1990年  「New Moon」 (1990/6/21発売) の頃    
きかせてあげたい NHKみんなのうた Various Artists (1990)  アポロン音楽工業  



1. コロは屋根のうえ [作詞作曲 大貫妙子] CD2-2曲目

古川葉子: Vocal

1990年5月21日発売

1. Koro Wa Yane No Ue (Koro's On The Roof) [Words & Music: Taeko Onuki] CD2-2nd track by Yoko Furukawa from the album of various artists "Kikaseteagetai NHK Minnna N Uta" (I Want You To Listen NHK Everybody's Songs)" May 21, 1990
 
 
「コロは屋根のうえ」は、「みずうみ」1983、「メトロポリタン美術館」1984に続く大貫さん三作目の「NHKみんなのうた」で、初回放送は1986年12月〜1987年1月。大貫さんが歌ったオリジナル録音は、1991年6月に発売されたベスト・アルバム「Pure Drops」に収められている。子供向けの歌でありながら、大人も楽しめるファンタスティックな歌詞とメロディーを持った曲だ。当時「NHKみんなのうた」曲集が多くのレコード会社から発売されたが、契約の関係でオリジナル録音を使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが通例だった。以前はミュージック・テープを販売していたアポロン音楽工業が制作した本作CDでは古川葉子が歌っている。

彼女は、同社から発売された他の「NHKみんなのうた選集」アルバムの多くで、いろんな曲を歌っている。それ意外は彼女に関する資料がないことから、一定分野に特化したアポロンの専属歌手だったようだ。

編曲者のクレジットはないが、ほぼオリジナル通りの伴奏(キーも同じ)なので、同一譜面を使っているものと思われる。

なお本曲が収めらた2枚組CDのCD2-17曲目には1988年初出の井上美哉子による「メトロポリタン美術館」も収められている。この手の録音は、別のアルバムに使い回されることが普通なので、本曲についても本CDよりも以前の収録アルバムがあるかもしれない。

[2024年9月作成]


  
ピーターラビットとなかまたち 第1集 Various (1990)  東芝EMI  
 

















1. 主題歌「ピーターラビットとわたし」 歌:大貫妙子(作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)歌 大貫妙子
2. イメージ曲「ピーターラビットのおはなし」 インストルメンタル (作曲 森山良子 編曲 溝口肇)
3. 朗読 「ピーターラビットのお話」朗読:五十嵐淳子(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
4. イメージ曲「ベンジャミン バニーのおはなし」 インストルメンタル (作曲 森山良子 編曲 中西俊博)
5. 朗読 「ベンジャミン バニーのおはなし」朗読:森本レオ(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ))
6. イメージ曲「フロプシーのこどもたち」 インストルメンタル (作曲 森山良子 編曲 溝口肇)
7. 朗読 「フロプシーのこどもたち」朗読:渡辺美佐子(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
8. エンディング・テーマ 「ピーターラビットとわたし〜スロー・バージョン」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)チェロ 溝口肇

黄色字: 大貫さんが関わったトラック

大貫妙子: Vocal (1)
清水信之: Synthesizer (1,8) Other Insturuments (1)
田端元: Synthesizer Operation (1,8)
菅野洋子: Piano (6)
古川昌義: Guitar (2,4,6)
斎藤誠: Bass (2)
渡辺等: Bass (6) 
山川恵子: Harp (2)
悌郁夫: Marimba (2), Percussion (6)
溝口肇: Chello (2,6,8)
中西俊博: Violin (4)
桑野聖: Violin (4)
十亀有子: Flute (2)
一戸敦、須賀昭雄: Flute (4)
山根公男: Clarinet (2)
正司和夫: Oboe (2)
大沢昌生: Fagott (2)

五十嵐淳子、森本レオ、渡辺美佐子: 朗読
吉田新一 (英文学者): 寄稿 「耳で文を聞き、目で絵を読み、想像力を使っておはなしを楽しむ絵本」

青字:大貫さんが関係するトラックに参加した人

1990年6月27日発売

お断り: 1.は大貫さんが自分の曲を歌っているので、本ディスコグラフィーでは「Various シングル・コンピレーション」の部に掲載すべきなのですが、作品の構成上「Composer」の部に記載することにしました。

写真上から
CD 「CDでたのしむピーターラビットとなかまたち 第1集」 1990年6月27日発売
CD 「ピーターラビットのSong Book」 1993年8月25日発売
Book 「The Tale Of Peter Rabbit」 英語版 初版は1902年出版
Book 「The Tale Of Benjamin Bunny」 英語版 初版は1904年出版
Book 「The Tale Of The Flopsy Bunnies」 英語版 初版は1909年出版

1. Shudai Ka "Peter Rabbit To Watashi" (Main Theme "Peter Rabbit And Me") [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Sung By Taeko Onuki
2. Image Kyoku "Peter Rabbit No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Peter Rabbit") Instrumental [Music: Ryoko Moriyama, Arr: Hajime Mizoguchi]
3. Rodoku "Peter Rabbit No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Peter Rabbit") Reader: Jyunko Igarashi [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
4. Image Kyoku "Benjamin Bunny No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Banjamin Bunny") Instrumental [Music: Ryoko Moriyama, Arr: Toshihiro Nakanishi]
5. Rodoku "Benjamin Bunny No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Benjamin Bunny") Reader: Leo Morimoto [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
6. Image Kyoku "Flopsy No Kodomo Tachi" (Image Song "The Tale Of The Flopsy Bunnies") Instrumental [Music: Ryoko Moriyama, Arr: Hajime Mizoguchi]
7. Rodoku "Flopsy No Kodomotachi" (Recitation "The Tale Of The Flopsy Bunnies") Reader: Misako Watanabe [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
8. Ending Theme "Peter Rabbit To Watashi〜Slow Version" (Ending Theme "Peter Rabbit And Me〜Slow Version") Instrumental [Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Cello: Hajime Mizoguchi

Blue: Tracks in which Taeko Onuki is involved

ベアトリス・ポッター(1866-1943)はロンドンの富裕家庭に生まれ、学校に行かずに家庭教師から教育を受けた。友人がいない孤独な環境に育ち、様々な動物をペットとして飼育・観察し、スケッチをする日々を送った。日記をつけ、親族にクリスマスカードを送ったり、家庭教師の子供等にお話しとスケッチを記した手紙を送っているうちに周りから認められるようになり、35歳の1901年に子供の頃から避暑地として過ごした湖水地方を舞台とした童話「ピーターラビットのおはなし」を自費出版し、好評を受けて翌1902年フレデリック・ウォーン社から商業出版されベストセラーとなった。以降ウォーン社から年に2冊出版されるようになり、その収入で1905年湖水地方のヒル・トップ農場を購入して自立し、親の束縛から解放されて当地に住みながら、その後も印税収入で土地や建物を買い増し、1913年(46歳)にその関係で知り合った弁護士と結婚した。その後は創作活動は少なくなり、農場経営や自然保護運動に力を注ぐようになる。前者ではハードウィック種という羊の保護・育成活動、後者では自然・建物の保護活動をナショナル・トラストへの参加などで功績を残し、死後に湖水地方の建物・土地はナショナル・トラストに寄贈された。自然・動物を愛し、優れた文学作品を残しただけでなく、農業または牧業の実践者としても功績をあげたという点で、日本の宮沢賢治との共通点が認められる。なお日本語翻訳の出版は意外に遅く、1971年の石井桃子(1907-2008) 訳・福音館書店出版が初めてである。私は彼女の作品が大好きで、大貫さんが1982年に「ピーターラビットとわたし」を発表した頃と同時期に、英語版の絵本やウェッジウッド製のマグカップと皿を購入し、好きが高じて80年代のイギリス旅行の際に、湖水地方ニア・ソーリー村にあるポッターの屋敷ヒルトップにレンタカーで訪れた思い出がある。

1990年東芝EMIは、版元フレデリック・ウォーン社および翻訳権を持つ福音館書店の許諾と協力のもと、多くの著名音楽家・俳優の参加を得て、彼女の絵本作品の大部分を収めた7枚組の音楽・朗読CDを発売した。タイトルは「ピーターラビットとなかまたち」で、正式にはその冒頭に「CDでたのしむ」が付いている。各CDには3つの「おはなし」の朗読が収録され、オープニングとエンディングに大貫さん作の「ピーターラビットとわたし」が、各「おはなし」の前には短いイメージ曲(インストルメンタル)が配されている。しかも各集のオープニングには1982年の作品にはなかった新しい歌詞が追加され、大貫さん以外の歌手が歌うという大変凝った構成になっているのだ。なお本CDは単発および福音館書店の本とセットとの2種類で発売されたが、当時の私は日本語版の本や朗読につき食指が動かなかったため、大貫さんの音楽が面白く展開されている事を知らず、実際に聴いたのはずっと後になってからだった。ちなみに本シリーズ発売から3年後の1993年に7枚のCDから音楽部分のみを抽出して1枚のCDにまとめた「ピーターラビットのSong Book」が発売されている。以下第1集から順次紹介してゆきたい。

第1集は大貫さん自らが歌う 1「ピーターラビットとわたし.」がオープニング。大貫さんのコメントの一部「10数年前、ウェッジウッド社のティーカップが出会いのきっかけでした。その後すぐに本を買い求めました」(こういう人が多いんですよね〜)。坂本龍一編曲によるアルバム「Cliche」1982収録のオリジナルに対し、ここでは清水信之がアレンジを担当。原曲のイメージを尊重しながら、シンセサイザーの刻みを微妙に変えている。また原曲の歌詞2番3分1秒に対し、ここでは歌詞1番のみの1分45秒と短くなっている。ちなみに本バージョンは後年2009年に大貫さんが発表したコンピレーション・アルバム「Palette」に「CD Book Version」として収められた。エンディングは清水信之と溝口肇(1960- 大貫さんのピュア・アコースティック・コンサートにも参加しているチェロ奏者)による同曲のインストルメンタル。原曲のシンセによるリズムを除いたクラシカルなアレンジによるスロー・バージョンとなっている。

朗読は「ピーターラビットのおはなし(The Tale Of Peter Rabbit 1902)」、「ベンジャミン バニーのはなし (The Tale Of Benjamin Bunny 1904)」、「フロプシーのこどもたち (The Tle Of The Flopsy Bunnies 1909)」の3つで、発行年より本CDの朗読は発行順ではなく、話の内容および収録時間に基づき配置されたものであることが分かる。朗読者は俳優の五十嵐淳子(1952- 女優、中村雅俊の奥さん)、森本レオ(1943- 俳優、ナレーター)、渡辺美佐子(1932- 女優)で、いずれも朗読で定評のある人たちだ。なお各「おはなし」の前(朗読中に音楽は入らない)にはイメージ曲として、クラシックのミュージシャンやシンセサイザーなどによる1〜2分の短いインストルメンタルが付されており、第1集では歌手の森山良子(1948- 彼女については説明不要)が作曲を担当している。彼女のコメントの一部「マグカップとお皿は子供用にと揃えましたが、こんなに素敵なお話があるって知りませんでした」。本CD制作当時は、日本におけるピーターラビットの知名度は今ほど高くはなかったようだ。

「おはなし」では、「フロプシーのこどもたち」でウサギの子供たちがレタスを食べて眠ってしまうシーンが興味深い。大貫さんの「ピーターラビットとわたし」の歌詞1番にも歌われていて、これは童話の世界なんだろうなと思っていたら、実際レタスに含まれるラクチュコピコリンという成分に催眠効果があるそうだ。

私は「おはなし」の鑑賞の際は英語版の絵本を広げて、本の英語と朗読の日本語を突き合わせて、その違いを楽しんでいる。

[2024年12月作成]

 
ピーターラビットとなかまたち 第2集 Various (1990)  東芝EMI 















1. 主題歌「ピーターラビットとわたし」 歌:沢田聖子(作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)
2. イメージ曲「こねこのトムのおはなし」 インストルメンタル (作曲編曲 山川恵津子)
3. 朗読 「こねこのトムのおはなし」朗読:小林聡美(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
4. イメージ曲「モペットちゃんのおはなし」 インストルメンタル (作曲編曲 山川恵津子)
5. 朗読 「モペットちゃんのおはなし」朗読:高泉淳子(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
6. イメージ曲「キツネどんのおはなし」 インストルメンタル (作曲 原由子 編曲 門倉聡)
7. 朗読 「キツネどんのおはなし」朗読:岡田真澄(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
8. エンディング・テーマ 「ピーターラビットとわたし〜ミディアム・バージョン」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)バイオリン 中西俊博

黄色字: 大貫さんが関わったトラック

沢田聖子: Vocal (1)
清水信之: Synthesizer (1,8) Other Insturuments (1)
田端元: Synthesizer Operation (1,8)
山川恵津子: Synthesizer (2,4)
迫田到: Synthesizer Programming (2,4)
門倉聡: Synthesizer (6)
菅原弘明: Synthesizer Programming (6)
ジェイク・E・コンセプション: Clarinet (2)
中西俊博: Violin (8)

小林聡美、高泉淳子、岡田真澄: 朗読
竹宮恵子 (漫画家): 寄稿 「"ペータ・ハーゼ"とイギリスの思い出」

青字:大貫さんが関係するトラックに参加した人

1990年6月27日発売

写真上から
CD 「CDでたのしむピーターラビットとなかまたち 第2集」 1990年6月27日発売
Book 「The Tale Of Tom Kitten」 英語版 初版は1907年出版
Book 「The Story Of Miss Moppet」 英語版 初版は1906年発売
Book 「The Tale Of Mr. Tod」 英語版 初版は1912年発売

1. Shudai Ka "Peter Rabbit To Watashi" (Main Theme "Peter Rabbit And Me") [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Sung By Sawada Seiko
2. Image Kyoku "Koneko No Tom No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Tom Kitten") Instrumental [Music & Arr: Etsuko Yamakawa]
3. Rodoku "Koneko No Tom No Ohanash" (Recitation "The Tale Of Tom Kitten") Reader: Satomi Kobayashi [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
4. Image Kyoku "Moppet Chan No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of ") Instrumental [Music & Arr: Etsuko Yamakawa]
5. Rodoku "Moppet Chan No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Miss Moppet") Reader: Atsuko Takaizumi [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
6. Image Kyoku "Kitsune Don No Ohanash" (Image Song "The Tale Of Mr. Tod") Instrumental [Music: Yuko Hara, Arr: Satoshi Kadokura]
7. Rodoku "Kitsune Don No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Mr. Tod") Reader: Masumi Okada [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
8. Ending Theme "Peter Rabbit To Watashi〜Medium Version" (Ending Theme "Peter Rabbit And Me〜Medium Version") Instrumental [Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Violin: Toshihiro Nakanishi

Blue: Tracks in which Taeko Onuki is involved
 

第2集は「こねこのトムのおはなし (The Tale Of Tom Kitten 1907)」、「モペットちゃんのおはなし (The Tale Of Miss Moppet 1906)」、「キツネどんのおはなし (The Tale Of Mr. Tod 1912)」 の3作品を収録。第1集の朗読が各10数分だったの対し、ここでは7分、3分、45分と時間にばらつきがある。文章の多寡については、文章のページに収める文字数を調整することで、同じページ数で対応することが可能であり、CDの場合は収録時間の制限の関係でこういう組み合わせになったのだろう。特に「キツネどんのおはなし」はページ内の文字がびっしりで、45分間におよぶ朗読を聴くにはかなりの体力が要る感じ。

大貫さんファンにとって面白いのは主題曲だ。「ピーターラビットとわたし」という同じタイトルであるが、第1集と歌詞が異なっていて、1982年のオリジナル・バージョンで歌われていた歌詞の第2番が相当していて、1番のみだった第1集に続くかたちになってる。しかも大貫さんでなく別の人が歌っていることがミソ。沢田聖子(1962- )は赤ちゃんモデルとしてデビューし、子供俳優・歌手としてドラマ、CM、童謡作品に多数出演。17歳の時に当時全盛期だったイルカのオフィスからフォーク歌手としてレコード・デビューし、その後もマイペースで活動を続けている。ここでの清水信之アレンジによる伴奏はクラシック調のスローなもので、第1集のエンディング・テーマと同じものであることがわかる。沢田のボーカルは素直な感じでなかなかいいね。それにしても歌詞のなかにある「ふるぐつはひだりあしに かたおもいして こいびとのみぎのくつに ふられました」という1節は、私が知るかぎりベアトリス・ポッターの著作にはない話で、大貫さんが創った世界なのかな?でもしっくりはまっているところが流石だ。

エンディング・テーマは「ミディアム・バージョン」という副題の通りビートが効いた伴奏で、これは第1集の主題歌の伴奏トラックと同じだ。そこでは大貫さんの「Pure Acoustic」1987やNHKテレビ番組「サマーナイト・ミュージック」1988でお馴染みの中西俊博(1956- )がバイオリンを弾いている。これで7枚のCDにおける「ピーターラビットとわたし」のバッキングトラックは2種類あってそれらを使い回していることがわかった。

イメージ曲2,4の作曲・編曲・演奏を担当している山川恵理子(1956-  )は、作曲家・編曲家・音楽プロデューサー・スタジオ・ミュージシャンで主にアイドル歌手系の仕事が多い人だ。そしてイメージ曲6の作曲・演奏はサザンオールスターズの原由子(1956- )が担当している。なおここでのイメージ曲は、第1集とは異なりシンセサイザーと打ち込みによる演奏になっているが、2.のみジェイク・E・コンセプションのクラリネットが入っていて、これが結構いい味を出している。

朗読者の小林聡美 (1965- )は女優、エッセイストで、テレビドラマ「3年B組金八先生」1979でデビューし、大林宣彦監督の傑作映画「転校生」1982の主役で地位を確立した人で、2000年代以降は大貫さんが音楽を担当した「めがね」2007、「マザーウォーター」2010、「東京アオシス」2011などのスローライフ系の映画の主演を務めるなど、大貫さんファンには馴染みの深い人だ。高泉淳子(1958- )は女優・劇作家・演出家で、男・女、子供・老人などあらゆる役を演じ分けることができ、歌も上手い人。岡田真澄(1935-2006)は俳優・タレントで日本人画家の父とデンマーク女性を母を持ち、外国人っぽい顔立ちとダンディーな振る舞いで人気を得た人だった。

この第2集から「ピーターラビットとわたし」の異なる人による歌唱が始まる。

[2024年12月作成]

