しいと思われる。「Cuckoo」という曲名であるが、後に発表されるアルバムのタイトル曲「Avocet」の原曲にあたる。詳細についてはO13を参照ください。

 
O15 Now And Then 2009 [Mary Hopkin]  Mary Hopkin Music  
 


 
Mary Hopkin : Vocal
Bert Jansch : Guitar
Unknown : Cello

1. Crazy For My Sweetheart [Jansch]

Tony Visconti : Producer, Cello Arragement

Recorded probably between 1977 and 1979

 

メリー・ホプキン(1950- )はイギリスのウェールズ出身。メジャー・デビュー前は地元のフォーク・グループでウェールズ語のレコードを出している。タレント・コンテストに出演した彼女はポール・マッカートニーに認められ、彼のプロデュースでアップル・レコードから「Those Were The Days (悲しき天使)」でデビューし、全英1位、全米2位の大ヒットを記録する。その後もいくつかのヒットとアルバムを発表したが、1971年 2枚目のアルバム「Earth Songs」をプロデュースしたトニー・ヴィスコンティ (Tレックス、デビッド・ボウイ等のプロデュースで有名な人)と結婚した。

私にとってメリー・ホプキンは、アップル・レコードからデビューした清純・可憐な女性というイメージで、当時購入した「Those Were The Days」と「Goodbye」(レノン・マッカートニー作、全英2位、全米13位)のシングルをいまだに持っている。日本人受けする繊細な容姿と、1970年の大阪万博で来日してコンサートを行ったことで、日本での人気が高かった人。しかし彼女はデビュー時のポップな音楽には違和感があったようで、「Earth Songs」から本来の姿であるブリティッシュ・フォークの世界に戻ったが、その後アルバムを発表できず、引退状態となってしまう。それは結婚だけでなく、ファンの期待と自身の音楽性とのギャップ、前後して発生したアップル・レコードの内紛(当時ジェイムス・テイラーも追い出された)等の複合的な要因があったと思われる。

メリーは頻度が少ないながらも、夫のプロデュース作品のゲストで歌ったり、音楽イベントへ参加していたという。自らレコーディングも行ったが、不幸なことにそれらの作品はレコード化に至らず、お蔵入りとなってしまった。1981年に離婚した後もメリーは地味ながらも音楽活動を継続。そして2005年になって、成長した娘が Mary Hopkin Musicを設立、メリーの未発表作品を収録した自主制作盤の宣伝・販売を始めた。その3枚目のCDが本作「Now And Then」2009 であり、そこにはバートが作詞・作曲し、彼のギター伴奏でメリーが歌う 1.「Crazy For My Sweetheart」が収められている。

夫のトニーがプロデュースしたメリーのアルバム「Earth Songs」1971 にダニートンプソンが、ラルフ・マクテルのアルバム「Not Till Tomorrow」1972にメリーが参加した(両者の音楽交流はその後も長く続く)などの関係で、バートとの交流が始まったものと推測される。音源としては、トニーが音楽監督を務めたバートの「Moonshine」 1973 S8へのゲスト参加、BBCラジオで放送された1977年ケンブリッジ・フォーク・フェスティバルでのバートとのライブ録音がある。後者の模様は、2022年発売の「Bert Jansch At BBC」 S36に収められた。このアルバムには詳細極まりない解説が付いていて、その中にバートに関わったアーティスト達による寄稿コーナーがあり、そこにメリーも賛辞を寄せている。その末尾に「バートにギターを弾いてもらった」と書かれており、それで本アルバムの存在を知りました。2009年に出されたアルバムの存在を10年以上も知らなかったとは、不覚の至りですな....... でも、どこか世の中で私が知らない曲が眠っている事を考えると、なんだかワクワクしますね。

CDジャケットには、曲毎の作者と参加ミュージシャンの名前の表示があるが、残念なことに録音日の記載がないため、1970年〜1980年代としかわからない。そこで当曲につき、以下の点から録音日を1977年〜1979年と推定した。

@ プロデューサー、チェロ・アレンジのトニー・ヴィスコンティがメリーと離婚したのは、1981年なので、それ以前
A 本アルバムの中に、もうひとつチェロが入っている曲「Brown Eyes And Me」があり、そこにはトニーの役割として 「Cello and synth string arragement」と表示されており、シンセサイザー使用という意味では1970年代の後半以降と思われる
B バートのギター演奏スタイルが、1970年代後半以降のものに聞こえる
C この曲のメロディーが、バートのアルバム「Thirteen Down」1979 S16の「Single Rose」のヴァースの前半部分、同じく 「Where Did My Life Go」のコーラス部分とよく似ている。すなわち、本曲がお蔵入りになったことを受けて、バートがメロディーの一部を使って別の曲に書き直したものと思われる
D バートとメリーがケンブリッジ・フォーク・フェスティバルで共演したのは、上述の通り1977年