 
ピーターラビットとなかまたち 第3集 Various (1990)  東芝EMI 
 









1. 主題歌 「ピーターラビットとわたし〜まちねずみジョニー」 歌:ラジ(作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)
2. イメージ曲「2ひきのわるいねずみのおはなし」 インストルメンタル (作曲 西村由紀江 編曲 岡本洋)
3. 朗読 「2ひきのわるいねずみのおはなし」朗読:堺正章(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
4. イメージ曲「のねずみチュウチュウおくさんのおはなし」 インストルメンタル (作曲 西村由紀江 編曲 岡本洋)
5. 朗読 「のねずみチュウチュウおくさんのおはなし」朗読:渡辺えり子(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
6. イメージ曲「まちねずみジョニーのおはなし」 インストルメンタル (作曲 西村由紀江 編曲 岡本洋)
7. 朗読 「まちねずみジョニーのおはなし」朗読:C.W. ニコル(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
8. エンディング・テーマ 「ピーターラビットとわたし〜スロー・バージョン」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)チェロ 溝口肇 (第1集 8. と同一録音)

黄色字: 大貫さんが関わったトラック

ラジ: Vocal (1)
清水信之: Synthesizer (1,8), Other Insturuments (1)
田端元: Synthesizer Operation (1,8)
西村由紀江: Piano (4,6)
斎藤誠: Bass (2)
篠田淳: Harp (6)
川村正明: Oboe (4)
金子ストリングス: Strings (2,4,6)
溝口肇: Cello (4,8)

堺正章、渡辺えり子、C.W.ニコル: 朗読
猪熊葉子(英文学者): 寄稿 「ポターランドに至る道」

青字:大貫さんが関係するトラックに参加した人

1990年6月27日発売

写真上から
CD 「CDでたのしむピーターラビットとなかまたち 第3集」 1990年6月27日発売
Book 「The Tale Of Two Bad Mice」 英語版 初版は1904年出版
Book 「The Tale Of Mrs. Tittlemouse」 英語版 初版は1910年発売
Book 「The Tale Of Johnny Town-Mouse」 英語版 初版は1918年発売

1. Shudai Ka "Peter Rabbit To Watashi〜Machi Nezumi Johnny" (Main Theme "Peter Rabbit And Me〜Johnny Town-Mouse") [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Sung By Rajie
2. Image Kyoku "Nihiki No Warui Nezumi No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Two Bar Mice") Instrumental [Music: Yukie Nishimura, Arr: Hiroshi Okamoto]
3. Rodoku "Nihiki No Warui Nezumi No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Two Bad Mice") Reader: Masaaki Sakai [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
4. Image Kyoku "Nonezumi Chu-Chu Okusan No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Mrs. Tittlemouse") Instrumental [Music: Yukie Nishimura, Arr: Hiroshi Okamoto]
5. Rodoku "Nonezumi Chu-Chu Okusan No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Mrs. Tittlemouse") Reader: Eriko Watanabe [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
6. Image Kyoku "Machi Nezumi Johnny No Ohanash" (Image Song "The Tale Of Johnny Town-Mouse") Instrumental [Music: Yukie Nishimura, Arr: Hiroshi Okamoto]
7. Rodoku "Machi Nezumi Johnny No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Johnny Town-Mouse") Reader: C.W. Nicol [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
8. Ending Theme "Peter Rabbit To Watash〜Slow Version" (Ending Theme "Peter Rabbit And Me〜Slow Version") Instrumental [Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Cello: Hajime Mizoguchi (Same Recording as 8. of Vol.1)

Blue: Tracks in which Taeko Onuki is involved 
 

第3集は「2ひきのわるいねずみのおはなし (The Tale Of Two Bad Mice 1904)」、「のねずみチュウチュウおくさんのおはなし (The Tale Of Mrs. Tittlemouse 1910)」、「まちねずみジョニーのおはなし (The Tale Of Johnny Town-Mouse 1918)」 の3作品を収録。

主題歌 1.「ピーターラビットとわたし」の歌詞は、この集から1982年のオリジナルとは異なり、本CDに収められた朗読のひとつ「まちねずみジョニー」をもとに大貫さんが書き下ろしたものになっている。それを歌うラジは1985年のアルバム発表以来、本名の本田淳子としてセッション・シンガーとして活動していたため、この名義では久しぶりの登場となった。大貫さんの作品を多く取り上げた1970年代末のアルバムをこよなく愛する私にとって懐かしい歌声であるが、当時と声質が少し変わったかな?あのラジが「ピーターラビットとわたし」を歌うだなんて、私には衝撃的な出来事で、企画盤の主題曲ということで歌詞1番だけで終わってしまうのが誠にもったいない。コーラス部分の「陽がさんさん いちばん私の好きな場所 君もいつか たずねておいでよ」という歌詞はオリジナルを聴き慣れ過ぎた私にはとても不思議に響く。ちなみにここでの伴奏トラックはミディアム・バージョンのもの。なおエンディング・テーマについても、第3集からは第1集のスロー、第2集のミディアムのいずれかの使い回しとなり、ここでは溝口肇のチェロによるスロー・バージョンになっている。

イメージ曲を作曲した西村由紀江(1967- )はヒーリング・映画・現代音楽の分野で活躍するピアニスト、作曲家で、編曲者の岡本洋はジャズ・ピアニスト、アレンジャーだ。朗読者の堺正章(1946- )、渡辺えり子(1955- 現在の芸名は「渡辺えり」)は声に特徴のある歌手・俳優さん達(二人とも説明不要)で、この手の朗読はお手の物と思えるが、もう一人のW.C.ニコル(1940-2020) の達者な語り口には驚いた。彼はイギリス生まれで青年期から波乱万丈の人生を送り、13歳の時から習った柔術がきっかけで、日本を安住の地と決めて帰化し自然保護活動、作家として天寿を全うした人だった。

この第3集から「ピーターラビットとわたし」独自の歌詞になるなど面白い展開が始まる。

[2024年12月作成]

 
ピーターラビットとなかまたち 第4集 Various (1990)  東芝EMI  
 











1. 主題歌「ピーターラビットとわたし〜リスのナトキン」 歌:由紀さおり(作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)
2. イメージ曲「リスのナトキンのおはなし」 インストルメンタル (作曲 上田知華 編曲 岡本洋)
3. 朗読 「リスのナトキンのおはなし」朗読:斎藤晴彦(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
4. イメージ曲「あひるのジマイマのおはなし」 インストルメンタル (作曲 上田知華 編曲 岡本洋)
5. 朗読 「あひるのジマイマのおはなし」朗読:由紀さおり(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
6. イメージ曲「ジンジャーとピクルズやのおはなし」 インストルメンタル (作曲 上田知華 編曲 岡本洋)
7. 朗読 「ジンジャーとピクルズやのおはなし」朗読:竹中直人(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
8. エンディング・テーマ 「ピーターラビットとわたし〜ミディアム・バージョン」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)バイオリン 中西俊博 (第2集 8. と同一録音)

黄色字: 大貫さんが関わったトラック

由紀さおり: Vocal (1)
清水信之: Synthesizer (1,8), Other Insturuments (1)
田端元: Synthesizer Operation (1,8)
岡本洋: Keyboards (2,4), Piano (6)
迫田到: Synthesizer Programming (2,4)
内橋和久: Guitar (1)
納浩一: Bass (6)
八木のぶお: Harmonica (4)
香取良彦: Vibraphone (6)
数原晋: Piccoro Trumpet (6)
中西俊博: Violin (8)

斎藤晴彦、由紀さおり、竹中直人: 朗読
村井ミヨ子 (株・ファミリア取締役): 寄稿 「あの頃の思い出」

青字:大貫さんが関係するトラックに参加した人

1990年6月27日発売

写真上から
CD 「CDでたのしむピーターラビットとなかまたち 第4集」 1990年6月27日発売
Book 「The Tale Of Squirrel Nutkin」 英語版 初版は1903年出版
Book 「The Tale Of Jemima Puddle-Duck」 英語版 初版は1908年発売
Book 「The Tale Of Ginger And Pickles」 英語版 初版は1909年発売

1. Shudai Ka "Peter Rabbit To Watashi〜Risu No Nutkin" (Main Theme "Peter Rabbit And Me〜Squirrel Nutkin") [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Sung By Saori Yuki
2. Image Kyoku "Risu No Nutkin No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Squirrel Nutkin") Instrumental [Music: Chika Ueda, Arr: Hiroshi Okamoto]
3. Rodoku "Risu No Nutkin No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Squirrel Nutkin") Reader: Haruhiko Saito [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
4. Image Kyoku "Ahiru No Jemima No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Jemima Puddle-Duck") Instrumental [Music: Chika Ueda, Arr: Hiroshi Okamoto]
5. Rodoku "Ahiru No Jemima No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Jemima Puddle-Duck") Reader: Saori Yuki [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
6. Image Kyoku "Ginger To Pickles Ya No Ohanash" (Image Song "The Tale Of Ginger And Pickles") Instrumental [Music: Chika Ueda, Arr: Hiroshi Okamot]
7. Rodoku "Ginger To Pickles Ya No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Ginger And Pickles") Reader: Naoto Takenaka [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
8. Ending Theme "Peter Rabbit To Watash〜Medium Version" (Ending Theme "Peter Rabbit And Me〜Medium Version") Instrumental [Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Violin: Toshihiro Nakanishi (Same Recording as 8. of Vol.2)

Blue: Tracks in which Taeko Onuki is involved 

第4集は「リスのナトキンのおはなし (The Tale Of Squirrel Nutkin 1903)」、「あひるのジマイマのおはなし (The Tale Of Jemima Puddle-Duck 1908)」、「ジンジャーとピクルズやのおはなし (The Tale Of Ginger And Pickles 1918)」 の3作品を収録。 

主題曲は由紀さおり(1946- 彼女については説明不要)がスロー・バージョンの伴奏で歌っている。歌詞は「リスのナトキン」に基づく内容。また彼女は「あひるのジマイマのおはなし」の朗読を担当している。エンディング・テーマのインストルメンタルは、中西俊博のバイオリンによるミディアム・バージョンで、第2集と同じ録音。

イメージ曲を書いた上田知華(1957-2021)は、シンガー・アンド・ソングライター、作曲家、プロデューサー。朗読者の斎藤晴彦(1940-2014)は俳優。リスのナトキンが謎かけ唄を歌うシーン(それぞれの謎かけ唄は昔からあるマザーグースで、各答えがあるそうだ)で彼が歌うメロディーはオリジナルの英語版と同じなのかな?ということでYouTubeにあった複数の英語版の朗読を聴いてみた。単なる読み上げだったり、いろいろバリエーションがあるようだが、日本版もマザーグースの節回しを基に日本語に合うよう改変したものであることがわかった(翻訳もさぞかし大変だったろう)。リスということで、音程を高くしてクスクスと早口で歌うので、かなり難しそう。竹中直人(1956- )は俳優、映画監督で、大貫さんは彼に曲を提供したり、ゲストで歌ったり、映画「東京日和」1997の音楽を担当したりするなど、両者には親密な交流がある。ここでの彼の声はとても若々しく、現在の深みのある声とは全然違っているのが面白い。

[2024年12月作成]

ピーターラビットとなかまたち 第5集 Various (1990)  東芝EMI   
 









1. 主題歌「ピーターラビットとわたし〜ひげのサムエル」 歌:和田加奈子(作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)
2. イメージ曲「こわいわるいうさぎのおはなし」 インストルメンタル (作曲編曲 山川恵津子)
3. 朗読 「こわいわるいうさぎのおはなし」朗読:岸田今日子(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
4. イメージ曲「ひげのサムエルのおはなし」 インストルメンタル (作曲 原由子 編曲 門倉聡)
5. 朗読 「ひげのサムエルのおはなし」朗読:松金よね子(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
6. イメージ曲「グロースターの仕たて屋」 インストルメンタル (作曲 原由子 編曲 門倉聡)
7. 朗読 「グロースターの仕たて屋」朗読:上條恒彦(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
8. エンディング・テーマ 「ピーターラビットとわたし〜スロー・バージョン」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)チェロ 溝口肇 (第1集 8. と同一録音)

黄色字: 大貫さんが関わったトラック

和田加奈子: Vocal (1)
清水信之: Synthesizer (1,8), Other Insturuments (1)
田端元: Synthesizer Operation (1,8)
山川恵津子: Synthesizer (2)
迫田到: Synthesizer Programming (2)
門倉聡: Keyboards (4,6)
菅原正明: Synthesizer Programming (6)
吉川忠英: Guitar (2)
小倉博和: Guitar (6)
十亀有子: Flute (4)
十亀正司: Clarinet (4)
脇岡総一: Oboe (4)
吉田将: Fagott (4)
春奈禎子: Percussion (4)
金子ストリングス: Strings (4)
溝口肇: Cello (8)

岸田今日子、松金よね子、上條恒彦: 朗読
松居直 (児童文学者): 寄稿 「ことばの森を耳で旅する」

青字:大貫さんが関係するトラックに参加した人

1990年6月27日発売

写真上から
CD 「CDでたのしむピーターラビットとなかまたち 第5集」 1990年6月27日発売
Book 「The Story Of A Fierce Bad Rabbit」 英語版 初版は1906年出版
Book 「The Tale Of Samuel Whiskers」 英語版 初版は1908年発売
Book 「The Tailor Of Gloucester」 英語版 初版は1903年発売

1. Shudai Ka "Peter Rabbit To Watashi〜Hige No Samuel" (Main Theme "Peter Rabbit And Me〜Samuel Whiskers") [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Sung By Kanako Wada
2. Image Kyoku "Kowai Warui Usagi No Ohanashi" (Image Song "The Story Of Fierce Bad Rabbit") Instrumental [Music & Arr: Etsuko Yamakawa]
3. Rodoku "Kowai Warui Usagi No Ohanashi" (Recitation "The Story Of Fierce Bad Rabbit") Reader: Kyoko Kishida [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
4. Image Kyoku "Hige No Samuel No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Samuel Whiskers") Instrumental [Music: Yuko Hara, Arr: Satoshi Kadokura]
5. Rodoku "Hige No Samuel No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Samuel Whiskers") Reader: Yoneko Matsukane [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
6. Image Kyoku "Gloucester No Shitate-ya" (Image Song "The Tailor Of Gloucester") Instrumental [Music: Yuko Hara, Arr: Satoshi Kadokura]
7. Rodoku "Gloucester No Shitate-ya" (Recitation "The Tailor Of Gloucester") Reader: Tsunehiko Kamijyo [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
8. Ending Theme "Peter Rabbit To Watash〜Slow Version" (Ending Theme "Peter Rabbit And Me〜Slow Version") Instrumental [Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Cello: Hajime Mizoguchi (Same Recording as 8. of Vol.1)

Blue: Tracks in which Taeko Onuki is involved 
 
 
第5集は「こわいわるいうさぎのおはなし (The Story Of A Fierce Bad Rabbit 1906)」、「ひげのサムエルのおはなし (The Tale Of Samuel Whiskers 1908)」、「グロースターの仕たて屋 (The Tailor Of Gloucester 1903)」 の3作品を収録。 「こわいわるいうさぎのおはなし」の朗読は僅か2分20秒で、第7集の「わるいねこのおはなし」と並び本CD集中最短。絵本も活字がページあたり2〜3行とスカスカだ。その分、他のふたつの「おはなし」は各26分ちょっと長めのものを揃えている。

主題曲は「ひげのサムエル」の副題の通り、歌詞はその「おはなし」の内容に沿ったもので、伴奏トラックはミディアム・バージョン。歌っていてる和田加奈子(1963- )は歌手、作詞家。1985年〜1991年までの間にレコード・CDを出し、結婚を期に引退、離婚して現在はマイク真木夫人となりイベントなどで時々歌っているそうだ。彼女は1987年のアルバム「Quiet Storm」で
大貫さんの「あなたに似た人」(「A Slice Of Life」1987収録)を曲名を変えて歌っていた。エンディング・テーマは、溝口肇がチェロを弾くスロー・バージョン・

イメージ曲は、第2集と同じく山川恵津子と原由子が担当を分け合っている。特に「イメージ曲 グロースターの仕たて屋」は小倉博和のエレキギターがフィーチャーされ、より現代的な音作りになっているのが面白い。

朗読者の岸田今日子(1930-2006)は、その独特な容貌と声、強烈な存在感で、強烈なインパクトを与える人だった。彼女がポッター作品中でショートショートといえる「こわいわるいうさぎのおはなし」をさらっと語る様は圧巻だ。松金よね子(1949- )は女優・声優で、現在もおばあちゃん役でテレビドラマ等に出演している。上條恒彦(1940- )は歌手、俳優、声優で、六文銭と共演した「旅立ちの歌」1971、テレビドラマ「木枯らし文次郎」の主題歌「だれかが風の中で」1972 がとても印象的だった人。彼が読む「グロースターの仕たて屋 」は、人間の仕立て屋、猫とねずみ達の間で繰り広げられるクリスマスの素敵な話だ(本稿執筆が12月なので、来るクリスマスへの思いが重なったこともあるね)。上條さんがねずみに扮してマザーグースを歌う場面も面白いよ。

[2024年12月作成]

ピーターラビットとなかまたち 第6集 Various (1990)  東芝EMI   











 

1. 主題歌「ピーターラビットとわたし〜カルアシ・チミー」 歌:大竹しのぶ(作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之
2. イメージ曲「ティギーおばさんのおはなし」 インストルメンタル (作曲 沢田聖子 編曲 山川恵津子)
3. 朗読 「ティギーおばさんのおはなし」朗読:森山良子(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
4. イメージ曲「ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし」 インストルメンタル (作曲 沢田聖子 編曲 山川恵津子)
5. 朗読 「ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし」朗読:小松方正(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
6. イメージ曲「カルアシ・チミーのおはなし」 インストルメンタル (作曲 沢田聖子 編曲 山川恵津子)
7. 朗読 「カルアシ・チミーのおはなし」朗読:兵藤ゆき(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
8. エンディング・テーマ 「ピーターラビットとわたし〜ミディアム・バージョン」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)バイオリン 中西俊博 (第2集 8. と同一録音)

黄色字: 大貫さんが関わったトラック

大竹しのぶ: Vocal (1)
清水信之: Synthesizer (1,8), Other Insturuments (1)
山川恵津子: Synthesizer (2,4,6)
石川鉄男: Synthesizer Programming (2,4,6)
平原智: Clarinet (2)
小山清: Fagott (6)
中西俊博: Violin (8)

森山良子、小松方正、兵藤ゆき: 朗読
角野栄子 (児童文学者): 寄稿 「やあ ソーリー」

青字:大貫さんが関係するトラックに参加した人

1990年6月27日発売

写真上から
CD 「CDでたのしむピーターラビットとなかまたち 第6集」 1990年6月27日発売
Book 「The Tale Of Mrs. Tiggy-Winkle」 英語版 初版は1905年出版
Book 「The Tale Of Mr. Jeremy Fisher」 英語版 初版は1906年発売
Book 「The Tale Of Timmy Tiptoes」 英語版 初版は1911年発売

1. Shudai Ka "Peter Rabbit To Watashi〜Karuashi Timmy" (Main Theme "Peter Rabbit And Me〜Timmy Tiptoes") [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Sung By Shinobu Otake
2. Image Kyoku "Tiggy Obasan No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Mrs. Tiggy-Winkle") Instrumental [Music Seiko Sawada, Arr: Etsuko Yamakawa]
3. Rodoku "Tiggy Obasan No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Mrs. Tiggy-Winkle") Reader: Ryoko Moriyama [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
4. Image Kyoku "Jeremy Fisher Don No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Jeremy Fisher") Instrumental [Music: Seiko Sawada, Arr: Etsuko Yamakawa]
5. Rodoku "Jeremy Fisher Don No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Jeremy Fisher") Reader: Hosei Komatsu [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishi]
6. Image Kyoku "Karuashi Timmy No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Timmy Tiptoes") Instrumental [Music: Seiko Sawada, Arr: Etsuko Yamakawauko]
7. Rodoku "Karuashi Timmy No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Timmy Tiptoes") Reader: Yuki Hyodo [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishi]
8. Ending Theme "Peter Rabbit To Watash〜Medium Version" (Ending Theme "Peter Rabbit And Me〜Medium Version") Instrumental [Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Violin: Toshihiro Nakanishi (Same Recording as 8. of Vol.2)

Blue: Tracks in which Taeko Onuki is involved 
 

第6集は「ティギーおばさんのおはなし (The Tale Of Mrs. Tiggy-Winkle 1905)」、「ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし (The Tale Of Mr. Jeremy Fisher 1906)」、「カルアシ・チミーのおはなし (The Tailor Of Timmy Tiptoes 1911)」 の3作品を収録。

スロー・バージョンのバックで主題歌を歌うはご存知大竹しのぶ(1957- )。ここでは「カルアシ・チミー」にちなんだ歌詞になっている。イメージ曲の作曲は第2集で主題歌を歌っていた沢田聖子、編曲は第2集と第5集に参加していた山川恵津子。主題歌がスローなので、エンディングはミディアム・バージョンだ。

森山良子は第1集のイメージ曲の作曲で既に登場済。この人の朗読は絶品だね。「ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし」 は7分ちょっとの短めの「おはなし」で、読み手の小松方正(1926-2003)は俳優・声優。特徴のある顔と声が印象的なバイプレイヤーだった。「おはなし」のなかでサー・アイザック・ニュートン卿という名前のイモリが登場するが、生きた時代は違うけどあの科学者のことを意識して付けたのかな?「カルアシ・チミー」を読む兵藤ゆき(1952- )はタレント、エッセイスト。よく「兵頭」と記されるが「藤」が正しい名前。登場人物が複数いるので、兵頭さんの声色使い分けの芸当が生かされている。また声色を使ったマザーグースの歌も愛らしくて素敵だ。

[2024年12月作成]

 
ピーターラビットとなかまたち 第7集 Various (1990)  東芝EMI   
 















1. 主題歌「ピーターラビットとわたし〜ピグリン・ブランド」 歌:大貫妙子(作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)
2. イメージ曲「パイがふたつあったおはなし」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 小林武史)
3. 朗読 「パイがふたつあったおはなし」朗読:高見恭子(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
4. イメージ曲「ずるいねこのおはなし」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 小林武史)
5. 朗読 「ずるいねこのおはなし」朗読:もたいまさこ(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
6. イメージ曲「ピグリン・ブランドのおはなし」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 溝口肇)
7. 朗読 「ピグリン・ブランドのおはなし」朗読:大竹しのぶ(作 ベアトリス・ポッター 訳 いしいももこ)
8. エンディング・テーマ 「ピーターラビットとわたし〜ミディアム・バージョン」 インストルメンタル (作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)バイオリン 中西俊博 (第2集 8. と同一録音)

黄色字: 大貫さんが関わったトラック

お断り: 1.は大貫さんが自分の曲を歌っているので、本ディスコグラフィーでは「Various シングル・コンピレーション」の部に掲載すべきなのですが、作品の構成上「Composer」の部に記載することにしました。

大貫妙子: Vocal (1), Chorus (6)
清水信之: Synthesizer (1,8), Other Insturuments (1)
小林武史: Synthesizer (2,4)
角谷仁宣: Synthesizer Programming (2,4)
塩谷哲: Piano (6)
古川昌義: Guitar (6)
高水健司: Bass (6)
仙波清彦、平ケ倉良枝、悌郁夫: Percussion (6)
溝口肇: Cello (6)
藤山明: Recorder (6)

中西俊博: Violin (8)

高見恭子、もたいまさこ、大竹しのぶ: 朗読
斎藤惇夫 (児童文学者): 寄稿 「ピータラビットの最初の読者」

青字:大貫さんが関係するトラックに参加した人

1990年6月27日発売

写真上から
CD 「CDでたのしむピーターラビットとなかまたち 第7集」 1990年6月27日発売
Book 「The Tale Of The Pie And The Patty-Pan」 英語版 初版は1905年出版
Book 「The Sly Old Cat」 英語版 初版は1971年発売
Book 「The Tale Of Pigling Bland」 英語版 初版は1913年発売


(参考: 絵本シリーズのなかで本CD集には収められなかったもの)
Book 「アプリイ・ダプリイのわらべうた (Appley Dapply's Nursery Rhymes)」 英語版 初版は1917年出版
Book 「セシリ・パセリのわらべうた (Cecily Paesley's Nursery Rhymes)」 英語版 初版は1922年出版
Book 「こぶたのロビンソンのおはなし (The Tale Of Little Pig Robinson)」英語版 初版は1930年出版


1. Shudai Ka "Peter Rabbit To Watashi〜Pigling Bland" (Main Theme "Peter Rabbit And Me〜Pigling Bland") [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Sung By Taeko Onuki
2. Image Kyoku "Pie Ga Futatsu Atta Ohanashi" (Image Song "The Tale Of The Pie And The Patty-Pan") Instrumental [Music Taeko Onuki, Arr: Takeshi Kobayashi]
3. Rodoku "Pie Ga Futatsu Atta Ohanashi" (Recitation "The Tale Of The Pie And The Patty-Pan") Reader: Kyoko Takami [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishii]
4. Image Kyoku "Zurui Neko No Ohanashi" (Image Song "The Sly Old Cat") Instrumental [Music: Taeko Onuki, Arr: Takeshi Kobayashi]
5. Rodoku "Zurui Neko No Ohanashi" (Recitation "The Sly Old Cat") Reader: Masako Motai [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishi]
6. Image Kyoku "Pigling Bland No Ohanashi" (Image Song "The Tale Of Pigling Bland") Instrumental [Music: Taeko Onuki, Arr: Takeshi Kobayashi]
7. Rodoku "Pigling Bland No Ohanashi" (Recitation "The Tale Of Pigling Bland") Reader: Shinobu Otake [Author: Beatrix Potter, Translation: Momoko Ishi]
8. Ending Theme "Peter Rabbit To Watash〜Medium Version" (Ending Theme "Peter Rabbit And Me〜Medium Version") Instrumental [Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Violin: Toshihiro Nakanishi (Same Recording as 8. of Vol.2)

Blue: Tracks in which Taeko Onuki is involved 
  
 
第7集は「パイがふたつあったおはなし (The Tale Of The Pie And The Patty-Pan 1905)」、「ずるいねこのおはなし (The Tale Of Sly Old Cat 1971)」、「ピグリン・ブランドのおはなし (The Tailor Of Pigling Bland 1913)」 の3作品を収録。「ずるいねこのはなし」は2分ちょっとの短い「おはなし」で、かつポッターの絵本シリーズには入っていない作品。というのは本作は1906年に書かれて、折りたたんだページをアコーディオンのように開いて読むという、当時異例な装丁で出版予定だったのがサンプルを見た販売者側からクレームが入って制作が頓挫し、お蔵入りした経緯がある。後にフレデリック・ウォーン社がシリーズとして出版しようとしたが、ポッターの情熱が農場経営にシフトしていたこと、彼女が加齢のため下書きだった挿絵をシリーズ用に書き直すことができなかったため、彼女の生前に世に出ることはなかった。結局彼女の死後30年近くなった1971年に下書きの挿絵とシリーズとは異なる装丁で出版された。

「ピーターラビットとなかまたち」7枚のCDには1枚あたり3つ = 計21の「おはなし」が収められたが、実際のところ絵本シリーズは23冊ある。うち「Appley Dapply's Nursery Rhymes」1917は、フレデリック・ウォーン社の財政難を救うためにポッターがかねてより集めていたナーサリーライムと書き溜めてあった絵をまとめて出版したもの。また「Cecily Paesley's Nursery Rhymes」1922はその続編的存在にあたる。したがってこれら2冊は「おはなし」ではなく挿絵がついた「わらべうた集」であり、本朗読集の対象外になったものと思われる。また「The Tale Of Little Pig Robinson」1930は、実際は1890年代という彼女の創作上初期に書かれたにもかかわらず、その長さと挿絵の少なさから当時は出版されず、ずっと後になってから世に出た作品。実際に本を手に取ると他の本の倍以上の厚みがあり、ページ内の活字もびっしり埋まっている。ポッターの絵本シリーズに含まれる「おはなし」でありながら、本朗読集から漏れたのは作品の長さによるものといえる。結果としてそのかわりに絵本シリーズ外の「ずるいねこのはなし」が選ばれたわけだ。ちなみに以上の3冊および上述の「ずるいねこのはなし」は、福音館書店からは他の絵本シリーズの作品よりも後に、石井桃子以外の翻訳で出版された。

第7集は最後ということで、主題曲は大貫さんが再登場し、「ピグリン・ブランド」の世界の歌詞をスロー・バージョンの伴奏で歌っている。第1集のミディアムと並んで、これで大貫さんの歌を両方のバージョンで聴けることになる。コーラス部分の「空のむこう はるかな ふたりの国がある 手をつないでふたりでダンスを踊ろう」という歌詞が、この「おはなし」のメルヘンチックなエンディングを表していて、このファンタスティックなCD集の主題曲の終わりを飾るに相応しい言葉になっている。そしてエンディング・テーマはミディアム・バージョン。

ここではイメージ曲も大貫さんによる作曲。ただし2.4.の編曲は清水ではなく、当時「New Moon」1990で一緒に組んでいた小林武史が担当している。そのアレンジは他のアーティストの作品と大きく異なり、「おはなし」の時代やイメージに囚われずに自由な創造力で音作りしている点がユニーク。その結果「New Moon」と似通ったサウンドになっていながら、それでいて「おはなし」とのチグハグ感はなく、それなりにしっくりきているのが凄い。なおイメージ曲 6.「ピグリン・ブランドのおはなし」はチェロ奏者溝口肇によるクラシカルなアレンジで、バック・コーラスで大貫さんの声が聞こえる。

朗読者の高見恭子(1959- )はタレント、エッセイスト。ふたつのパイをめぐる猫と犬のやりとりは可愛い系の彼女の声にぴったりだ。「ずるいねこのはなし」を読むもたいまさこ(1952- )は女優。個性的な人で、私的には大貫さんが音楽を提供した映画「かもめ食堂」2006(監督 荻上直子 主演 小林聡美)のマサコ役がとても印象的だった。そして朗読集のトリを務めるのは、第6集で主題歌を歌った大竹しのぶ。「ピグリン・ブランドのおはなし」は、ポッターの「おはなし」のなかで唯一若い男女(子ブタではあるが)のやりとりが描かれていて、二人で危機を脱するくだりなど爽やかで後味がとても良い作品だ。それを柔軟かつ自由な感覚で読みこなす大竹さんは大変魅力的で、彼女の持ち味が最大限に発揮されている。37分という長さを感じさせない朗読集の最後に相応しい名演といえるだろう。

本朗読集は原作(文と絵)、音楽、語りの全てが素晴らしい作品。ウェッジウッドの陶器や大貫さんの歌とともにポッターの作品を日本に広めた功績は大きい。しかし発売から30年以上経ち、音楽家・朗読者で亡くなった方や一線から退いた方も多く、時代の経過とともに彼らの知名度が下がったこともあり、商品価値減少の事実は否定できないだろう。しかし作品自体の本質的価値は不変であり、これからも多くの若い人たちに是非聴いてほしいものだ。そういう意味で、現在この朗読集が廃盤となり全然目立たないのは残念。

最後に原作のその後について。

1990年の本朗読集の発売以降、映像の時代となって壇ふみ朗読によるアニメDVD集(私としては静止画のほうが全然良いと思う)が出たり、2004年に原作の著作権が消滅してパブリック・ドメインとなった関係でインターネットによる配信もあったりして、作品の発信が多様化している。2018年にはCGによる映画も出たね(原作とはかなり趣が異なるコメディー作品になっていたが......)。絵本についても様々なサイズ・装丁で出版され、参考までに写真を掲載したフレデリック・ウォーン社の英語版ミニ本シリーズも、同社がペンギンブックスに吸収合併された後に新しい装丁に切り替わっている。そして2022年に早川書房が日本における公式出版社となり、芥川賞作家の川上未映子(1976- )による新訳の刊行が始まって、2024年春に絵本シリーズの全23巻(「ずるいねこのはなし」は対象外)が完結した。新訳では、今の感覚では古い・固いと感じられる石井桃子訳の表現をより現代的で躍動感ある言葉に変えたようだ。ちなみに旧来の石井桃子訳による福音館書店版も独自の装丁に変更して引き続き販売されている。

これらの名作が、これからも多くの人たちに読み継がれてゆくといいなと思います。

[2024年12月作成]


Long Long Way Home  鈴木祥子 (1990)  Epic (Sony)   
 

1. 青い空の音符 [作詞 大貫妙子 作曲 鈴木祥子 編曲 佐橋佳幸] 8曲目

鈴木祥子: Vocal
門倉聡: Synthesizer, Acoustic Piano
西本明: Hammond Organ, Wurlitzer Piano 
佐橋佳幸: Guitar, Co-Producer
美久月千晴: Acoustic Bass Guitar
青山純: Drums
浜口茂外也: Pandero
向井ヒロシ、佐橋佳幸、井上リエ、鈴木祥子: Back Vocal

藤井丈司: Programming, Producer

1990年11月21日発売

1. Aoi Sora No Onpu (Note For The Blue Sky) [Words: Taeko Onuki, Music: Shoko Suzuki, Arr: Yoshiyuki Sahashi] 8th Track

 
80年代の音楽はテクノ、シンセ、打ち込みで覆いつくされて飽和状態になったが、その終わり頃に電子音楽とアコースティック・サウンドを上手く噛み合わせた新しい感覚の音楽が出てきた。そう書いてぱっと頭に思い浮かぶのが、スザンヌ・ヴェガの「Luka」1987 全米3位だ。鈴木祥子(1965- 東京都出身)もそういう流れにあった人だと思う。ドラム奏者として原田真二や小泉今日子のバックバンドで演奏した後、1988年にソロデビューし、他アーティストへの楽曲提供(代表作は小泉今日子の「優しい雨」1993)も積極的に行い、現在もマイペースで活動中。

アルバム「Long Way Home」は4枚目のアルバムで、YMOのアシスタントとして世に出て、幅広いジャンルの音楽を手掛けた藤井丈司がプロデュースとプログラミング、ギタリストの佐橋佳幸がコ・プロデュースを担当している。突出した曲はないけど、どの曲も水準以上の出来上がりで、トータルアルバムとしての色合いが強い。全10曲すべてが彼女の作曲(1曲のみ佐橋との共作)。作詞は自作が半分で、他は大貫さんの他に杉林恭雄(くじら)、西尾佐栄子、戸沢暢美が詩を提供している。洋楽志向が強い人のようで、英語のタイトル(歌詞は日本語)の曲や、ジャケットの歌詞には曲の英語名が記されている。西海岸の風が吹き抜けるような爽快な曲の印象が強いが、スローな曲を歌ってもロックを感じさせる歌唱スタイルが彼女の持ち味だと思う。

大貫さんが歌詞を提供した1.「青い空の音符」は、彼女が得意とする男女の別れの歌で、鈴木はそれに彼女としてはしっとり感のあるメロディーを付けて、比較的おとなしい感じで歌っている。それでもドラマー出身の人らしく、グルーヴ感に溢れた歌唱になっているのが面白い。間奏においる佐橋のギターソロ(前半はスライドギター)が聴きもの。

他の曲について。「夏のまぼろし」(作詞作曲 鈴木祥子 編曲 佐橋佳幸、藤井丈史)6曲目は、Sir Nikolai Kadokovという人(インターネットに情報がないので変名っぽい名前)のピアノのみの伴奏による曲で、若くして亡くなった人の事を思いながら、これからの人生を音楽で生きていこうという決意を歌う、本作の中では異色の存在。なお本曲は、1995年に矢野顕子が弾き語りアルバム「Piano Nightly」でカバーしている。

大貫さんの感性豊かな歌詞にキリッとした感じの曲を付けて、颯爽と歌う鈴木がかっこいい。

[2024年9月作成]


 
1991年  「New Moon」 (1990/6/21発売) 「Drawing」 (1992/2/26発売)の頃  
音楽物語 星の王子様  (1991)  東芝EMI   





 

1. メインテーマ 星の王子様(インストルメンタル)」 [作曲 矢野顕子 編曲 大村雅朗、服部隆之] トラック1
2. 星の王子様(朗読)[作 Antoine de Saint-Exupery 和訳 内藤濯 音楽 服部隆之] トラック2〜20
3. メインテーマ 星の王子様 [作詞 大貫妙子 作曲 矢野顕子 編曲 大村雅朗、服部隆之] トラック21

薬師丸ひろ子: Vocal (3)
中島朋子: 朗読 (王子) (2)
森本レオ: 朗読 (わたし ほか) (2)
岸田今日子: 朗読(ばらの花) (2)

1991年2月20日発売

写真上: CD 音楽物語 星の王子様 東芝EMI
写真下: 本 星の王子様 岩波書店

3. Main Theme Hosi No Oji Sama (Main Theme Little Prince) [Words: Taeko Onuki, Music: Akiko Yano, Arr: Masaaki Omura, Takayuki Hattori] 21st Track by Hiroko Yakushimaru from the album "Ongaku Monogatari Hoshi No Oji Sama"(Music Story Little Prince) Febuary 20, 1991
 