状況証拠なので断言できないが、以上のとおり推定しました。

同アルバムに収められた他の曲を聴くと、彼女が演りたかった音楽がよくわかる。ポップ歌手のレッテルを貼られた彼女にとって、当時この音楽を売り込むことは難しかったかもしれないが、今偏見のない耳で聴くと、誠実で香り高い音楽であることがわかる。参加ミュージシャンも、マイク・ピゴー(ヴァイオリン)、ジェリー・コンウェイ(ドラムス)等のペンタングルのメンバーや、B.J. コール(スティールギター)、フィンガースタイル・ギタリストとしても有名なローレンス・ジュベー(ギター)、ブルース・リンチ(ベース)など、名高いセッション・ミュージシャンがバックを固めていて、デモやリハーサル・トラックでない、本気の演奏になっている。ちなみに本アルバム収録の「If You Love Me」は、エディット・ピアフの名曲「愛の賛歌」の英語版で、メリーの歌は意外なほどこの曲に合っている。なお、この曲とB面の「Tell Me Now」は、例外的に未発表曲ではなく、シングル・リリースされ、1976年に全英32位のヒットを記録している。

ローレン・オーバッハの例外を除き、バートが他人に曲を提供することは珍しく、曲・ギター演奏・歌唱すべて良い出来で、これがずっとお蔵入りになっていたなんて、もったいない。日の目を見てよかったね!

[2023年1月作成]


O16 In Concert (1991) [The Bert Jansch Conundrum] Shanachie Ramblin'80
   The Guitar Artistry Of Ber Jansch Conundrum In Concert 1980
(2011) Rounder Vestapol 13125









Bert Jansch: Guitar, Vocal
Martin Jenkins: Mandocello (3,4,5,6,9,10,11,12), Violin (1,2,7), Vocal (5,6,10,12)
Nigel Portman-Smith: Bass


1. Poor Mouth   S13 S17 S18 S19 S36-1 S36-3
2. Daybreak   S13 S14
3. Blues Run The Game [Jackson C. Frank]   S1 S11 S14 S17 S18 S25 S27 S29 S33 S36-1 S36-4 S36-4 S36-5 S36-7 S36-8
4. Bittern   S14 S15 S17
5. Ask Your Daddy   S16 S17 S18 S36-1
6. Running From Home  S1 S14 S17 S19 S23 S25 S36-1 S36-4 S36-5
7. Let Me Sing    S16 S17 S18 S19 S25 S27 S36-7
8. Blackwaterside   S4 S18 S18 S25 S27 S33 S36-4 S36-5 S36-6 P21 O11 O42
9. Martin Jenkins Mandocello Solo
10. Nightfall [Martin Jenkins]   S16
11. Sovay   S16 S19 P3 P9 P21 P21 P21
12. Alimony [Tommy Tucker]   S14 S17 S19

収録: Ohio University, Athens Ohio, 1980
9.はバート不参加

写真上: 1991年発売のオリジナル(ビデオ)の表紙
写真下: 2011年発売の再発盤(DVD Rounder Vestapol )の表紙


バート、マーティン、ナイジェルの3人編成によるコナンドラムのライブビデオ。ということで期待が大きかったのだが、録音に問題があるため、あまり楽しめる出来ではない。一番の問題はバートのギターの音に全く魅力がないこと。ひしゃげたような音でしか録音されておらず、これでは彼がかわいそうだ。第二にナイジェルのベースがオフになっていて、ほとんど聞こえないこと。したがってサウンドに厚みが全くなく、インタープレイの醍醐味を味わうことはほとんどできない。

ここでの一番の見ものは、マーティンの驚異的なマンドセロの演奏にある。ロブ・アームストロングの製作によるピックアップ付のマンドセロを駆使した演奏は圧倒的で、1980年の来日コンサートで観たときの驚きが鮮やかに蘇ってくる。9.はお得意のアイリッシュ・チューンのメドレー。ライ・クーダーで有名な12.「Alimony」がそのハイライトで、マーティンがリードボーカル、バートがハーモニーを取り、とても楽しい演奏。ちなみにナイジェルのフレットレス・ベースのヘッドストックにもアルファベットの「A」のインレイが輝いており、このコンサートではバートのギターも合わせて、3人ともアームストロング氏製作の楽器を使用しているようだ。

いろいろ悪口を言ったが、本作はバートのギター演奏をじっくり観ることができる映像として貴重であることは変わりない。特に名曲8.「Blackwaterside」における運指は目が釘付けになること請け合い。ちなみにこの曲のみ別のビデオ O5 で観ることができる (YouTubeでも観れます)。