 
「星の王子さま (原題 "La Petit Prince")」はフランスの飛行士・小説家アントワーヌ・サン=テグジュペリが書いた名作で、1943年に出版された(彼は翌1944年に従軍中の飛行機の行方不明で亡くなっている)。内藤濯による翻訳は1953年岩波書店から出版され、2005年に翻訳出版権が満了したため、以降数多くの翻訳が出ている。本CDは内藤濯による翻訳の朗読に服部隆之(服部良一の孫、服部克久の息子)が音楽をつけ、冒頭と末尾に本作のために作曲されたメインテーマを入れて「音楽物語」として制作した作品だ。朗読者は中島朋子、森本レオ、岸田今日子(2006年没)、メインテーマの作詞が大貫さん、作曲が矢野顕子という超豪華版。

CDをスタートさせると序曲として1. 「メインテーマ 星の王子様 (インストルメンタル)」が始まる、ピアノとオーケストラによる演奏で 1分11秒経って「わたし」役の森本レオの朗読が始まり、演奏はそのバックでフェイドアウトする。朗読内容を内藤濯訳の原本と比較すると、朗読には小説が長過ぎるため、作品の在り方と進行に影響を与えない部分をカットしていることがわかった。飛行機が砂漠に墜落するプロットは、サン=テグジュペリの実際の経験に基づいて書かれたものとのこと。第2章で中島朋子の王子さまが登場し、ヒツジの絵を巡る会話となる。第3章の最後でオケによる音楽が入り、第4-6章(バオバブの木)はカット。第7章は花に関する会話。ここでピアノによる音楽が入り、第8-9章では王子の星で岸田今日子のバラの花が登場し、王子との会話。そこでは森本は語り手の役。ここでオケが入る。

第10章から自分の星を出た王子の他の星での話で、まず王さま、第11章はうぬぼれ男、時折短いオケが入り第12章は呑み助、第13章は実業家、第14章は点燈夫、第15章は地理学者で、各人物(森本)と王子との会話。ここでテーマのメロディーを含むオケが入り、第16章で王子は地球にやってくる。第17章はヘビ、第18章(花)-19章(こだま)はカット。第20章はバラの花、第21章はキツネとの会話。ここでキツネが秘密と称して「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ、肝心なことは、目に見えないんだよ」という有名な語句を話す。オケ入って第22章(スイッチマン)-23章(あきんど)はカット。第24-25章はわたしと王子が井戸を探す話。第26章は王子が自分の星へ帰ってゆく話。ハープによる音楽が挿入される。飛行機の故障が直る示唆があるが、わたしがその後どうなったかは書かれていない。第27章は結びで、オケをバックに助かった6年後のわたしの想いが語られる。

朗読に長けた3人はベスト・セレクション。約73分のうち95%は朗読で、音楽の比重は少ない。この時間からメインテーマを含めてCD一枚の収録時間ぎりぎりに収めたことがわかる・

最後に薬師丸ひろ子による 3.「メインテーマ 星の王子様」が流れる。同年少し後に発売された彼女のアルバム「Primavera」に収められた同曲と別ミックスで、アレンジが若干、歌詞がかなり異なる。その違いは「Primavera」で話そう。また作曲者の矢野顕子は、1995年のアルバム「Piano Nightly」において本アルバムの歌詞でセルフカバーしている。 素晴らしい曲なので願わくば大貫さんもセルフカバーしてほしいな〜

薬師丸ひろ子による「星の王子さま」オリジナル・バージョンは、他のベスト盤やボックスセットに収録されておらず、配信もないため聴けるのは本作品だけとなっている。

[2024年9月作成]


  
NHKみんなのうた 大全集2 Various Artists (1991)  キング  

 

1. メトロポリタン美術館 [作詞作曲 大貫妙子] 7曲目

新倉芳美: Vocal

1991年3月5日 キングより発売

1. Metropolitan Museum [Words & Music: Taeko Onuki] 7th song by Yoshimi Niikura (in various artists) from the album "NHK Minna No Uta Daizenshu 2" (Anthology 2 For The Songs For Everybody) March 5, 1991
 
 
大貫さんの「メトロポリタン美術館」は 1984年4月〜5月にNHKテレビ「みんなのうた」で初回放送された。清水信之編曲による大貫さんの録音は、1984年5月21日発売のシングル「宇宙みつけた」のB面としてディアハート(RVC) レーベルから発売され、1986年3月21日発売のアルバム「Comin' Soon」に収められた。「みんなのうた」の中でも特に人気がある曲で、映像はその後も現在に至るまで頻繁に再放送され、各レコード会社が発売した「みんなのうた」曲集にも収められている。その際契約の関係で大貫さんのオリジナルを使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが普通で、そのため本曲は他のアーティストによるカバーに加えてこの手の別録音が多く存在することとなった。本件はその中のひとつで、キング・レコードが制作したものだ。

新倉芳美 (2017年没)は、新倉よしみの名前でシングル盤2枚(1枚目「八色の幸福/狭山慕情」1980は歌謡曲、2枚目「白いページの中に/さよならへつづくハイウェイ」1981はニューミュージック)を出した後、子供向けの歌やアニメソングを多く歌ったシンガーで、中森明菜の専属仮歌シンガーとしても知られている。本曲はシンセサイザー、打ち込みが目立つ伴奏で、くせのない彼女の声はとても聞きやすい。なお編曲者は不明。

[2024年9月作成]


Primavera  薬師丸ひろ子 (1991)  東芝EMI 
 

1. 星の王子さま (Mattina Version) [作詞 大貫妙子 作曲 矢野顕子 編曲 大村雅朗] 7曲目
2. Destiny [作詞 大貫妙子 作曲 坂本龍一 編曲 坂本龍一、成田忍] 9曲目


大村雅朗: Keyboards (1)
鶴来正基: Keyboards (2)
松原正樹: Electric Guitar (1)
成田忍: Guitar (2)
吉川忠英: Acoustic Guitar (1)
荻原基文: Bass
浜口茂外也: Whistle (1)
中村哲: Sax (1)
迫田到、石川鉄男: Synthesizer Operator (1)
木本ヤスオ: Synthesizer Operator (2)
綿内克幸、前田康美: Chorus (2)

1991年3月13日発売

1. Hoshi No Oji Sama (Mattina Version) (Little Prince Morning Version) [Words: Taeko Onuki, Music: Akiko Yano, Arr: Masaaki Omura] 7th Track
2. Destiny [Words: Taeko Onuki, Music: Ryuichi Sakamoto, Arr: Ryuichi Sakamoto, Shinobu Narita] 9th Track
by Hiroko Yakushimaru from the album "Primavera" (Spring) March 13, 1991


薬師丸ひろ子8枚目のアルバムで、「Primavera」はイタリア語で「春」の意味。

大貫さん作詞、矢野顕子作曲の1.「星の王子さま」は、約1ヵ月前に発売された「音楽物語 星の王子さま」にも収録されているが、本作では「Mattina Version」という副題(「Mattira」はイタリア語で「朝」の意味)がついていて、以下のとおりアレンジが異なっている。

A = 音楽物語 星の王子さま、B= Primavera (Mattina Version)

@ Aはシンセサイザーのイントロから、Bは朝を思わせる小鳥の声とシンセサイザーのみ
A Aはファースト・ヴァースの第2節が「王さまも、うぬぼれも、実業屋も」に対し、Bは「大人たちは ひらけない 宝の箱」に歌詞が変えられている
B オーケストラのアレンジが異なる。 Aのほうがオケの動きが多く、目立っている。
C Aはファースト・コーラスの後はオーケストラのみ、Bは中村哲のソプラノ・サックスが入る
D Aはセカンド・ヴァースの第2節が「呑み助も、点燈夫も、地理学者も」に対し、Bは「いつの日か 消えてゆく ひとつの命」に歌詞が変えられている
E Aはセカンド・コーラスの後はオーケストラの演奏のみでフェイドアウト、Bは中村哲のソプラノ・サックスソロが入る。結果Aの3分15秒に対し、Bは3分44秒と演奏時間がその分長くなっている。

@小鳥の囀りを入れて朝の雰囲気を出したのは、アルバムの構成(特に次の曲「私の町は、今朝」)に合わせるためと思われる。AD歌詞を変えたのは、Aが原作の登場人物を歌うことで、原作との一体化を図っているのに対し、Bは薬師丸のソロアルバム用に普遍的な内容の歌詞に変えたものだろう。Bオーケストラのアレンジが異なる点については、Aの編曲者に服部隆之が入っていたが、Bでは大村雅朗のみになっていることから、大村がオケのアレンジをしたものと推測する。なおABともレコード会社が東芝EMIであることから、キーボード、シンセサイザー、ベース等のバッキング・トラックは同じものを使用しているものと断定してよいだろう。

2.「Destiny」はいかにも坂本龍一らしいメロディーの曲。歌詞・メロディー・歌唱いずれも聴けば聴くほど味わいが深くなる佳曲。ギターでアレンジャーとして名を連ねている成田忍は、フュージョン、テクノポップのバンドを経験して、ギタリスト、作曲・編曲家、プロデューサーになった人。キーボードの鶴来正基は、沢田研二やThe Boomなどやアニメソングの編曲を手掛けているが、主にライブで本領を発揮する人らしい。ベースの荻原基文はセッション・ミュージシャンで、板倉文、清水一登、斉藤ネコ、青山純等による音楽ユニット、キリング・タイムのメンバーだった。バックコーラスの綿内克幸はシンガー・アンド・ソングライターで成田忍とバンドを組んでいたことがある。前田康美はサザンオールスターズのサポートで有名な人だ。

他の曲では「愛は勝つ」のKAN(1962-2023)が作曲した「私の町は、今朝」(作詞 風総堂美起 編曲 清水信之)8曲目と、シングルとして1月30日に先行発売されてNTT"パジャマ・コール"CMイメージ・ソングとなりヒットした「風に乗って」(作詞作曲 上田知華 編曲 清水信之)10曲目が素晴らしい。そのため、7曲目から最後の10曲目までの流れは最高!

それにしても薬師丸の歌声は何故こんなに心に響くのだろう。27歳になって天性の表現力に益々磨きがかかったようだ。

大貫さんが作詞した2曲はいずれも素晴らしい出来です。

[2025年9月作成]

 
De eaya  中山美穂 (1991)  King   

 

1. メロディー [作詞作曲 大貫妙子 編曲 林有三, ATOM] 1曲目
2. Crazy Moon [作詞作曲 大貫妙子 編曲 ATOM] 3曲目
3. ひとりごと [作詞 中山美穂 作曲 大貫妙子 編曲 ATOM] 10曲目


中山美穂: Vocal
Atom: Keyboards, Synthesizer, Programming
林有三:Keyboards (1)
吉川忠英:Guitar (1)
斉藤毅 Group: Strings (1)

1991年3月15日発売


1. Melody [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yuzo Hayashi, ATOM] 1st Track
2. Crazy Moon [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: ATOM] 3rd Track
3. Hitorigoto (Monologue) [Words: Miho Nakayama, Music: Taeko Onuki, Arr: ATOM] 10th Track
by Miho Nakayama from the album "De eaya" March 15, 1991

 
中山美穂(1970-2024) 21歳の時13枚目のアルバム。タイトルは「でいいや」という日本語をスペイン語風にもじった造語だ。無国籍でダンサブルな曲が大半を占めていて、ATOMという井上ヨシマサ(キーボード、シンセサイザー)と久保幹(プログラミング)の二人からなるユニットが編曲と打ち込みを含む演奏の大部分を担当している。

冒頭の曲1.「メロディー」は、本アルバムの中で歌詞・メロディー共に大貫さんらしさが出た曲で、編曲・キーボードに林有三、ギターに吉川忠英、ストリングスに斉藤毅(ネコ)のグループが加わり、アコースティックなサウンドに仕上げられている。2.「Crazy Moon」はマンボ風のアレンジによるダンス・チューンで、大貫さんの曲作りも軽めな感じ。バックで聞こえるパーカッションやブラス・セクションも全部シンセ演奏と打ち込みによるもの。全11曲中7曲につき中山本人が詩を書いているが、ダンス曲のための歌詞を書くということが彼女にとって最適だったかどうか微妙な感じがする。「Mana」(作詞 上田知華 作曲 井上ヨシマサ 編曲 ATOM)2曲目など、ボ・ディドリー・リズムを使用するなどの聴きごたえがある曲はあるものの、この手の音楽にいまひとつ食指が動かない私の個人的な好みかもしれないが....。

そのなかで、彼女が書いた詞に大貫さんが曲をつけた3.「ひとりごと」はスローな曲で、彼女の本心をはっきり感じることができる作品だ。そして大貫さんのメロディーが歌詞にぴったり寄り添っていて、両者相まって素晴らしい曲に仕上がった。それを受けたドリーミーなアレンジ、お風呂場で歌っているかのようなヴォイス処理もぴったり嵌っている。

他の曲に比べて、大貫さん提供曲が群を抜いており、特に3.「ひとりごと」は名曲といってもよいレベル。

[2024年9月作成]

[2024年12月追記]
中山美穂氏は2024年12月お亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。


夢で逢えたら  森丘祥子 (1991)  Warner Pioneer  
 

2. 突然の贈りもの  [作詞作曲 大貫妙子 編曲 小西康陽] 2曲目

森丘祥子: Vocal
小西康陽: Synthesizer, Arranger, Producer
中山努: Electric Piano
斉藤誠: Electric Guitar
野宮真貴: Background Vocal

1991年4月25日発売

1. Totsuzen No Okurimono (A Sudden Gift) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yasuharu Konishi] 2nd track from the album "Yume De Aetara" (If We Meet In Dreams) by Shoko Morioka, April 25, 1991
 

森丘祥子(1967-  本名 柴田くに子、岐阜県出身)は 1984年雑誌ミスセブンティーンのラジマガ賞を受賞し、3人組アイドルグループ、セブンティーンクラブのメンバーとして本名でデビューした。ちなみに他の二人は工藤静香(後にソロ歌手として大成後、現木村拓哉夫人)と木村亜希(後の清原和博夫人→離婚)。同グループはシングル2枚とCM、バラエティー番組等に出演後1年で解散し、柴田は1990年に森丘祥子の芸名で歌手デビューしたが、シングル、アルバム各2枚を出した後に活動が途絶えた。

本作は2枚目のアルバムで、ピチカート・ファイブの小西康陽がプロデュースとアレンジを担当している。1984年結成のピチカート・ファイブは熱心なファンを獲得したが一般的な知名度は低い状態が続き、商業的成功を収めたのは1993年頃という状態だった。従って本アルバム制作時の小西はまだ売れていなかった時期になるが、ニューミュージック(当時はそう言われていて、現在はJ-Popとかシティ・ポップと呼ばれるようになった)の名曲カバーというマニアックな企画になっている。

彼らしいニューウェイブ調のアレンジの中で、2.「突然の贈りもの」は飛び抜けて過激だ。森丘は原曲通りのきれいなメロディーを素直に歌っているが、セカンドヴァースが終わるまで、伴奏のほとんどが打ち込みのドラムスとシンセベースのみで、ベース音もあるべきコード進行を無視したミニマムな音で決めている。その分ヴァースの終わりに入るシンセの音と野宮真貴のハミングがきらっとした光を放っている。そして間奏部分からエレキギターやキーボードが入りメロディックな演奏になってゆく。小西の偏執的な趣味性が遺憾なく発揮されたアレンジだ。ハミングの野宮真貴は当時ピチカート・ファイブの3代目ボーカリト、中山誠はオリジナル・ラブのメンバー、斉藤誠はサザン・オールスターズのサポートメンバーで、渋谷系というか青山学院派のミュージシャンが揃っている。

他の曲について (かっこはオリジナル・リリース)

1. 夢で逢えたら(Remix) [作詞作曲 大瀧詠一] (吉田美奈子 「Flapper」 1976)
2. 突然の贈りもの [作詞作曲 大貫妙子] (大貫妙子 「Mignonne」1978)
3. 恋のブギウギ・トレイン [作詞 吉田美奈子 作曲 山下達郎] (アン・ルイス シングル 1979)
4. ムーンライト・サーファー [作詞作曲 Panta] (石川セリ 「気まぐれ」 1977)
5. 愛がなくちゃね [作詞 矢野顕子、ピーター・バラカン 作曲 矢野顕子] (矢野顕子「愛がなくちゃね」 1982)
6. ユー・メイ・ドリーム [作詞 柴山敏之、Chris Mosdell 作曲 鮎川誠、細野晴臣] (シーナ & ザ・ロケッツ「真空パック」1979)
7. ライディーン [作詞 小西康陽 作曲 高橋幸宏] (イエロー・マジック・オーケストラ「Solid State Survivor」 1979)
8. ソバカスのある少女 [作詞 松本隆 作曲 鈴木茂] (ティン・パン・アレー 「Caramel Mama」 1975)
9. ブルー・ヴァレンタイン・デイ [作詞作曲 大瀧詠一] (大瀧詠一 「ナイアガラ・カレンダー」 1977)
10. トゥインクル・クリスマス [作詞作曲 EPO] (EPO 非売品シングル 1986)
11. 夢で逢えたら [作詞作曲 大瀧詠一] (吉田美奈子 「Flapper」 1976)

11.「夢で逢えたら」は大瀧詠一の大名曲。吉田美奈子が「自分の音楽でない」と抵抗したため、直後にシリア・ポールに歌わせた実質的セルフカバーを出し、その後の数多くのカバーがある。森丘のバージョンはキリン「ワインクラブ DANCE」のCMソングになった。1.は間奏部の語りのみを延々と繰り返すリミックス・バージョン。3.「恋のブギウギ・トレイン」はダイエー1980年のヴァレンタイン・キャンペーン CMソングで、山下達郎はライブアルバム「Joy-Tatsuro Yamashita Live」 1989でセルフカバーしている。7.「ライディーン」はYMOの傑作インスト曲に小西が歌詩を付けた珍品で、よりソリッドなリズムのアレンジが面白い。8.「ソバカスのある少女」は鈴木茂と南佳孝(ゲスト)が歌ったうロマンチックな歌だったが、私的には南佳孝が鈴木のバックで出した1977年のカバー・シングルのほうに愛着を覚える。10.「トゥインクル・クリスマス」はEPOが札幌マルサのキャンペーン配布用に制作した非売品シングルで、アレンジャーが当時メジャー・デビューして間もなかった小西康陽だったという縁がある曲。そういえば大貫さんは前年の1985年に同様の企画で「森のクリスマス」を録音していたね。なおEPOの録音は、「森のクリスマス」とともに 2012年MIDI制作のコンピレーション・アルバム「Winter Tales II」に収録された。

1970〜1980年代の名曲を題材に、小西が1990年代のグルーヴで焼き直すことで新たなサウンドを生み出している。この手のマニアックな音楽が好きな人向けのアルバムだ。特に「突然の贈りもの」は数多くのカバーがある名曲であるが、ここでのアレンジは最も特異かつ独創的なものになっている。