[2011年9月追記]
本作は長らく廃盤となっていたが、2011年5月ステファン・グロスマン・ギター・ワークショップは、ラウンダーより本映像のDVDを再発した。そこではビデオよりもずっと良い音質・画質で楽しむことができる。バートのギターは相変わらずシャキシャキした音で、ふくよかさがないけど、音がクリアになって雑音がなくなった分、ナイジェルのベースラインが少し聴き取れるようになったのがうれしい。そしてDVD化にあたりボーナストラックとして1978年のスウェーデンのライブ、および1985年のドキュメンタリー(演奏は1975〜1976年頃のもの)の映像が収録されたことがハイライト。それらについての説明は、各O11、O13を参照ください。

[2024年9月追記]
収録場所につき情報がありましたので、追記しました。


O17 Ris-Orangis 1980 festival folk 10 mai et 150 ans  d'accordeon 18 et 19 avril (1980) Dahma (France)
 


Bert Jansch : Guitar
Martin Jenkins : Mandocello, Fiddle
Nigel Portman-Smith : Bass
Luce Langridge (Probably) : Drums

1. Una Linea Di Dolcezza *  S14 S16 S17
2. Kingfisher  S14 S15 S18 S19 S23 S27 P19 P22

収録: 1980年5月10日 Festival Folk De Ris-Orangis, France


いやはや、奇妙奇天烈なアルバムである。

このレコードの存在を知ったのは 2011年9月で、最初は得体が知れぬとして警戒していたのであるが、フランスの複数のインターネット・サイトで売りが出ていることを確認して、思い切って購入した次第。資料もレコード・ジャケットの解説もすべてフランス語なので不明な点が多いけど、わかった範囲で解説します。

リゾランジは、パリから電車で1時間ほど南に行った所にある町で、「リゾランジ賞」という競馬の名門レースで有名らしい。また郊外の町として蚤の市などの催物が開催されているそうだ。本レコードは当地での音楽フェスティバルの模様を収めたオムニバス盤で、4月18, 19日と、5月10日の録音からなる2枚組のアルバムだ。フランス国内のみで発売されたもので、ここに収録されている曲の大部分がミュゼットと呼ばれるフランス固有のアコーディオン音楽。楽器は我々がイメージするものと異なって鍵盤の代わりに多数のボタンがついており、そういう意味ではバンドネオンや、アイルランドのコンサーティナに通じるものがある。左手のボタンで和音を奏でながら、右手のボタンでメロディーを弾くスタイルで、ボタンの配列・押し方は論理的でなく、覚えるのは難しいという話を聞いたことがある。手軽に持ち運びができ、一人で伴奏もできるので、昔から人々がダンスをする際の楽器・音楽として発達したものらしい。ここに収録されているのは、アイリッシュ・チューンに良く似たテンポの速い曲が多く、フランスとケルト文化の共通点を見出すことができる。その他、アコーディオンによるモダンな曲もあれば、ジャンゴ・ラインハルトやデビッド・グリスマンのようなストリング・バンドによる演奏、フランス語によるトラディショナル・ソングも収められていて、大変地元色が強い内容になっている。

そんなアルバムの中、何故か2組だけ「Hot Rize」と「Bert Jansch」という他国のミュージシャンの演奏が収められている。アルバム製作の経緯は不明であるが、異色というよりも場違いと言ったほうがよいかもしれない。「Hot Rize」は、1970〜1980年代に活躍したプログレッシブなブルーグラスバンドで、ジム・ウェッブの「Whichita Lineman」、「Durhamms Reel」の2曲を火が出るような早いテンポで演奏している。そして我等がバート・ヤンシュは、ドラムス、ベースを含む「4人コナンドラム」での演奏だ。アルバムにはパーソナルの表示がないが、マンドセロ、フィドルはマーチン・ジェンキンス、フレットレス・ベースはナイジェル・ポートマン・スミスと断定できる。残るドラムスについては、アルバム「Thirteen Down」1979 S16 の録音に参加し、1980年録音の「BBC Radio 1 In Concert」1993 S19 にも参加していたルース・ラングリッジと思われる。アルバムの表示は、1曲目は「Bittern」となっているが間違いで、 「Una Linea Di Dolcezza」が正しい。4人コナンドラムによるこの曲のライブ演奏は、「BBC Radio 1 In Concert」 S19 に入っておらず、初めて聴くもので、ありがたい。2.「Kingfisher」は同じフォーメーションによる演奏が前述のライブアルバムに収録されており、そういう意味で別テイクとしてマーチンのフィドルソロや、ナイジェルのフレットレス・ベース・プレイの微妙な相違点を楽しむことができる。バートの2曲はいずれもインストルメンタルで、歌物が収められなかったのも不思議だ。

大変珍しいアルバムであるが、フランスの通販サイトを探せば見つかると思う。

[2011年11月作成]