[2024年8月作成]


 
Miracle Love/あいたい気持ち  牧瀬里穂 (1991)  Pony Canyon    

 

1. 会いたい気持ち I Dream Of You [作詞作曲 大貫妙子 編曲 中村哲] CDシングル2曲目

牧瀬里穂: Vocal

1991年10月30日発売

1. Aitai Kimochi I Dream Of You (I Want To Meet You I Dream Of You) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Satoshi Nakamura] CD Single 2nd Track, October 30, 1991

 

牧瀬里穂(1970- 福岡県出身)は、1989年12月山下達郎の「クリスマス・イブ」が流れるJR東海「クリスマス・エクスプレス」のCMで有名となり、1990年に出演した映画でトップスターへの仲間入りを果たした。そんな彼女が歌手に挑戦して最初に出したシングルが本作だ。メインは竹内まりや作詞作曲の「Miracle Love」(編曲 小林武史)で、本人が出演した三菱電機のビデオカメラ、郵便貯金のCMに採用され、売り上げ30万枚の大ヒットとなった。

大貫さんが書いた「会いたい気持ち」はそのカップリングにあたる。編曲の中村哲は、サックス、キーボード奏者、編曲家で、ホーン・スペクトラム、プリズムに参加した人。米国西海岸を思わせる爽やかなサウンドの曲だ。本曲は1993年9月に発売された彼女唯一のアルバム「PS. RIHO」には未収録で、2002年のベスト盤「My これ!クション 牧瀬里穂 Best」に収められた。なお彼女は1995年3月のシングル盤を最後に音楽活動を止め、女優業に専念している。

なお「Miracle Love」は、翌年に竹内が出したシングル「マンハッタン・キス」のカップリングとしてセルフカバーされた。こちらは夫君の山下達郎アレンジなので、牧瀬のバージョンとの聴き比べの面白さがある。

[2024年9月作成]


   
1992年  「Drawing」 (1992/2/26発売)の頃   
Super Folk Song  矢野顕子 (1992)  Epic (Sony)      
 

1. 横顔 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 矢野顕子] 4曲目

矢野顕子: Vocal, Piano

1992年6月1日発売

1. Yokogao (Face In Profile) [Music: Taeko Onuki, Arr: Akiko Yano] 4th Track by Akiko Yano from the album "Super Folk Song" June 1, 1992

 
文句なしの歴史的名盤。

矢野顕子(1955- 東京都生まれ、青森県育ち)は1976年「Japaese Girl」でデビュー後、コンサートの一部でピアノの弾き語りを演っていた。その模様は2枚目のライブアルバム「長月 神無月」1976のA面で伺うことができる。そして1982年からピアノが1台あれば何処へでも赴くという弾き語りライブ「出前コンサート」を始める。そして10年後の1992年満を持して制作したのが本作だ。録音にあたっては、スタジオではなく音響の良いコンサート・ホール(東京都千駄ヶ谷の津田ホールと長野県松本市のハーモニー・ホール)を借り切り、一切のテープ編集拒否にこだわって納得がゆくまで何度も録り直したという。その模様は同年公開された映画「Super Folk Song 〜ピアノが愛した女〜」(坂西伊作監督 その後VHS, DVDで発売)で観ることができる。弾き語りといっても、ジャズ、フォーク、ロックを跨いだ音楽性と比類なき演奏力・感性によって空前絶後のスタイルを確立し、彼女の琴線に触れた名曲をカバーするという離れ技をやってのけたのだ。

各曲毎に本人のコメントが付いていて、大貫さんの名曲1.「横顔」(アルバム「Mignonne」1978収録)は「世界有数のソングライターである大貫妙子は私の大切な友達でもあります。もっと歌いたい曲もあるのですが、早くうまく歌えるようになりたいと思います。そしたら又、聴いてきださいね」という彼女にしてはしおらしい内容。原曲とアーティストに対する尊敬の念がはっきり出ていて、歌が入る部分はピアノ演奏の独特なタイム感覚はあるものの比較的大人しいプレイだ。それに対して間奏とエンディングになってピアノのみになると、思い切りはっちゃけた感じに変貌するのが凄い。彼女はその後も本曲を演奏し続け、2007年発売のDVD「音楽のちから 吉野金次の復帰を願うコンサート」で大貫さんと共演、さらに2018年のアルバム「ふたりぼっちでゆこう」で二人のデュエットによる正式録音が実現した。

他の曲について。「Super Folk Song」(作詞 糸井重里 作曲 矢野顕子 編曲はすべて矢野顕子なので以下記載省略)1曲目は、糸井のアルバム「ペンギニズム」1980のセルフカバー。ナンセンンスながらもイメージが無限大に広がってゆく歌詞を縦横無尽に歌いこなしている。「大寒町」2曲目はムーンライダーズのベーシスト鈴木博文が書いた曲を素直に歌っていて、あがた森魚の名盤「噫無情(レ・ミゼラブル)」1974がオリジナル。「Someday」(作詞作曲 佐野元春)3曲目は1981年佐野4枚目のシングルが初出。ここでは原曲のメロディーとリズムを大幅に崩して自由気儘に歌っている。「夏が終わる」(作詞 谷川俊太郎 作曲 小室等)5曲目は、デビュー前に小室のアルバム「いま生きているということ」1976の録音に参加し、同曲でピアノを弾いたのが原点。草の名前が並んだ歌詞の中にカミソリのような鋭い言葉が差し込まれる恐ろしい曲だ。「How Can I Be Sure」(作詞作曲 Felix Cavaliere, Eddie Brigati) 6曲目はアメリカのグループ、ヤング・ラスカルズ1967年の曲で全米4位のヒットを記録。いかにも山下達郎が好きそうなメロディーだね。

「More And More Amor」(作詞作曲 Sol Lake) 7曲目は、ジャズ・ギタリストのウェス・モンゴメリーが1966年に出したライトな感じのアルバム「California Dreamin'」収録のインストルメンタルのカバーで、矢野はピアノを弾きながらメロディーをハミングしていて、若い頃聴いたジャズへの愛着が伺える。「スプリンクラー」(作詞作曲 山下達郎)8曲目は山下11枚目のシングル 1983から。「おおパリ」(作詞 イッセー尾形 作曲 矢野顕子)9曲目はイッセーの劇の幕間に使用された曲を歌ったもの。「それだけでうれしい」(作詞 宮沢和史 作曲 矢野顕子)10曲目は1992年5月2日にThe Boomが矢野とのコラボとして発表した曲をソロで取り上げたもの。「塀の上で」(作詞作曲 鈴木慶一)11曲目は、はちみつぱいのアルバム「センチメンタル通り」1973に収められていた名作。「中央線」(作詞作曲 宮沢和史)12曲目はThe Boomのアルバム「Japaneska」から。矢野はコメントで「中央線沿線に生まれ、長い時間そこで過ごし、そしてまた遠くの地に移っていった私のようなものにとって、宮沢さんがこの曲を書いてくれたことは大きなプレゼントでした」と述べている。最後の「Prayer」(作詞 矢野顕子 作曲 Pat Metheny) 13曲目は親交のあるギタリスト、パット・メセニーが矢野のために書いた曲に歌詞をつけたもので、歌詞・曲ともに素晴らしい作品。パットは16年後の2008年に制作されたライブ・アルバム「Tokyo Day Trip」で本曲をインストでセルフカバーしたが、これも最高の出来だ。

ということで全曲を紹介したが、そうする価値がある捨て曲がないアルバムなのだ。以前に矢野が大貫さんの曲を歌った「いらないもん」1981は実験的な曲だったため、本アルバムの「横顔」が本格的に大貫作品を歌った最初の曲ということになる。

[2024年10月作成]


Garden   原田知世 (1992)  For Life     
 

1. Walking [作詞 大貫妙子 作曲編曲 中西俊博] 4曲目

原田知世: Vocal, Co-Producer
中西俊博: Violin
桑野ストリングス: Strings
Unknown: Piano, Guitar, Bass, Drums

鈴木慶一: Producer


1992年8月21日発売

1. Walking [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Toshihiro Nakanishi] 4th Track by Tomoyo Harada from the album "Garden" August 21, 1992

原田知世10枚目のアルバムは鈴木慶一プロデュース(原田はコ・プロデュース)で、全11曲中彼女の自作は2曲で、鈴木慶一は作詞作曲が2曲、作詞のみが1曲、作曲のみが3曲。編曲は鈴木と原田が2曲(彼女の自作曲)、鈴木が5曲という内訳。当時の鈴木はムーンライダースの新作のための曲作りとかち合ったため、一部の曲につき親しいアーティストに作曲作詞や編曲を依頼したそうで、結果的にそれが作品の多様性に貢献している

ジャケットに掲載された鈴木の言葉によると、鈴木は制作にあたり彼女の事を徹底的に知ることから始めたという。鈴木と原田の共同作業(鈴木は「庭いじり」と呼んでいて、それがアルバムタイトルになっている)は、曲作りとアレンジにおいては各自がコンピューターでサンプルを作って持ち寄り、音の良し悪しにつき話し合いながら決めていったそうだ。結果として鈴木好みの音楽に仕上がったように聞こえるが、同時に原田の感性が強く反映された作品となった。シンセサイザーと打ち込みを中心としたサウンドで、少々奇をてらった感はあるが、1990年代の新しい波のなかで歌詞・メロディー・演奏すべてにおいてクリエイティブであることは確か。いままでのお仕着せの企画を歌うアイドル歌手的な立ち位置を抜け出して、主体性を持って自ら創造に携わるアーティストに変貌を遂げてゆくキャリア転換期の作品といえよう。

大貫さんが作詞しバイオリニストの中西俊博が作曲・編曲した1.「Walking」は、その中でも息抜きとなるアコースティックな音つくりになっていて、スローなリズムを奏でるリズムセクションとストリングスをバックに中西のバイオリン・ソロが甘く響くスタンダード・ジャズ風に仕上がっている。初期はか細く不安定だった彼女の声は、この頃になると進化を遂げて厚みのあるノンビブラートの個性を確立している。各曲の歌詞の下にはクレジットが表示されているが、本曲については中西とストリングスのみの記載でリズムセクションのミュージシャン達の名前はなかった。

また本作の最後には1985年の7枚目のシングル「早春物語」(作詞 康珍化 作曲 中崎英也)の再録音が収められていて、これも中西編曲によるストリングス中心の音作りとなっており、6年間における彼女の音楽的・人間的成長を目の当たりにすることができる。

「Walking」はニューウェイブ調のアルバムのなかにあって異色のクラシカルな曲で、大貫さんらしい持ち味がしっかり生かされている。

[2024年9月作成]


ツレちゃんのゆううつ イメージ・アルバム (1992)  Pony Canyon   
 





1. 夢からさめないで〜ツレちゃんのゆううつ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 有賀啓雄] 1曲目
2. 色彩都市 [作曲 大貫妙子 編曲 vivre ensemble] (Instrumental) 8曲目
3. 横顔 [作曲 大貫妙子 編曲 vivre ensemble] (Instrumental) 9曲目 

羽田恵理香: Vocal (1)
かしぶち哲郎: Keyboards, Synthesizer, Drums
羽毛田丈史: Keyboards, Synthesizer, Piano
浜田均: Vibraphone (3)
武川雅寛: Violin (3)
千代正行: Guitar
渡辺等: Wood Bass (3), Cello (2)

注: vivre ensemble = かしぶち哲郎、羽毛田丈史

写真上: 紙ボックス 表紙 1992年9月18日発売
写真中: CDジャケット 表紙
写真下: CDシングル盤 表紙 1992年7月17日発売

1. Yume Kara Samenaide〜Tsurechan No Yuuutsu (Don't Wake Me Up From My Dreams〜Melancholy Of Tsurechan) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuo Ariga] 1st Track, Sung by Erika Haneda
2. Shikisai Toshi (Colored City) [Music: Taeko Onuki, Arr: vivre ensemble] 8th Track, Instrumental
3. Yokogao (Face In Profile) [Music: Taeko Onuki, Arr: vivre ensemble] 9th Track, Instrumenta
from the album "Tsurechan No Yuuutsu Image Album"(Melancholy Of Tsurechan Image Album) September 18, 1992

Note: vivre ensemble = Tesuro Kashibuchi, Takefumi Hakeda


三島たけし作の漫画「ツレちゃんのゆううつ」は集英社「ヤングジャンプ」に1988年から1993年まで連載され、単行本は全13巻発売された。小学一年生の夢野ツレオは母親と二人暮らし。飛んでる彼女と恋人のような会話をし、マセた女の子の友達に振り回されて、時に憂鬱になりながらも楽しく暮らしているという筋で、動きのない静止画像のような画面や母親の長い足のデフォルメなど、ポップなイラストレーション風の描写が特色の漫画だ。

1992年9月1日刊行の単行本第8巻に合わせて発売されたのが本CDで、漫画自体はアニメ化されていないため、原作のイメージに合わせて制作されたアルバムになっている。紙ボックスとCDジャケットの装丁センスの良いデザインに三島が書いたイラストが満載で、見ているだけでも楽しい。音楽担当は、ムーンライダースのかしぶち哲郎(1950-2013) と作曲・編曲・プロデュースを数多く手掛けた羽毛田丈史(1960- ) の二人からなるユニット、vivre ensemble (「共に生きる」、「一緒に住む」、「一緒に行く」という意味)だ。そして歌い手は、アイドル・グループCoCoのメンバー羽田恵理香と、子供向け、アニメソングを多く手掛けたセッション・シンガーの新居昭乃(1988年に大貫さんの「メトロポリタン美術館」を歌った人)。一編の漫画のためのイメージアルバムといっても手抜きは一切なく、わくわくするような新鮮なアイデアがいっぱい詰め込まれていて、原作が持つペカペカしたふわふわ感が見事に表現されている。制作者達の当該漫画に対する愛着の成せる技だろう。

大貫さんが作詞・作曲した「夢からさめないで〜ツレちゃんのゆううつ」は主題歌に相当する位置づけで、軽くポップなテクノサウンドをバックに羽田が歌う。音程面で若干不安定な歌唱なんだけど、それがむしろ歌の雰囲気にあっている感じ。編曲は作曲家、プロデューサーの有賀啓雄(2023没)。なお本曲は7月17日に羽田恵理香名義のシングル盤で先行発売された。2.「色彩都市」、3.「横顔」は大貫さんの代表曲のインスト・アレンジで、アルバムに仕立てるための曲数不足を補うために製作された感があるが、単なる埋め合わせでなく、むしろvibre ensembreの二人が嬉々として取り組んだような形跡がある。前者はリズムが強調されて、曲の持つカラフルなイメージがさらに増幅されていて、特にラストのサンバっぽくなるあたりは最高!後者は一転しっとりしたジャズのアレンジで、バイオリン(ムーンライダースの武川雅寛)、ヴァイヴ、ピアノがソロを取っている。特にバイオリンの切ない響きが愛おしい。なお原作者と大貫さんの関係については不明だが、ツレちゃんのお友達で細野妙子という女の子がいて、そのキャラが何となく大貫さんに通じるものがあり、彼女に対する作者の思いが込められているのは明らかだ。それにしてもこの苗字は確信犯だね?

その他の曲も捨て難い。羽田が歌う「With Me」(作曲作詞 Bob Crewe、Sandy Lizar, Denny Randell 日本語詞 及川眠子 編曲 有賀啓雄)3曲目は、作者のクレジットから調べてみたら、あのフォーシーズンズやフランキー・ヴァリの作曲(「Can't Take My Eyes Off You」など)やプロデュースをしたボブ・クルーで、曲は彼が制作したガールズ・グループ、ザ・ラグ・ドールズの「Dusty」1965 全米55位が原曲だった。女性版フォーシーズンズにビーチボーイズの香りを付けたサウンドの原曲も素晴らしいが、オリジナルに敬意を表したアレンジに日本語詞をつけて、羽田の可愛い声を載せた本作のプロダクションも最高。なお日本語歌詞を書いた及川眠子は、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニング曲「残酷な天使のテーゼ」1995の歌詞を書いた人だ。なお本曲は上述のシングル盤「夢からさめないで〜ツレちゃんのゆううつ」のカップリングとして収録された。「星のHeartache」(作詞 及川眠子 作曲 かしぶち哲郎 編曲 vibre ensembre)6曲目は、羽田が歌うキュートなヨーロピアン・テクノポップ。なおこの曲については、テレビ番組などでの歌唱で使われた全く異なるアレンジがある。

新居昭乃の歌は3曲。「Nocturne」(作詞 森由里子 作曲 羽毛田丈史 編曲 vibre ensembre)4曲目は素敵なボサノヴァで、フランス語を散りばめた歌詞と囁くようなボーカルがコケティッシュ。「月に祈りを」(作詞 及川眠子 作曲 かしぶち哲郎 編曲 vibre ensembre)7曲目はかしぶちのカラーが良く出た作品だ。「ツレちゃんのゆううつ」(作詞 三島たけし 作曲 新居昭乃 編曲 vibre ensembre)10曲目は、作者が書いた歌詞に歌手の新居が作曲したドリーミィーな作品。新居は他に面白いインスト曲「きょうは 晴れ のち 曇り ときどき 雨 〜Morning Song〜」(編曲 vibre ensembre)2曲目の作曲も担当している。ちなみに「Nocturne」と「ツレちゃんのゆううつ」の2曲は、ずっと後の2019年に発売された新居のコンピレーション・アルバム「Another Planet」に収められている。

三島たけしは、その後1998年「少年ガンガン」に「MD五エ門」という漫画を発表したが不評だったようで、単行本1冊のみで終わってしまい、その後は作品発表の記録がない。

原作の漫画と本作の音楽ともに、今ではすっかり忘れ去られてしまったが、大貫さん以外の作品も含め、そのまま埋もれさせるには誠に勿体ないファンタスティックな作品。

[2024年9月作成]


 
1993年  「Shooting Star In The Sky」 (1993/9/22発売) の頃 
Everlastig Love / Not Crazy To Me  中森明菜 (1993)  MCA Victor    

 

1. Everlasting Love [作詞 大貫妙子 作曲編曲 坂本龍一] シングルA面

中森明菜: Vocal
坂本龍一: Keyboards、Synthesizer
Others: Unknown

1993年5月21日発売

1. Everlasting Love [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Ryuichi Sakamoto] Single A-Side by Akina Nakamori form the single May 21, 1993

 

中森明菜27枚目のシングルで、カップリングの「Not Crazy To Me」 [作詞 Nokko 作曲編曲 坂本龍一] と共にA面扱いで発売された。ワーナーを離れMCAヴィクターに移籍して初めてのリリースで、アルバム「Unbalance + Balance」と同時期に制作されたが、アルバムには「Not Crazy To Me」のみ収録された。

シンセサイザーが穏やかなリズムを刻む重厚なスローバラードで、中森の歌の上手さが際立っている。陰影のある大貫さんの歌詞と漂うような坂本のメロディーが素晴らしい。一方「Not Crazy To Me」はダンサブルな曲で、両曲合わせてオリコン10位のヒットを記録した。

なお本曲は、上記のアルバムが2002年「Unbalance + Balance +6」としてリイシューされた際にボーナス・トラックとして収録された。

[2024年10月作成]


1994年  「Shooting Star In The Sky」 (1993/9/22発売) 「Tchou」 (1995/4/19発売)の頃 
T'en Va Pas  Creole (1994)  For Life   
 


1. 彼と彼女のソネット (T'en Va Pas) [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 Taeko Onuki  編曲 Creole] 6曲目

キャット・ミキ : Vocal
駒沢裕城: Pedal Steel Guitar
桜井芳樹: Gut Guitar

角田敦: Producer

1994年2月18日発売

1. Kare To Kanojyo No Sonnet (T'en Va Pas) (His And Her Sonnet) (Don't Go) [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Creole] 6th Track by Creole from the album "T'en Va Pas"  Febuary 18, 1994

1990年代の音楽は、目覚ましい技術進歩でシンセサイザーやコンピューター・プログラミングによる打ち込みなどが以前より遥かに安価かつ手軽にできるようになり、その恩恵をフルに生かした若い人たちが新しい音楽を作り始めるようになった。また演奏面でも以前のようなフルバンドを必要とせず、サウンドの全てまたは多くをプログラミングにより自分の手で生み出すことが可能になったのだ。それは以前よりもソリッドでメタリックな肌触りの音となったが、ダンス・ミュージック、DJの隆盛と相まって音楽界を席巻してゆく。そして1980年代との違いは、今までの古き良き伝統を頭ごなしに否定せず、むしろその良さを積極的に取り入れようとする度量の大きさにあり、その考えは2000年代以降も引き継がれて、現在の肥沃な音楽世界の土壌を生み出したといえる。

本作はそういう機運の黎明期の作品のひとつといえる。クリオールは、後にダンス・ミュージック、DJの分野で大成しJDDA (Japan Dance Music & DJ Association) の代表理事となるプロデューサー、作曲家、DJの角田敦を中心とした音楽ユニット。ユニット名の「クリオール」という言葉の元々の意味は、西インド諸島、中南米、インド洋西部、ルイジアナ州で生まれたスペイン・フランス人のことであるが、そこから派生して「異質なものの混淆から生まれて元とは異なる新しい存在になったもの」を意味する。ここではブラジル音楽を核として、様々な他の要素を取り入れることで新しい音楽を創り上げている。

大貫さんが日本語詞(元の詩と内容が全く異なるため「訳詞」ではない)を書いた1.「彼と彼女のソネット」は、フランスの歌手エルザが歌った1986年の「T'en Va Pas」がオリジナル(その名前が本アルバムのタイトルになっている)。日本語バージョンは1987年の原田知世が最初で、その少し後に大貫さんが「A Slice Of Life」でセルフカバーしている。いずれも原曲に近いリズミカルなフレンチ・ポップ風サウンドだったが、ここではガットギターによるアルペジオとペダル・スティールギターのみでリズムなしという大胆なアレンジが施されている。ギターの桜井芳樹は、クリオールのほとんどのセッションに参加したユニットの主要人物で、現在はロンサム・ストリングスというグループで活躍中。駒沢裕城はかつて荒井由美などティンパンアレイ系のセッションで大活躍した人だ。ここでの原曲をスローテンポに調理した試みは意外なほどうまくいっていると思う。ボサノバの歌唱に典型的な感情を押し殺したようなボーカルも良い。歌っているキャット・ミキはインターネットの資料が少なく、詳細不明(匿名シンガーかもしれない)であるが、フジテレビが制作した新感覚の子供番組「ウゴウゴ・ルーガ」1992 第1期のテーマソング「こどもなんだよ」(作詞 キャット・ミキ 作曲 近田春夫)というモノスゴイ曲を残している人。

他の曲について。アルバム帯のキャッチフレーズに「都市生活者のライフ・スタイルをスケッチするアンティミスト・ミュージック。シンプルでハートフルなアコースティック・サウンドが心地いいクレオールが贈るフェイク・ボサノバ」(「アンティミスト」とはフランスの印象派絵画の作風で、家族や友人の日常的な情景を親密な情感で描くことで「親密派」と訳される)とあるが、ガットギターやピアニカ前田によるピアニカなどの生楽器に対し、キーボードがシンセサイザー、打楽器は打ち込みであることがミソ。これも「クリオール」たる所以だろう。ブラジル風のリズムを打ち込みで処理することにより、新しい感覚のグルーヴが生まれていて、大貫さんの「Samba de Mar」1981(「Aventure」収録)を深化・発展させたようなサウンドなのだ。近田春夫作詞作曲による「Deja-vu」(編曲 クリオール)3曲目や、気怠い感じの「Holiday」(作詞作曲 森若香織 編曲 クリオール)4曲目、「海へ行こう」(作詞作曲 佐藤清喜 編曲 クリーオール、佐藤清喜)11曲目などが面白い。一方キャット・ミキによるアカペラ歌唱「みんな夢の中」(作詞作曲 浜口庫之助 高田恭子1969年のヒット曲)もある。

参加メンバーは、1970年代からずっと最先端で活躍してきた近田春夫と関係ある若い人達で、後に冨田ラボで一世を風靡する冨田恵一の名前もある。近田のような先人が打ち立てた音楽をベースとして新しいものを創造しようとする気概を感じるアルバム。ちなみに彼らは、同時期にほぼ同じメンバーで「Criola」というユニットのアルバムも出している。

大貫さんの「彼と彼女のソネット」のカバーの中で、最も大胆なバージョンのひとつ。

[2024年9月作成]

 
Weekend For Ladies  Various Artists (Transistor Glamour ) (1994) 日本コロムビア  
 

1. 恋人達の明日 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 細海魚] 8曲目 Artist Name: Transister Glomour

寺本りえ子: Vocal
細海魚: Keyboards, Synthesizer Programming
松田文: Ovation Guitar
木幡光邦: Trumpet, Piccolo Trumpet

高浪敬太郎: Producer

1994年6月1日発売

1. Koibito Tachi No Ashita (Lover's Tomorrow) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Sakana Hosomi] 8th Track by Transistor Glamour from the album "Weekend For Ladies" (Various Artists) on June 1, 1994

 
渋谷系のアーティスト高浪敬太郎が鈴木智文、細海魚と組んで制作した「働く女性の週末」をイメージしたコンピレーション・アルバム。

1994年ピチカート・ファイブを脱退した高浪は、ソロ活動と併行して自主インディー・レーベル Out Of Tune Records を立ち上げ、彼がプロデュースしたアルバムを発表した。本作は「K-Taro Takanami presents / performed by out of tune generation  busy doin' nothin'」という副題がついていて、「多忙な働く女性たちがリラックスした週末を過ごすための音楽」というコンセプトで制作され、メジャーレーベルの日本コロムビアから発売された。全8曲のうち4曲はTM Networkへ歌詞を提供していた小室みつ子が作詞、高浪と彼の音楽仲間である鈴木と細海が作曲を担当し、残りの4曲は1970年代後半〜1980年代前半のニューミュージックから知る人ぞ知る名曲をカバーしている。そして彼らの演奏をバックに4人の女性ボーカリストが歌っている。

1.「恋人達の明日」は大貫さんのアルバム「Aventure」1981がオリジナル。Transistor Glamour という寺本りえ子と細海魚のユニットによる演奏で、彼らは同名義でOut Of Tune Recordsからアルバムを発表している。寺本はスピッツのアルバムやコンサートにも参加していたが、現在は音楽活動を止めて料理研究家として活躍している。細海魚は作曲・編曲家、プロデューサー、プレイヤーとして現在も元気に活動中。ここでは大胆なアレンジが施されていて、レゲエのリズムに乗せて、オリジナルのコード進行を無視した無色のエレクトロ・ポップから始まり、ヴァースの後半からコード進行が効いた色彩感あるサウンドに転換する対比が面白い。寺本のボーカルは、ゆったりしたサウンドのなかを漂うような感じで、7分間にわたりじっくり聴かせてくれるアルバム最後を飾るに相応しい出来。

他の曲について。「Just I Love」(作詞 小室みつ子 作曲編曲 鈴木智文)1曲目。サンバ・リズムの軽快な曲で、和泉恵のボーカルもいい感じであるが、彼女についはインターネット情報がない謎の歌手。「キッシング・フィッシュ」(作詞 佐藤奈々子 作曲 加藤和彦 編曲 高浪敬太郎)2曲目は、現在は写真家として活躍する佐藤奈々子1979年のアルバム・タイトル曲。私が大好きだった人で、洋楽風の日本語歌詞と加藤和彦のメロディーがファンタスティック。ここでは当時のドリーミーなサウンドを生かしながら1990年代のスパイスを上手くブレンドしている。ボーカルの戸川京子(2002年没)は子役でデビューした女優・歌手だった。

「パープル・モンスーン」(作詞作曲 上田知華 編曲 鈴木智文)6曲目は上田知華(2021年没)1980年の代表作。原曲を凌駕するアレンジで、歌っている野田幹子はシンガーソングライター以外にソムリエとしても活躍している。「ジュ・マンニュイ」(作詞 荒井由美 作曲 渡辺俊幸 編曲 鈴木智文)7曲目は、ハイファイセット1976年のアルバム「ファッショナブル・ラヴァー」に入っていた曲で、そこでは男性の大川茂が歌っていた。ここでのボーカル担当は和泉恵。

4曲のカバーが素晴らしいので上述したが、オリジナル作品もみな良い出来だと思う。

1970年代〜1980年代のニューミュージックのエッセンスを1990年代の音楽に取り込んで、新たなサウンドを作り出した人達による素敵なアルバム。大貫さんの「恋人達の明日」の一風変わったアレンジが楽しめる。

[2025年2月作成]


  
Sweet Revenge  坂本龍一 (1994)  gut (For Life)   





 

1. 二人の果て [作詞 大貫妙子 作曲編曲 坂本龍一] 3曲目
2. 君と僕と彼女のこと [作詞 大貫妙子 作曲編曲 坂本龍一] 13曲目

坂本龍一: Vocal, Keyboards, Computer Programming (1), Producer
今井美樹: Vocal (1)
高野寛: Vocal (2), Guitar (2)
Lawrence Feldman: Flute (1)
David Nadien: Strings Section Leader (1)
Cyro Baptista: Percussion (1)
Towa Tei: Studio Vision, Akai S-3200, SP-1200 (1), Drum Programming (2)

写真上: アルバム 1994年6月17日発売
写真下: シングル「二人の果て」 1994年11月18日発売


1. Futari No Hate (The End Of Two) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Ryuichi Sakamoto] 3rd Track
2. Kimi To Boku To Kanojo No Koto (You, Me And Her) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Ryuichi Sakamoto] 13th Track
by Ryuchi Sakamoto from the album "Sweet Revenge" June 17, 1994
 
坂本10枚目のアルバムで、個人レーベル「グート」からのリリース。今回挑戦したヒップポップ・ラップ曲と、従来からのフランス映画音楽、ボサノヴァ、現代音楽風の曲からなる。

大貫さんが詩を書いた2曲は「フランス映画音楽」路線で、坂本・大貫のコラボ作品の曲調に近い。アンニュイなムードの詩とメロディーがヨーロッパ的な知的退廃の世界を醸し出していて、英語主体のアルバムの中で日本語で歌われていることもあって全体のなかで清涼剤的な役割を担っている。1.「二人の果て」の男女の愛の行き着く果ての情景はフランス映画「男と女」を連想する気怠いイメージ。坂本とユニゾンで歌っているのは今井美樹 (現在は布袋寅泰の奥さん)で、同時期に発表された彼女のアルバム「A Place In The Sun」のサウンド・プロデュースと作曲を担当していた縁からの参加だろう。エンディングのスキャットでボサノヴァのリズムになるところがお洒落。なお本曲はシングル盤で発売され、そのジャケット写真は大貫さんのアルバム「Mignonne」のオマージュ(パロディ?)になっている。また今井が出演した明治製菓のチョコレート「Melty Kiss」のCMで使用された。2.「君と僕と彼女のこと」は男性二人と女性の複雑な三角関係を描いた曲で、短いドラマを観ているような味わいがある。サウンド的に大貫さんが歌って自身のアルバムに収めても全く違和感がない感じ。ここでは高野寛が坂本と一緒に歌い、ギターも弾いている。なお本作は海外版(International Version)が別途制作されていて、そこではこれら2曲は同じバッキング・トラックに異なる内容の英語歌詞(作詞 Vivien Goldman) が付けられていて、各「Sentimental」、「Water's Edge」というタイトルで外人シンガー(Vivian Sessoms, Andy Caine)が坂本と歌っている。

他の曲について。ヒップポップ、ラップ曲については、自分の持ち味であるフランスやブラジル音楽、現代音楽のエッセンスを織り込んだ「SweetでRadical」な音楽を目指したというが、私はこの手の音楽はよくわからないのでなんとも言えない。ただ聴き手からみて坂本龍一が挑戦する必然性が本当にあったのかなという感じがする。私的にはボサノヴァ的な曲が好きで、「Anna」(作曲編曲 坂本龍一)9曲目、「Psychedelic Afternoon」(作詞 David Byrne 作曲編曲 坂本龍一 作詞者は元トーキング・ヘッズの人)11曲目がいいね。またボサノヴァとラップをかけ合わせた「Interuptions」(作詞 Latasha Natasha Diggs 作曲編曲 坂本龍一)12曲目もクリエイティブな感じでとても良いと思う。映画音楽・現代音楽路線では、もともとはベルナルド・ベルトリッチ監督の映画のために書かれたという「Sweet Revenge」(作曲編曲 坂本龍一)7曲目は坂本らしいサウンド。大貫さんの2曲とインストルメンタル以外はすべて英語の歌で、アズテック・カメラのロディ・フレイム、元フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのホリー・ジョンソンなど著名なシンガーが参加している。

大貫さんが歌詞を提供した2曲は、日本版においてであるがアルバムのムードを決定付ける重要な曲だと思う。

[2024年10月作成]


French Lips  Various Artists (1994)  日本コロンビア    
 

1. 哀愁のアダージョ(彼と彼女のソネット) [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 Taeko Onuki  編曲 池田健司] 8曲目

T. Yumi: Vocal
池田健司: Programming, Arrangement, Co-Producer
吉永多賀士: Producer

1994年7月21日発売

1. Aishu No Adagio (Kare To Kanojyo No Sonnet) "Adagio Of Sorrow" "His And Her Sonnet" [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Kenji Ikeda] 8th Track from the album "French Lips" by Various Artists, July 21, 1994

 
1990年代の新感覚女性アーティスト達がフレンチ・ガールズ・ポップを歌う企画盤。仕掛け人は全曲でプロデュースを担当した吉永多賀士(Takashi "Gitane" Yoshinaga) のようだ。アーティスト4名によるオムニバス・アルバムで、全9曲中2曲を除き日本語で歌われている。また本場もののカバーは6曲で、残り3曲は日本で創られた和製フレンチポップという構成。

大貫さんが日本語詞を書いた「T'en Pa Vas (哀愁のアダージョ)」は原曲の曲名で、ここでは「彼と彼女のソネット」は副題となっている。歌っているT. Yumi はライナーノーツで「契約の関係で、彼女の正体を明かせないのが残念」とある通り変名であるが、当時の音楽シーンとその名前からシンガー・アンド・ソングライターの谷村有美と思われる(ただしインターネットで証拠が見つからなかったので、あくまで憶測です)。アレンジはエルザの原曲や原田知世のカバーに近く、打ち込みによる演奏。本アルバムの他の曲と異なり、奇をてらわず原曲の美しさに忠実なプロダクションとなっている。なお歌詞面では原田のバージョンにあったフレーズはなく、大貫さんのカバーと同じ内容だ。

T.Yumi のもう1曲「Chantons D'Amour (シャントン・ダムール)」(作詞 Jear Terisse 作曲 井上大輔 日本語詞 岩城由美)7曲目は、フランス系アメリカ人のナタリーという歌手が歌い、第一興商のCMソングに採用されたフランス語曲で、本アルバムと同じ日本コロンビアから発売された同名アルバムのボーナス・トラックとして収録された日本語バージョンのカバー。井上大輔(元ジャッキー吉川とブルーコメッツの井上忠夫(1941-2000))による明るく軽快なメロディーが素敵な佳曲。

他の曲について。Suzy Susieというガールズ・グループが3曲。1990年代前半に流行ったグランジ・ロック特有のチープな響きと少し投げやり風なボーカルが面白いサウンドのバンドだ。「Joe le Taxi (夢見るジョー)」(作詞作曲 Etienne Roda, Gil, Franck Langolff 日本語詞 岩城由美 編曲 Suzy Susie)1曲目、「Be My Baby」(作詞作曲 Lenny Kravitz, Henry Hirsch 日本語詞 岩城由美 編曲 Suzy Susie) 2曲目はいずれもフランスの歌手・俳優ヴァネッサ・パラディ(Vanessa Paradis) 1987、1992年のカバー。原曲とは大幅に異なるアレンジで、彼らの他の曲のようなヘビーなサウンドではないが、独特のチープな響きは魅力的。「Orages de Passions (嵐のデート)」(作詞作曲 Suzuy Susie, Kazu 編曲 池田健司) 9曲目は大阪でest-one というマンションのCMに使われたそうで、ノスタルジックな雰囲気がいい感じのキュートな曲だ。

シンガー・アンド・ソングライター、編曲家、プロデューサー、キーボード奏者のYoko Ueno with candy box orchestra (上野洋子)が2曲。いずれもフランスの男女二人組グループ、ブルース・トットワール(Blues Trottoir) 1989年のカバーで、「La Gosse (セルロイドの夢)」(作詞 Clemence Lhomme, 作曲 Pierre Papadiamadis 日本語詞 山田仁 編曲 池田健司)4曲目はジャズの香り漂うAOR、「Un Soir de Pluie (雨の舗道)」(作詞 Clemence Lhomme, 作曲 Jacques Davidovigi 日本語詞 山田仁 編曲 池田健司)5曲目はクールなボサノバで、上野のちょっとハスキーなヴォイスがコケティッシュ。