O18 No More Sad Goodbyes (1983) [Jenny Beeching] Appaloosa AP029

O16 No More Sad Goodbyes

Jenny Beeching: Guitar, Vocal
Bert Jansch: Guitar
Alan Morgan: Double Bass

Dave Peabody: Producer

1. No More Sad Goodbyes



ジェニー・ビーチング (1950- ) については、1980年代にアルバムを3枚ほど出したこと以外に詳しい資料がない。インターネットで検索した限りでは、1998年に或るシンガーの CDにバンジョーとボーカルで参加した記録があったが、その後の活動記録は地味なようだ。ジャケットの写真のとおり大きな目が個性的で、意思の強さを感じさせる。音楽的にはブリティッシュ・フォークというよりも、アメリカのジャズやブルースのルーツを感じる人だ。この人の魅力はその歌声にあり、太く力強い低音とよく伸びる高音、所々で聞かせるきつめのビブラートが、ローラ・ニーロやジョニ・ミッチェルを連想させる。1.「No More Sad Goodbyes」は彼女の伴奏ギターにバートがからむシンプルな演奏で、別れの辛さを切々と歌っている。バートの演奏は控えめであるが、彼特有のタッチのギターの音ははっきり聞こえる。その他の曲はジャス調のものやカントリー、ブルースっぽいものもあり、華やかさに欠けるが変化に富んだ内容で聞き応え十分。

私が持っているのはレコード盤だが、後年 CDも発売されたようだ。


O19 Just Guitars (1984) [Various Artists] CBS 259469

O17 Just Guitars

Bert Jansch: Guitar, Vocal
Ralph McTell: Guitar

1. One Scotch, One Bourbon, One Beer [R. Toombs]
2. Is It Real ?   S18 S18 S19 S36-2 P22 O22
3. Anji * [Davey Graham] (With Ralf McTell)   S1 S2 S2 S10 S11 S14 S17 S29 S36-2 S36-4 S36-4 S36-4 S36-5 S36-7 S36-8

注)左の表紙写真は、左部にラルフ・マクテルのサイン付き


イギリスのボランティア活動団体「ザ・サマリタンズ」設立30周年を記念して行われた、1982年12月18日バービカン・センターにおけるコンサートのライブ。全英180 支店、2 万人のボランティアが 24 時間体制で人生に悩む人々の電話・訪問を受け付け、話の相手をするというカウンセリングを行う団体で、相手に押しつけがましい助言をしないことをモットーとする。1983年の年間のコールは2百万件に達したという。

当団体に賛同したアーティストが参加したコンサートには、バートの3曲の他にラルフ・マクテルが5曲、ジャズ畑のアール・オーキンが3曲、フラメンコのジュアン・マーチンが3曲、クラシックのジョン・ウィリアムスが2曲(以上は各他のアーティストとの共演を含む曲数なので、それらのトータルは本作の収録曲数の12曲を上回る)収録されている。1.「One Scotch, One Bourbon, One Beer」はバートがミッキー・ベイカーと1978年に初来日した際に2人の共演として演奏していた曲で、公式発表音源としては本作が唯一のもの。エイモス・ミルバーン1953年の録音がオリジナルで、ジョン・リー・フッカーやニューオリンズの盲目ブルースマン、スヌークス・イーグリンの演奏でも有名な曲で、グルーブ感あふれるブルース・ギターが聴ける。2.「Is It Real ?」は S18でおなじみ。バートの声には伸びがあり、ギターの切れ味も良い。デイビー・グレアムの歴史的名曲 3.「Anji」は、名手ラルフ・マクテルとの夢の共演。弾き始めると観客から拍手が起こる。ただし二人ともほぼ同じフレーズを弾いているので、演奏面ではこれといったものはない。

なお本コンサートのプロモーションのために、バート・ヤンシュとラルフ・マクテルがBBC放送の「Rusell Harty」という番組に出演し、「Anji」を弾いた映像が残っている(「その他音源・映像」のコーナーを参照してください)。

[2012年7月追記]
バートの事ではないけど、2012年にアール・オーキンのCDが日本で発売され、静かなブームになっているとのことなので、彼のトラックについても、ちょっと言及します。

上述では「ジャズ畑」と書いたが、アール・オーキン(Earl Okin, 1947- )は、ボサノヴァの弾き語りを得意とするシンガー・ソングライターで、彼の曲はシラ・ブラック、ヘレン・シャピロ等に録音されている。彼が有名になったのは、ポール・マッカートニーが彼の才能を認めて、1979年のウィングスのツアーに前座として起用してからで、その後コメディアンとしても頭角を現わし、テレビ番組にも多く出演している。本LPで彼が参加しているトラックは3曲。「If I Could Be With You One Hour Tonight」はスタンダード・ジャズ風の曲で、カズーのようなものを使ったマウス・トランペットの間奏が冴えている。「Mango」は傑作。ダブルミーニングに満ちたエッチな歌で、クールなナイロン・ギターと、ボーカルが最高。観客はクスクス笑っている。ジョアン・マーチンとのデュエットによるインストルメンタル「Shoro」は、「Sons De Carrilhoes (Sound Of Bells)」という名の曲で、ブラジルのショーロとしては最も有名なもの。もともとはギターの独奏曲であるが、ここではアールのボサノヴァ伴奏で、ジョアンがメロディーを弾いている。本LPにおけるアールの存在感はかなりのものだと思う。

[2023年12月追記]
「One Scotch, One Bourbon, One Beer」の出所について追記しました。



O20 Full Moon (1984) Cliff Aungier〕 ARIES ALP001


O18 Full Moon

Cliff Aungier: A.Guitar, Vocal
Bert Jansch: A.Guitar
Dzal(David) Martin: E. Guitar, N. Guitar
Nigel Portman-Smith: Bass,
Clive Bunker: Drums

Roger Hand: Producer

1. Come Back Baby [Trad.]   S1 S5 S14 S18 S27 S29 S33 S36-1 S36-6 S36-8 P19 O13


古くからの音楽仲間で友人でもあるクリフ・オンジャー(こういうふうに読むのかな?)のソロ・アルバムにゲスト参加。バック・ミュージシャンはそうそうたる顔触れで、ラルフ・マクテル、ナイジェル・ポートマン・スミスやマイク・ピゴー、アルバート・リー等、バートに関連の深い人々の名も多い。本作以外でのクリフとバートの共演は、ローレン・オーバッハのソロアルバム「Playing The Game」1985 O22 での2曲で、一緒にギターを弾いている。フォーク音楽のみならず、エレキ・ギターを多用したロック調、カントリー調の曲が多く、かなりアメリカ的なサウンド作り。そのせいか、ギター・歌はうまいが今ひとつ個性に欠けるようだ。バート自らもカバーしているブルース・スタンダードの1曲に参加。前半はアコギによるギンギンのブルース。後半はアップテンポになり、リズムセクションとエレキギターが加わって、ライ・クーダーのようなサウンドになる。バートのギターは後半部分で、彼独特のタッチの音を聴き分けることができる。

[2022年11月追記]
クリフ・オンジャー氏は、2004年に亡くなったとのことです。


O21 After The Long Night (1985) Christabel CRL001


[Loren Auerbach, Bert Jansch With Presence]

Bert Jansch: Guitar
Richard Newman: L.Guitar, Vocal (5)
Dave Newnan: Bass
Dave Phillips: Violin (3,5)
Bemle Hunte: Additional Vocal (3)

[Side A]
1. The Rainbow Man (R. Newman)
2. Frozen Beauty (R. Newman)
3. Christabel (R. Newman)
[Side B]
4. So Lonely (R. Newman) 
5. Journey Of The Moon Through Sorrow (R. Newman)


        

O22 Playing The Game (1985) [Loren Auerbach]  Christabel CRL002







Bert Jansch: Guitar, Vocal (4)
Richard Newman: L.Guitar
Brian Knight: Harmonica
Geoff Bradford: A.Guitar, E.Guitar
Cliff Aungier: A.Guitar (3,6,8)
Tim Wheater: Flute
Charlie Francis: Bass
Nigel Portman Smith: Bass (6)

Producer: Loren Auerbach

[Side A]
1. Carousel [Bert Jansch]
2. Weeping Willow Blues [Trad.]  S5 S36-7
3. Give Me Love  [Bert Jansch]
4. I Can't Go Back [R. Newman]
5. Smiling Faces [R. Newman]
[Side B]
6. Yarrow [Trad.]  S8 P14 P19 P22
7. Playing The Game [R. Newman]
8. Is It Real ? [Bert Jansch]  S18 S18 S19 S36-2 P22 O19
9. Sorrow [R. Newman]
10. Days & Nights [R. Newman]

10.のみバート不参加

注)下の写真はO21 O22 を1枚に収録したCD再発盤


英フォーク、ロック界の実力者プロデュサー、リチャード・ニューマンとバート・ヤンシュを従えて、自らのプロデュースで上記1枚半のアルバムを自主レーベルで製作したローレン・オーバッハ(1963-2011 多分こういう読みと思うけど)は当時学生だったそうで、その後は大学に戻り、執筆と教育関係の仕事に専念する。その後もバートとの交流は続き、1999年ついに年齢差を克服して二人は結婚。ローレン・ジャンシュと名乗るようになったが、この人の詳しい経歴は不明。

サウンド自体にトラッド臭さはなく、当時のシンガー・アンド・ソングライターとして普通の音作り。1曲を除きバートのギター伴奏が活躍、あの独特なタッチをはっきり聞き分けることができる。リード・ギタリストは泣きのプレイでかなりロックしており、全体的に哀愁あるサウンド。当時彼女は20代初めのはずだが、どちらかと言うと年齢不詳タイプ。彼女の歌は張りがなく声量も乏しい。またジャッキー・マクシーの様な存在感もなく、イマイチ魅力に欠ける。ただし一生懸命歌おうとする誠実な姿勢と旺盛な自己顕示欲はひしひしと感じられるので、まあ良しとするか。