最後は5〜15歳をフランスで過ごしたというラジオ・パーソナリティー、歌手、声優のvie vieが2曲、流暢なフランス語で歌っている。「La Plus Belle Pour Aller Danser (アイドルを探せ)」(作詞 Georges Garvarentz 作曲 Charles Aznavour 編曲 池田健司)5曲目は1964年シルヴィ・バルタンの大ヒット曲のカバー。「Le Visiteur」 (作詞 vie vie 作曲 Yamazaki Suga 編曲 池田健司)6曲目は和製フレンチ・ポップス。いずれもボサノバ・アレンジで、後者は終盤に名曲「Summer Samba (So Nice)」のサンプリングが入る。

日本人がすなる洒落たフレンチ・ガール・ポップ。

[2024年10月作成]


Mauve  Miki fr Creole (1994)  For Life   


1. 彼と彼女のソネット (T'en Va Pas) [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 Taeko Onuki  編曲 渡辺貴浩] 2曲目

キャット・ミキ : Vocal
渡辺貴浩: Programming, Keyboards
桜井芳樹: Acoustic Guitar

角田敦: Producer

1994年7月21日発売

1. Kare To Kanojyo No Sonnet (T'en Va Pas) (His And Her Sonnet) (Don't Go) [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Creole] 6th Track by Creole from the album "T'en Va Pas"  July 21, 1994

アルバム「T'en Va Pas」から5ヵ月後に発売された6曲入りミニアルバムで、名義上ボーカルの(キャット)ミキがメインで、クリオールは「fr」 (フィーチャリング) となっている。タイトルの「モーヴ」は薄くグレーがかった紫色のことで、表紙の裸婦の抽象的イラストの色だ。

ここでも大貫さんが日本語詞を書いた1.「彼と彼女のソネット」を取り上げているが、全く異なるアレンジが施されている。編曲者でキーボード、打ち込み担当の渡辺貴浩は、近田春夫のバンド Vibrastone のメンバーだった人で、彼も他のメンバーと同じく近田人脈からの参加。オリジナルのメロディーはそのままに、コード進行を大胆に変えて桜井のギター、渡辺のシンセと打ち込みのパーカッションで一丁前のサンバに仕上がっている。それをバックにキャット・ミキがクールなボサノバ・ヴォイスで歌っていて、これも前作と同じく意外なほど良い感じ。

他の曲について。本作は歌手メインで制作されているため、実験的な要素があった前作と異なり、聴きやすい曲がそろっている印象。ほぼタイトル曲の「モーブの彼方」(作詞 桜井りさ 作曲編曲 桜井芳樹)1曲目、「時のないフィエスタ」(作詞 工藤順子 作曲編曲 角田敦)5曲目、特に「Wagamama」(作詞作曲 近田春夫 編曲 渡辺貴浩)4曲目がいい。特筆すべきは最後の曲「東京の伝書鳩」(作詞 外間隆史)で、作曲編曲そしてすべての演奏を冨田恵一が担当している。そしてこの曲は、2011年に発売された彼のベスト盤「冨田恵一 Works Best 〜Beautiful songs to remember〜」に最も初期の曲として収録されているのだ。歌詞がちょっと飛んでいるけど、本作のなかではシンセサイザーによるブラスセクションの音が入ったりして、とても新鮮に聞こえる。当時の彼はまだ無名で、名前が売れ出すのは3年後のキリンジと組んだ1997年頃からだ。

同じアーティストが、ほぼ同時期に、全く異なるアレンジでカバーした二つの「彼と彼女のソネット」.....。

[2024年9月作成]


 
Elephant Hotel  矢野顕子 (1994)  Epic (Sony)    

 

1. Oh Dad [作詞 菊池真美、矢野顕子 作曲 大貫妙子 編曲 Jeff Bova コーラスアレンジ 矢野顕子] 7曲目

矢野顕子: Vocal
Jeff Bova: Keyboards, Drums Programming
Chuck Loeb: Guitar
Will Lee: Bass
Tawatha Agee, Curtis King Jr., Brenda White King: Back Vocal

1994年10月1日発売

1. Oh Dad [Words: Mami Kikuchi, Akiko Yano, Music: Taeko Onuki, Arr: Jeff Bova, Chorus Arr: Akiko Yano] 7th Track by Akiko Yano from teh album "Elephant Hotel" October 1, 1994

 
エレファント・ホテルはマンハッタンの北に位置するウェストチェスター郡ソマースにある歴史的建造物。もとはホテルだったが、現在は市役所・資料館になっている。ハチャリア・ベイリーという農夫が1825年に建てたもので、彼はホテル名前の由来となる象をはじめとする珍しい動物を見世物として巡業することで成功した。それがアメリカにおけるサーカスの起源になり、彼の名を冠したサーカス団は2017年まで続いた。本アルバムは当該建物をタイトルとし、ジャケットの矢野のポートレイトもその前で撮影したものだ。

1990年のニューヨーク移住後4作目にあたり、後に「The Hammonds」という共同ユニットを結成してアルバムを出したキーボード奏者、作曲家、編曲家のジェフ・ボヴァや、ジャズ・ピアニスト、作曲家、編曲家のギル・ゴールドスタインが、編曲・演奏の核となり、ニューヨークを本拠地とする名だたるセッション・ミュージシャンが参加して、現地の空気感が漂う作品になっている。

1.「Oh Dad」は大貫さんの名曲「色彩都市」(アルバム「Cliche」1982所収)のメロディーに別の英語詞を付けたもの。矢野と共作した菊池真美は、アルバム・ジャケットに記された矢野の賛辞から高校時代の同窓生だったことがわかる。彼女はグレープを解散した吉田正美と茶坊主というデュオを結成して1976年「Tree Of Life」というレコードを出した他に、1980年代前半に矢野誠・顕子等が参加したレコードを製作するなど矢野と縁が深かった人だ。本曲は、青森在住時に一緒にジャズ喫茶に通って同音楽に目覚めるなど、矢野の音楽形成に大変重要な貢献をした大好きな父親に捧げる内容となっており、彼女にとっても大事な曲に違いない。ここでは彼女はコーラス以外のアレンジをジェフに任せ、自ら楽器の演奏もせずに歌に専念している。本アルバム中数曲がそんな感じで、人に任せることによってどう仕上がるかを楽しんている風がある。

アルバム全体的にクロスオーバーを矢野独特のスパイスで調理した感のあるサウンド。糸井重里作詞、矢野顕子作曲の「サヨナラ」3曲目、「夢のヒヨコ」 5曲目(テレビ番組ポンキッキーズの主題歌)、ナンセンス童話「にぎりめしとえりまき」10曲目が特に面白い。「すばらしい日々」 8曲目 (作詞作曲 奥田民生 編曲 矢野顕子)はユニコーン1993年のカバー。最後の沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」13曲目は宮澤和史の歌唱指導で録音したもので、矢野はかなり本格的に歌っている。それに対し間奏で挿入されるピアノソロ、ギターソロは思いっきりジャズしていて、その対比が鮮やかだ。

「色彩都市」のメロディーで、独自内容の英語詞と斬新なアレンジを楽しめる。

[2024年11月作成]


Tripping Triplets  Three Graces (1994)  東芝EMI


1. ワニのチャーリー [作詞作曲 大貫妙子 編曲 井上鑑] 3曲目

星野操: Vocal (Melody)
森本政江: Vocal (Alto)
白鳥華子: Vocal (Soprano)
井上鑑: Keyboards
松原正樹: Electric Guitar
高水健司: Bass
山田秀夫: Drums

1994年10月19日発売

1. Wani No Charlie (Charlie The Crocodile) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Akira Inoue] 3rd track by Three Graces (Misao Hoshino, Masae Morimoto, Hanako Shiratori) from the album "Tripping Triplets" October 19, 1994

スリーグレイセスは星野操(旧姓 石井 メロディ担当)、森本雅恵(旧姓 石井 操の姉 アルト担当)、白鳥華子(旧姓 長尾 ソプラノ担当)の3人からなるコーラスグループで、1958年に結成され1961年「山のロザリア」が大ヒットした。完璧なハーモニー・ボーカルを誇り、レコードの他に数多くのCMソングを歌った。1967年に3人の結婚を機として活動を休止したが、22年後の1989年に再結成し、CMソング、レコード、コンサート、テレビ出演などで活躍した。彼女等の歌で記憶に残っているのは、「魔法使いサリーのうた」1966で、園田憲一とディキシーキングスの演奏も最高だった。CMでは「明治チョコレート」、「セキスイハウス」かな。テレビでは「タモリの世界は音楽だ」1990-1991にハウスバンドのメンバーで出演(これは後から調べてわかったはなしだけど.....)。

本作は彼女等が1994年に出したアルバムで、タイトルは「飛び跳ねる三連音符」という意味でグループの音楽を表している。大貫さんの他に、岩沢二弓、矢野顕子、糸井重里、杉真理、上田知華、リンダ・ヘンリック、Epo、吉田美奈子、メリッサ・マンチェスター等という大変豪華な人達が書き下ろしで曲を提供。そして1曲を除き井上鑑がアレンジを担当することで、ジャズやスタンダード曲が主体だった彼女等の音楽に新しい風を吹き込んでいる。

大貫さんが作詞作曲した1.「ワニのチャーリー」 (アフリカのワニなので英語は「Crocodile」)は、「ピーターラビットとわたし」や「メトロポリタン美術館」系のメルヘン・ソングで、抽象的な歌詞に彼女のアフリカに対する思いと自然観が投影されている。3人の素晴らしいハーモニー・ボーカルを聴いていると生理的快感を覚えるほどだ。

他の曲では、ブレッド・アンド・バターの岩沢二弓作詞作曲の「Silvery Moon」1曲目のスタンダード・ソング的な味わい、フュージョン・ジャズっぽい「アフリカの夢を」(作詞 糸井重里 作曲 矢野顕子)2曲目、一転ストリングスとバイオリンの伴奏でJR東日本のCFソングに採用されシングル・カットされた「秋」(作詞作曲 矢野顕子)8曲目がとても良い感じで、矢野ファンにとってもコレクター・アイテムになる存在。「3度目の恋」(作詞 田口俊 作曲 杉真理)4曲目、Epoの作詞作曲による「七色の絵の具」10曲目 といったジャズっぽい曲も捨てがたい。本作唯一のカバー曲「恋はメレンゲ」(作詞作曲 大瀧詠一)9曲目は大瀧の「Niagara Moon」1975がオリジナルであるが、ここでは星野操による英訳詞で歌っており、大瀧と縁が深かった井上のアレンジも面白い。吉田美奈子の「Tomorrow」11曲目は彼女らしいゴスペルの香りがする曲で、ソロボーカル・プラス・バックコーラスのスタイルでじっくり歌われる。最後の曲「Flowers For Emily」(作詞作曲 Amy Sky, Melissa Manhester)12曲目はメリッサ本人による録音はなく、どのような経緯で彼女等が歌う事になったのかは不明。なお演奏面では土岐英史のサックスソロ、松原正樹のギターソロが随所で楽しめる。

発売後30年経ち、すっかり忘れ去られてしまった感があるが、豪華な作家陣と素晴らしい歌唱・演奏による掘り出しもの作品と断言できる。

[2024年10月作成]


 
晴れた日、雨の夜  区麗情 (1994)  Sony  
 

1. 蜃気楼の街 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 Robbie Buchanan コーラス・アレンジ 西脇辰弥] 5曲目

区麗情: Vocal
Robbie Buchanan: Keyboards
Bob Mann: Guitar
Jimmy Johnson: Bass
Rus Kunkel: Drums
Mike Fisher: Percussion
Arnie Watts: Tenor Sax
河合夕子、井上照代: Back Vocal

1994年11月21日発売

1. Shinkiro No Machi (The City Of Mirage) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Robbie Buchanan, Chorus Arr: Tetsuya Nishiwaki] 5th Track by Ku Reijo form the album "Hareta Hi, Ame No Yoru" (Sunny Day, Rainy Night) November 21, 1994

 
区麗情(1994-  東京都出身)は中国人と日本人のハーフの父親と日本人の母親との間に生まれ、父親は千代田区有楽町にあった中華料理の老舗「慶楽」(2018年閉店)の料理長だった。幼い頃から父親が聴いていたアメリカン・ポップスに親しみ、上智大学在学中の1983年にCDデビュー。2002年までの間にシングル11枚、アルバム10枚を出した。現在はブログを更新しながら、時たま音楽活動を行っているようだ。

本作は彼女3枚目のアルバムで、全10曲中オリジナルが6曲(彼女の自作は作詞1曲のみ)、カバーが4曲。また半分の5曲がアメリカ・ロサンゼルス録音。西脇辰弥がオリジナル曲の作曲と大半の曲の編曲を担当している。バック・ミュージシャンについては、著名なセッション・プレイヤーが多く参加している海外録音が面白い。

大貫さんの「蜃気楼の街」(オリジナルはシュガーベイブ「Songs」1975収録)は米国録音で、アレンジとキーボードがプロデューサー、アレンジャー、作曲家、キーボード・プレイヤーとして無数の作品に参加したロビー・ブキャナン。ギターとベース、ドラムスが当時ジェイムス・テイラーのバックをやっていた人達、テナーサックスがジャズ・クロスオーバのアルバムを出したアーニー・ワッツという大変豪華な顔ぶれ。バック・コーラスの河合夕子は1980年代に自己名義のアルバムやシングルを出し、その後セッション・シンガーに転向した人だ。そういう人達が大貫さんの作品をソリッドなボサノヴァで演奏していて、区麗情のボーカルもちょっとエッジがあって悪くない。シュガーベイブのバージョンを「陰」とすると本作は「陽」といえるかな。

他の曲では、やはりカバー曲に興味が集中する。「12月の雨」(作詞作曲 荒井由美 編曲 西脇辰弥)3曲目はユーミンの「ミスリム」1974 収録の名曲。この米国録音は西脇のキーボードにワディ・ワクテル(ギター)、リー・スクラー(ベース)という、これまたジェイムス・テイラー所縁のミュージシャンが入り、オリジナルとは異なるリズム・アレンジで迫っている。「Snowman」(作詞 青木景子、村松邦男 作曲 村松邦男 編曲 Bill Elliott コーラス・アレンジ 村松邦男)7曲目は村松1986年の3曲入り自主制作レコード「Christmas Presents」収録曲のカバーで、当時セッション・ミュージシャンで、後2000年代以降ブロードウェイ・ミュージカルで大成功するビル・エリオットが編曲を担当している。オリジナルでのスローなイントロなしのアレンジで、村松本人がコーラスで歌っている。はっぴいえんどの名盤「風街ろまん」1971収録の「花いちもんめ」(作詞 松本隆 作曲 鈴木茂 編曲 西脇辰弥)8曲目は鈴木が初めて歌った曲として鮮烈な印象が残った曲だったが、ここではアコースティック・ギターとピアノ、シンセサイザー、パーカッションというシンプルなアレンジ。吉川忠英のアコギが良く、区麗情のボーカルも曲に合っている。

オリジナル曲は西脇の作曲とアレンジが光っている。彼は1964年生まれでキーボード以外の楽器もこなすマルチプレイヤー。國府田マリ子、谷村有美、メロキュアなどの中堅歌手やロックグループ Pierrotなどのの作曲・編曲を手掛けた人で、デビッド・フォスターのようなパンチが効いた音楽を好む人のようだ。曲としては最後のタイトル曲「晴れた日、雨の夜」(作詞 竹花いち子 作曲 西脇辰弥 編曲 Robbie Buchanan、西脇辰弥)10曲目が、歌詞・メロディーと「蜃気楼の街」と同じミュージシャンによる演奏でいい感じ。他の曲もそれなりの水準であるが、彼女の歌い方と声に良い意味での癖があって、そして記憶に残るような曲が1曲でもあったら、もっとよかったのにと思う。

当時ジェイムス・テイラーのバックをやっていた人達が大貫さんの「蜃気楼の街」を演奏するという、私にとっては夢のような趣向。

[2024年11月作成]


1995年   「Tchou」 (1995/4/19発売)の頃  
風の中のダンス/誓いのブリッジ  安達祐実 (1995)  Victor  




1. 風の中のダンス [作詞作曲 大貫妙子 編曲 千住明] 8cm シングル

安達祐実: Vocal


写真上: 8cmシングル 1995年5月24日発売
写真下: アルバム「BiG」 1995年12月16日発売

1. Kaze No Naka No Dance (Dance In The Wind) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Akira Senju] by Yumi Adachi from 8cm CD single on May 24, 1995, also included in the album "BiG" on December 16, 1995


安達祐実(1981- 東京都出身)5枚目のシングル。2歳からモデルとして芸能界に身を置いた安達は、子役としてドラマやCMに出演。1993年の映画「Rex 恐竜物語」の主演に続くテレビドラマ「家なき子」1994年で、貧困家庭に育ち家庭内暴力やいじめを受けながらも立ち向かってゆく少女(「同情するなら金をくれ!」という台詞が有名)を演じて一世を風靡し、子役女優としての地位を確立した。

大貫さん作詞作曲の1.「風の中のダンス」は続編ドラマ「家なき子2」1995の挿入歌。編曲者の千住明と大貫さんとは、彼が音楽を担当したアニメ「アリーテ姫」2001の主題歌を歌ったり、彼の指揮による「シンフォニック・コンサート」を開催したりなど親密な音楽関係が続いている。オーケストラをバックに歌う当時13歳の彼女の歌声には幼さが残っているが、若々しさ、初々しさが勝っていて、歌詞・メロディーが明るく前向き(ドラマのイメージと正反対)なので、聴いてて心地よい。大貫さんのセルフカバーや他の人によるカバーがあってもよい位の出来だと思う。カップリングの「誓いのブリッジ」(作詞 サエキケンゾウ 作曲 佐藤清喜 編曲 門倉聡)も爽やかな後味が残る佳曲。オリコン最高位25位を記録し15万枚売れたそうで、かなりの枚数が中古市場に出回っている。なお上記2曲は7ヵ月後の12月に発売されたアルバム「BiG」に収録された。

歌手として彼女が出した最後のシングルは1997年、アルバムは1998年。女優としての安達は、その後20代後半(2000年代後半)に子役のイメージから脱却できずに低迷期を迎えるが、30代後半(2010年代後半)から演技派女優として再ブレイクを果たした。

1.「風の中のダンス」は埋もれるにはもったいない曲。大貫さん、今後行われる「シンフォニック・コンサート」で是非取り上げてください!