5曲入りのミニアルバムである「After The Long Night」のなかでは、2.「Frozen Beauty」、4.「So Lonely」の出来がよい。彼女には悲しみや寂しさを歌う曲のほうが合っているようだ。5.「Journey Of The Moon Through Sorrow」のみ、何故かリチャード・ニューマンがリード・ボーカルをとる。

続いて製作された「Playing The Game」はバートが主導権をとったようで、いくつか興味深い曲がある。2.「Weeping Willow Blues」はバートの「Nicola」 1967 S5 収録曲のカバー。途中にフォーク・ブルースでお馴染みの曲「Corina, Corina」の1節が出てくる。バートのギターが目立っている。4.「I Can't Go Back」は、ローレンとバートが掛け合いでリードボーカルを担当する。5.「Smiling Faces」はメロディーと、リチャードのスライド・ギターによるリードが魅力的。6.「Yarrow」は本作唯一のブリティッシュ・トラッドで、バートの「Moonshine」 1973 S8やペンタングルで取り上げていた曲。ナイジェルがベースを担当、本作の中では最もバートらしいサウンドが出た曲だ。7.「Playing The Game」はペンタングルの「In The Round」1986 P15収録曲とタイトルがほぼ同じだが、全く異なる曲。8.「Is It Real ?」は、「Heartbreak」1982 S18 収録曲のカバーで、パワフルなアレンジが良い出来。なお本作1.「Carousel」、3.「Give Me Love」はバートの作詩・作曲で、本人の演奏では未発表であるが、曲の出来としてはまあまあ。なおメンバーの中に友人クリス・オウジャー(共同プロデュースを担当、彼のソロアルバム O20ではバートがゲスト参加している)やナイジェル・ポートマン・スミスなどのバート人脈を見かける。ちなみにバートとリチャード・ニューマンは仲が良くなかったようだ。

上記2作は長らく廃盤となっていたが、1996年に上記2作が1枚のCDに収められて、同じ自主レーベルより再発売された。当該CDでは1曲毎のパーソネルが明らかになり、O21 は全曲、O22 においてはバートが1曲を除きすべてに参加していることが明らかとなったO22 5.「Smiling Faces」のタイトルはCDでは「The Miller」となっているが、レコードと全く同一録音。従って本CDにはオリジナルLPに未収録の曲やテイクは含まれていない。

[2011年12月追記]
ローレン・ジャンシュ氏は、2011年12月9日、ガンのため永眠されました。2011年10月5日にバートが亡くなってから僅か2ヶ月の事でした。ご両人の冥福をお祈り申しあげます。


O23 Colours Are Fading Fast (2016) [Loren Auerbach]  EARCD012 
 

Disc 1 : After The Long Night (Same As O21)
Disc 2 : Playing The Game (Same As O22)


Disc 3 : In Moonlight's Grace (Unheard & Unreleased)

Loren Auerbach: Vocal
Bert Jansch : Acoustic Guitar
Richard Newman: Acoustic Guitar, Lead Guitar, Vocal, Producer

1. Snowflakes
2. Just As Before
3. Leaving Station
4. Jody
5. Set You Free
6. Nothing To Improve
7. Tam Lin [Traditional Arranged by Dave Swarbrick]
8. Man Of The World [Peter Green]
9. The Bank Of The Nile
10. There's A Man I Know

Recorded at Heath Studios, London between October and Novemeber 1988



バートと奥さんのローレンが亡くなってから5年が経った2016年、ロンドンを本拠地とする独立系レーベル、アースレコードからローレンが1985年に発表したアルバムに未発表曲を加えた3枚組のセットが発表された。最初は2016年4月16日「Record Store Day」用にLPレコード仕様で、その後CDが発売された。

ローレンについては資料がないが、本アルバムに短い賛辞を寄せたジェラルディン・オーバッハはローレンのお母さんで、イギリスでジューイッシュ音楽の普及に努めた功績でロンドン大学の名誉フェロー称号を贈られた人であることがわかった。彼女は南アフリカ生まれで、1962年に医者と結婚してロンドンに移り、オーバッハ姓を名乗るようになる。地元中学校の教壇に長年立ちながら、1980年代よりジューイッシュ音楽の普及活動に関わり、その分野でイギリスを代表する存在になったという。ということで、ローレンはジューイッシュであることがわかり、彼女のエキゾチックな容貌の背景が明らかとなった。

本CDセットには解説がついていないので、各曲の作者については不明。曲想はO21, O22と同じなので、トラッドの7. とフリートウッド・マックのカバー 8.を除き、リチャード・ニューマン作かもしれない。彼女の歌は、相変わらず滑舌の悪いくぐもった声で、エモーションが前面に出ず内省的な感じがするが、聴き込むとそれを個性として捉えることもできる。O22 のようにジャケット見開きに歌詞が掲載されていないと、彼女の歌は日本人には聞き取りにくいね(おそらく現地人にも全部理解するのは難しいかも?)。

「In Moonlight's Grace」と題された3枚目のCDは、1988年に録音された未発表音源とのことで、ジャケットに記載されたクレジットには、リチャードニューマンとバートのギターしか載っていないが、他の楽器もしっかり入っている。3枚目のアルバム製作のために録音されたが、結局アルバム製作までには至らずお蔵入りになっていたもの。その後ローレンは学業に専念して学位をとり、北欧神話を研究する学者になった。後の1998年に「Saga Of The Norsemen: Viling And German Myth」 という、その分野ではかなり有名な本を刊行している。そしてバートとの再会は1994年で、その後親交を深めて1999年に結婚した。

1.「Snowflakes」は、二人のギターにバイオリンのように聞こえるエフェクトを効かせたエレキギターが入った編成。2.「Just As Before」にはフレットベースが入り、2台のギターとのコラボレイションが良い感じ。「In Moonlight's Grace」というタイトルは本曲の一節から採ったもの。この2曲では、バートらしいギター伴奏を楽しめる。3.「Leaving Station」はアコギ以外にウッドベースとエレキギター、背景にシンセサイザーが入る。4.「Jody」は、アコギ、エレキギター、ベース、ドラムスによるバンド編成。ロンドンのホームレスの事を歌ったシンプルな歌詞なので聞き取りやすい。5.「Set You Free」もフルバンドによるバック。デモようなラフな演奏であるが、ローレンのボーカルにはオーバーダビングが施されている。6.「Nothing To Improve」で聞こえるアコギは、ピックによるリズムカッティングであり、バートはこの曲には不参加と思われる。7.「Tam Lin」は、P21と同じトラッドを題材としたもの。ここではP21のように物語を現在に置き換えたものでなく、スコットランドの古いトラッドをアレンジした1969年のフェアポート・コンヴェンションのアルバム「Liege & Lief」でサンディー・デニーが歌っていたヴァージョン。フルバンドの中で聞こえる控えめなアルペジオはバートかな?子供の声によるバックコーラスが面白い。8.「Man Of The World」は、初期のフリートウッド・マックに在籍したギタリストのピーター・グリーン (サンタナの「Black Magic Woman」の作者としても有名)が作曲し、1969年にシングルで発売された曲で、アルバム未収録曲となったため、その後はベスト盤やボックスセットに収められた。シンプルなエレキギターのコードストロークとアコギのバックによる出だしがデモ演奏のように聞こえるが、次第にスライドギター、ベース、ドラムス、果てはピアノまで加わり本格的になってゆく不思議な演奏。9.「The Bank Of The Nile」は「Take Two」という掛け声から始まる。2台のアコギを中心した落ち着いた感じのバックが良い感じ。10.「There's A Man I Know」はスタジオトークやテープ回し始めノイズが前後に入る。他の曲よりもエコーが薄めで、その分ローレンの歌もクリアに聞こえるが、ここでのアコギはピック弾きでバートらしくない。

全曲につき歌詞を付けて欲しかった!

[2017年1月作成]

[2022年4月追記]
ローレンについての資料を見つけましたので、追記しました。


O24 Woody Lives ! (1987) [Various Artists] BLACK CROW CRO217





Bert Jansch: Guitar, Vocal (1)
Rod Clements: Guitar, Mandolin, Bass
Rory McLeod: Guitar, Harmonica, Vocal (2,3)
Pat Rafferty: Accordion

Geoff Heslop: Producer
Woody Guthrie: Cover Illustration

1. This Land Is Your Land S36-3
2. Deportees
3. Do Re Mi 



アメリカの偉大なるフォークシンガー、ウッディー・ガスリーの没後20年を記念して、イギリスのマイナーレーベル、ブラック・クローで制作されたトリビュート・アルバム。当時アルコール依存症のため心身ともに不調だったバートの面倒をみたロッド・クレメンツの紹介によるもので、バートはその後同レーベルで「Leather Launderette」1988 S22を制作する。

当時のウッディーやレッドベリーの音楽をルーツとしたスキッフルがイギリスで大流行し、その後にブルース(ロックに進化)とフォーク(トラッドと融合)に分化してゆく過程が背景にあり、ウッディーがイギリス音楽に与えた影響の大きさは計り知れないという。バートは代表曲1.「This Land Is Your Land」を歌うが、ウッディーに対する敬意が感じられる控えめな演奏。他の2曲はギターのみでの参加であるがバンドの中に埋もれてほとんど目立たない。2.「Deportees」は不況時に土地を失って棄民となった人々を歌い、スタインベックの名作「怒りの葡萄」を彷彿させる作品。ボブ・ディランが70年代のローリングサンダー・レビューでジョーン・バエズとデュエットで歌い、テレビスペシャル「Hard Rain」の映像が残っている他、ブートレッグ・シリーズとして発売された同ツアーのライブ盤にも収録されていた。3.「Do Re Miはライ・クーダーによる演奏が有名で、タイトルは「お金」を意味する俗語。

なお本作のジャケットの漫画はウッディー自身によるもので、彼は風刺漫画家としてもかなり才能があったようだ。ちなみに本作の収益は、ウッディーの命を奪った不治の病ハンチントン舞踏病(筋肉が次第に麻痺してゆく難病)の治療研究機関に寄付された。


O25 Reaching Out (1987) [Maggie Boyle] Run River RRA003





Maggie Boyle: Vocal, Flute (2)
Bert Jansch: Guitar
Steve Tilston: Guitar (1)
Tommy Keane: Whistlers
Jacqueline McCarthy: Concertina
Tony Hinnigan: Cello
Michael Klein: Percussion, Back Vocal

Michael Klein: Producer

1. The Proud Man [Steve Tilston]
2. Lawland Of Holland [Trad.]



マギー・ボイルは第2期ジョン・レンバーン・グループのメンバーで「Ship Of Fools」1988 にも参加している人。バートが大好きなシンガーとのことで、彼女との活動も多く、「The Ornament Tree」1990 S24 にフルート等で、「When The Circus Comes To The Town」 1994 S26にはバックボーカルとして参加している。また1996年秋には夫君でもあるスティーブ・ティルストンとともにバートのツアーに同行し来日を果たした。

彼女のファースト・ソロ・アルバムは、スティーブ・ティルストンの全面協力により製作され、バートも2曲ゲスト参加している。本作品はバートのソロアルバム「The Ornament Tree」1990 S24 と同じ、Run River というレーベルから発売されており、そのためかサウンドもよく似ている。彼女の歌声はジャッキー・マクシーをもう少し太くした感じで、知的な美しさと存在感はとても魅力的。上記の2曲のなかでは、バートのギター伴奏のアルペジオがとてもきれいでメロディーも美しい 2.「Lawland Of Holland」が断然よい出来。

2曲と言わず、もっといっぱい参加してくれればよかったのに……と言いたくなる作品である。


O26 Master Craftsmen (1989) Various Artists〕  Marco Polo








Bert Jansch: Guitar, Vocal
Peter Kirtley: Guitar

Gordon Giltrap: Producer
         
1. The Parting  S25

注) 写真上: Nico Poloによるオリジナル・レコード盤ジャケット
   写真下: Tera Nova Records による再発CD盤ジャケット


フェアポート・コンヴェンション(再結成)やジェスロ・タルのメンバーとして著名なマルチ奏者マーチン・オルコックと、ギタリストのゴードン・ギルトラップの発案により製作されたギター製作家ロブ・アームストロングへのトリビュート・レコードで、バートは自作曲で参加した。ロブはイギリスのコベントリーに工房を持ち、現在も活躍中。極めて個性的なデザインのギターおよび、その他の様々な弦楽器を製作、プロミュージシャンに愛好家が多い。本作には上記二人の他に、フェアポートのオリジナルメンバー、サイモン・ニコルや、キャロル・キングの名曲「Goin’ Back」を素晴らしいアレンジでカバーするヴィッキー・クレイトン、そして以前バートと一緒に活動したことのあるマーチン・ジェンキンスが愛器マンドセロで2曲参加している。ロブ・アームストロングについてはO16、S17を参照のこと。

収録曲 1.「The Parting」は長年連れ添った恋人シャルロットとの別れをテーマにしたもので、歌詞、メロディー、演奏いずれもバッチリの佳曲となった。5分30秒の長い曲であるが、あっという間に終わってしまう感じがする。当時彼はアルコール依存症によるスランプからの回復途上にあり、落ち込んでいた人生が好転し始めた頃で、別れの悲しみと共に再生の意気込みも感じられる。ここで素晴らしいリードギターを弾いているのは、以前から飲み友達だったというピーター・カートレイで、バートとの録音は本作が初めてだ。その後彼はバートの音楽パートナーとしてS23などのソロアルバムに参加、またペンタングルの一員としてP17〜19でギターを弾いている。

ギター製作者へのトリビュート盤ということもあり、各ミュージシャンの演奏が非常にクリアーな音で録音されていて、楽曲のレベルも高くお勧め盤である。

当時私は、このLPの発売の噂を知っていたにもかかわらず、買い逃してしまい残念がったものだ。その後 Tera Nova Records が許可を受けて1999年にCD化したことにより、めでたく入手可能となった。ただしジャケットのデザインはLPとCDで異なる。当時、CD購入希望の人はホームページに記載されたアドレスに代金を送金小切手で送ると、郵送してくれた。