[2024年11月作成]


  
Merci Boku  竹中直人 (1995)  Consipio  

 

1. つぼみ [作詞 大貫妙子 竹中直人 作曲 竹中直人 編曲 高橋幸宏] 7曲目
2. ドクトクくん [作詞作曲 竹中直人 編曲 高橋幸宏] 6曲目

竹中直人: Vocal
大貫妙子: Doku-Toku Voice (2)
高橋幸宏: Drums, Keyboards
徳武弘文: Electric Guitar (1)
矢口博康: Sax (1)

高橋幸宏: Producer

1995年5月25日発売

1. Tsubomi (Bud) [Words: Taeko Onuki, Naoto Takenaka, Music: Naoto Takenaka, Arr: Yukihiro Takahashi] 7th Track by Naoto Takenaka from the album "Merci Boku" on September 25, 1995

 
俳優、映画監督、声優、歌手、コメディアン、タレントと、なんでもこなす竹中直人(1956- 神奈川県出身)が高橋幸宏と組んで制作したアルバム。お得意のコント、ギャグが一杯詰まっているが、音楽面でも十分面白い作品に仕上がっている。本アルバムにあるネタの多くは、1994年7月20日から1995年1月4日まで毎週水曜日の深夜にテレビ朝日系で放送された「竹中直人の恋のバカンス」(以下「恋バカ」)がベースとなっているようだ。

大貫さんは竹中と親しく、彼のソロアルバムに曲提供やボーカル・コーラスで参加した他に、彼が監督した映画「東京日和」1997の音楽を担当している。本作は二人のコラボとしては初めての作品。1.「つぼみ」は二人の共作による作詞で、大貫さんらしい瑞々しい歌詞を竹中が真面目に歌っていて、彼の声の良さが際立つ歌唱だ。ギターを弾く徳武弘文はブレッド&バター、山本コータローのバックを経てセッション・ギタリストとして活躍し、ラスト・ショウというバンドのメンバーだった。ソプラノ・サックスを吹く矢口博康はエスパー矢口という異名を持つ、ジャズの範疇に収まりきらない独自の音楽を展開する人だ。

2.「ドクトクくん」は大貫さんの提供作品ではないが、彼女がヴォイスで参加しているため本記事に挙げた。自分の顔やうなじが独特であることを執拗に歌うギャグソングで、テクノっぽい伴奏で歌う竹中に掛け声・合いの手が入る。その一部「本当 独特よ!」、「あらあらやだ ドクトクなうなじよぉ」で大貫さんの声が聞こえる。彼女がくだけて話す際の男っぽい感じの声がいいね。

他の曲について。「砂山」(作詞 北原白秋 作曲 中山晋平 編曲 上野耕路)1曲目 は「生肉を食べるターザンです」という自己紹介の後に歌われるが、ストリングスのバックがつく歌唱自体は真面目で、むしろそうなのが面白い。「僕の嫁さん」(作詞 岩谷時子 作曲 弾厚作 編曲 高橋幸宏)2曲目 は加山雄三1969年のカバー。彼は1990年に元アイドル歌手の木ノ内みどりと結婚しているので、そのノロケかな?「じろう」 (作詞作曲 竹中直人 編曲 高橋幸宏)3曲目は大昔の歌謡曲風の小品であるが、そのモチーフがアルバムの他の曲のなか随所に現れる仕掛けになっている。「ねえ」(作詞 竹中直人 作曲編曲 高橋幸宏)4曲目は高橋のアンビエントな音楽をバックにした語りのギャグ。「おぼえていること」(作詞作曲 忌野清四郎 編曲 高橋幸宏、岸利至)5曲目は書き下ろし曲で、カントリーロック風のバックで竹中が忌野風にシャウトする。「カーテンレールを引いて」(作詞作曲 シェスタコビッチ・三郎太 編曲 高橋幸宏、岸利至) 6曲目の作者は竹中の変名で、「恋バカ」に登場したキャラクターの一人。彼と親交があり番組にも出演していた東京スカパラダイス・オーケストラが切れ味抜群の伴奏をつけていて、竹中はジェームス・ブラウン張りにシャウトしまくっている。

「坊主 -スチャラダパーに捧ぐ- (金々節より)」(作詞 添田唖蝉坊 作曲 後藤紫雲)の添田唖蝉坊は竹中の変名ではなく、明治大正期に活躍した演歌師(1949年没)で、「坊主」は代表作「金々節」の中盤の歌詞にあたる。何故ヒップポップ・グループの「スチャラダパー」が出てくるかというと、彼らは竹中が在籍したギャグ集団「ラジカル・ガジネリビンバ・システム」の影響を受け、グループ名を集団の公演名「スチャラダ」からとってきており、竹中と親交があるためと思われる。「メルシイ・僕」(作詞 竹中直人 作曲高橋幸宏 編曲 高橋幸宏、岸利至)11曲目は、フランス語の「Merci Beaucoup (Thank You Very Much)」をもじったもので、スティールドラム風のシンセによるカリブ音楽は高橋の趣味が反映している。「流しのふたり」(作詞作曲編曲 チャーリー・ボブ彦)12曲目のチャーリーは竹中の変名で、アベックに対し臭い歌の押し売りをするギターの流しチャーリーと、高橋扮する流しのドラマー、ジャッキー・テル彦とのコンビによるコントで、「恋バカ」テレビにおけるふたりも傑作だった。最後は3曲目「じろう」のリフレインで終わる。

竹中得意のシュールなギャグが一杯詰まっているが、高橋幸宏がプロデュースした音楽作品としても十分楽しめる作品。

[2024年12月作成]


 
Nature  日置明子 (1995)  Fun House   

 




1. 瞬間が眩しくて [作詞 大貫妙子 作曲 木根尚登 編曲 清水信之] 6曲目

日置明子: Vocal, Chorus
清水信之: Keyboards, Synthesizer, Guitar, Bass, Flute, Drums & Percussion Programming
田中はじめ: Fairlight Operation

木根尚登: Producer

写真上: アルバム 1995年8月2日発売
写真下: シングル「Scarlet」1995年7月15日発売

1. Toki Ga Mabushikute (The Moment Is Dazzling) [Words: Taeko Onuki, Music: Naoto Kine, Arr: Nobuyuki Shimizu] 6th Track by Akiko Hioki from the album "Nature" on August 2, 1995

 
日置明子(1974- 鳥取県出身)は雑誌モデルからスタートして、1995年1月にTM Network の木根尚登のプロデュースによる「Winter Comes Around」(TM Networkのアルバム「Carol〜A Day In A Girl's Life 1991〜」1988 収録曲のカバー)のシングル盤でデビューした。「Nature」(「ナチュール」とフランス風に読む)はその7ヵ月後、彼女が20歳の時に発売されたデビュー・アルバム。タイトルのみでなくアルバム・ジャケットにフランス語が散りばめられているが、音楽的にフランス臭さはなく、ヨーロピアン・ポップスの雰囲気を出すための演出と思われる。どちらかと言えば洋楽調の歌謡曲に近い感じの歌唱と音楽で、全てを作曲した木根尚登と1曲を除き全曲の編曲と演奏を担当した清水信之により、そこそこのレベルに仕上がっている。日置も無難に歌っていて、聴いてて大変心地良いのだが、歌い手の存在感・個性が今一つ伝わってこない感もある。

その中で、大貫さんが作詞した1.「瞬間(とき)が眩しくて」は、彼女らしい瑞々しさに溢れた歌詞で、アルバムの中で異彩を放っている。それに呼応するかのように、木根がつけたメロディー、清水のボサノバ風アレンジも垢抜けていて爽やかだ。マルチプレイヤーの清水はすべての演奏をこなしているが、楽器クレジットにあった「Brackscreen」は内容不明。またフェアライト・シンセサイザー操作担当の田中という人の名前の漢字は確認できなかった。なお本曲はアルバムに先駆けて同年7月15日発売されたシングル「Scarlet」のカップリングにもなっている。

日置はテレビ番組のテーマソング・挿入歌、CM、テレビ番組や映画に出ていたがあまり売れず、1999年にsonoと改名して、スウェーデンのアレンジャー、トーレ・ヨハンソンのプロデュースでアルバムを2枚出したが、それらも売れなかった。そして2002年に市川新之助(現 市川團十郎)とのスキャンダルが発覚して、表舞台から姿を消して現在に至っている。

20年以上経った現在、完全に忘れ去られた存在。歌謡曲風であるが、それなりにいい曲。

[2025年1月作成]


Beautiful Days  伊東ゆかり (1995)  Alfa  
 

1. 突然の贈りもの  [作詞作曲 大貫妙子 編曲 Derek Nakamoto] 7曲目

伊東ゆかり: Vocal
Derek Nakamoto: Keyboards, Synthesizer Programming
Tim Godwin: Guitar
Paul Taylor: Soprano Sax
Brad Cummings: Bass
Bernie Dresel: Drums, African Percussion

1995年10月18日発売

1. Totsuzen No Okurimono (A Sudden Gift) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Derek Nakamoto] 7th track from the album "Beautiful Day"by Yukari Ito on October 18, 1995

 
伊東ゆかり(1947- 東京都出身)48歳の時のアルバムで、1曲を除き米国ロサンゼルス録音の意欲作。伊東は1960年代に中尾ミエ、園まりと「スパーク3人娘」としてポップス歌謡で活躍したが1970年代は低迷。その後1977年から1981年まで続いたテレビ音楽番組「サウンド・イン "S"」の司会で大人の歌手として復活した。本作ではそんな彼女が米国のミュージシャンをバックに自由な境地で歌っている。本アルバムで1曲を除きアレンジを担当したデレク・ナカモトはハワイ州生まれの日系人で、ロサンゼルスを拠点に活動、オージェイズ、テディー・ペンダーグラス、マイケル・ボルトン等の演奏・編曲に携わったが、ジャズピアニスト松居慶子の諸作品への関与が最も有名な人だ。ここでは彼が得意とするクロスオーバー・ジャズ、ニューエイジ・サウンドをベースとしたサウンド作りになっている。

1.「突然の贈り物」は大貫さんのアルバム「Mignonne」1978収録の名曲で、1978年竹内まりや、1991年森丘祥子に続く3番目のカバー。ベース(あるいはシンセ・ベース)によるリズミカルなリフがついた斬新なアレンジとなっているが、伊東の落ち着いたボーカルが曲本来の持ち味をしっかり保っている。間奏とエンディングで入るソプラノ・サックスとパーカッションもいい感じ。全体的に静かなバラードが多いアルバムのなかで、本トラックは程よいアクセントになっているといえる。

他の曲について。「七色の絵の具」(作詞作曲 EPO)1曲目は、スリーグレイセスのアルバム「Tripping Triplets」1994が最初で、オリジナルが井上鑑によるジャズボーカルのアレンジだったのに対し、ここではクロスオーバー風のサウンドになっている。それにしても伊東のボーカルの上手さが引き立っているね。なおEPOはもう1曲「想い」3曲目を提供している。「ラブ・レター」(作詞 松本一起 作曲 鴨宮涼)4曲目は伊東にピッタリの大人のバラード。来生たかおとえつこの姉弟による「そこからとこれからの季節」5曲もぐっとくる佳曲だ。「あなたの隣に」(作詞 荒木とよひさ 作曲 馬飼野康二)8曲目は1978年にシングル盤およびアルバム「YUKARI あなたの隣に」に収録された曲の再録音。最後の曲「明日、めぐり逢い」(作詞 松原史明 作曲編曲 森田公一)9曲目のみ日本録音で別の編曲者によるもの。そのため他の曲とかなり異なり歌謡曲的な雰囲気になっている。この曲は1994年8月にシングル盤が発売されていて、明記されてはいないがボーナス・トラック的な位置づけなんだろう。

チェロを思わせる落ち着いた大人の歌声で、斬新なアレンジによる「突然の贈り物」を聴くことができる。

[2024年11月作成]


 
Smoochy  坂本龍一 (1995)  gut (For Life)    

 


1. 愛してる、愛してない [作詞 大貫妙子 作曲編曲 坂本龍一] 2曲目
2. Tango [作詞 大貫妙子 スペイン語文 Fernando Aponte 作曲編曲 坂本龍一] 5曲目

坂本龍一: Vocal, Keyboards, Computer Programming, Producer
中谷美紀: Vocal (1)
Gil Goldstein: Accordion (2)
佐橋佳幸, Amedeo Pace: Guitar (1)
Vinicius Cantuaria: Guitar (2)
Jaques Morelenbaum: Cello
Everton Nelson: Violin (1)
Alexander Sipiagin: Trumpet (1)
Lawrence Feldman: Flute (2)
バカボン鈴木: Bass
森俊彦: Drums Programming, Additional Production (2)

写真上: 国内盤 (1995年10月20日発売)
写真下: 海外盤 (ボーナス・トラックとして「Tango (Version Castellano)」を含む)

1. Aishiteru, Aishitenai (I Love, I Don't Love) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Ryuichi Sakamoto] 2nd Track
2. Tango [Words: Taeko Onuki, Spanish Text: Fernando Aponte, Music & Arr: Ryuichi Sakamoto] 5th Track
by Ryuchi Sakamoto from the album "Smoochy" Octber 20, 1995
   

「Smoochy」は坂本龍一11枚目のアルバムで、タイトルは英語のスラングで「キスしたくなる気分になる」という意味。当時の批評は彼が自ら歌ってJ-Popに挑戦したというものが多かったが、今聴くと、彼が大きな影響を受けたブラジル音楽のスパイスで日本のポップスに味付けしたという印象を持った。ここでの「ブラジル音楽」とはボサノバやサンバに限らない広義の音楽であり、アントニオ・カルロス・ジョビン、デオダード、ミルトン・ナシメント等の音楽をじっくり聴くとわかるものだ。

前作「Sweet Revenge」2004との大きな違いは、ブラジルのチェロ奏者ジャキス・モレレンバウムが参加していることだ。彼とは1990年代初めにカタエーノ・ヴェローゾを通じて知り合ったそうで、1993年の映画「Little Buddha」サウンドトラックが録音上の初顔合わせ。晩年のアントニオ・カルロス・ジョビンのバンドで演奏した彼のチェロは坂本の音楽に大きな深みを与えている。両者の共演はその後も続き、チェロ、バイオリンとの3重奏による「1996」やジャキスの奥さんパウラ(ボーカル)と3人でジョビンが生前使っていたピアノを使用して録音した「Casa」2001などの名作を生み出した。私はアントニオ・カルロス・ジョビンをこよなく愛する者であり、彼がCTIレーベルから出した「Wave」1967、「Tide」1970、「Stone Flower」1970は大傑作だと思うし、晩年の作品も味わい深い。改めて坂本龍一の音楽を聴いていると、発せられる音は違ってもその底に流れている魂は両者相通じるものがあるようで、本アルバムの音楽はそれを如実に感じさせるものだ。

1.「愛してる、愛してない」は、森俊彦がプログラミングした急速調の打ち込みドラムのリズムに乗って坂本と中谷美紀がユニゾンで歌う。本曲が坂本と中谷の初共演で、よほど相性が良かったのか、以降彼女の名義で3枚のアルバムをプロデュースすることになる。大貫さんとしては異色の退廃を漂わせる歌詞が印象的。2.「Tango」は坂本の代表作といえる曲で、タイトルはアルゼンチン・タンゴのことではなく、その音楽の内面の激しさを表したもの。地球の裏側である南米の地への思いが色濃くにじむ大貫さんの歌詞が素晴らしい。坂本のボーカルは「下手」といったほうが適切な表現で、歌詞カードを見ながらでないと意味が伝わってこないほどであるが、この曲に関しては、その歌声が歌詞の持つ切迫した心情を効果的に表している。これらのボーカルを聴いていると、彼が得意でないにも拘わらずあえて歌ったのは、J-Popで売ろうとしたわけではなく、ジョビンと同じように曲の作者が歌うことの意味に拘ったのではないかと思う。なお2.「Tango」について、本アルバムの海外発売分にはソラヤという女性歌手が歌うスペイン語歌詞による「Version Castellano」がボーナス・トラックとして収録されていた他、彼がモレレンバウム夫妻と行ったコンサートのライブ盤に奥さんのパウラ作詞によるポルトガル語バージョンが入っている。また大貫さんが1997年のアルバム「Lucy」で坂本の編曲でセルフカバーし、2010年の「Utau」では坂本のピアノのみの伴奏で歌っている。1.「愛してる、愛してない」については、1997年に発売された中谷のビデオ作品「Butterfish」(1997年2月26日・27日渋谷クラブ・クアトロでのステージ模様を撮影したもの)でライブ映像を観ることができる。

他の曲について(以下 作曲編曲はすべて坂本龍一)。「美貌の青空」(作詞 売野雅勇)1曲目は、1996年の「1996」と2004年の「/04」のアルバムにバイオリンとチェロとの三重奏によるインストルメンタル・バージョンが、2010年の「Utau」で大貫さんのボーカル・バージョンが録音されている。「Bring Them Home」3曲目、「青猫のトルソ」4曲目はピアノ(エレキピアノ)、チェロ、バイオリンとの3重奏で、1996年のアルバム「1996」で再録音されている。「電脳戯話」(作詞 高野寛)8曲目は、当時可能になりつつあったインターネットでのサーフィンのイメージ歌詞にしたもので、現在では当たり前になったネット世界がファンタジックに描かれているのが興味深い。「Hamisphere」(作詞 宮沢和史)9曲目は「半球」という意味のタイトルで、地球の裏側(南米)の地への想いを描いたもの。パウラ・モレレンバウムのバックボーカル、バカボン鈴木ベースと佐橋佳幸のギターが入っている。

最後の曲「A Day In The Park」(作詞 Vivian Sessoms)12曲目のみ他の曲と異なり、ニューヨークのニューソウル風の曲で、そういう意味で前作「Sweet Revenge」の雰囲気に近い曲だ。作詞・ボーカルも前作でフォーチャーされていた女性ヴィヴィアン・セソムズが担当している。

一般的には坂本がポップな曲を目指したアルバムと捉えられているが、実際はブラジル音楽の香りが色濃く出た深みのある作品と言ったほうがよい作品。

[2024年12月作成]

 
Piano Nightly  矢野顕子 (1995)  Epic (Sony)       

 


2. 星の王子さま [作詞 大貫妙子 作曲編曲 矢野顕子] 2曲目
13. 突然の贈りもの [作詞作曲 大貫妙子 編曲 矢野顕子] 13曲目

矢野顕子: Vocal, Piano

1995年10月21日発売

2. Hoshi No Oji Sama (Little Prince) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Akiko Yano] 2nd Track
13. Totsuzen No Okurimono (The Sudden Gift) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Akiko Yano] 13th Track
by Akiko Yano from the album "Piano Nightly" on October 21, 1995

「Super Folk Song」1992に続く、矢野顕子ピアノ弾き語りシリーズの第2弾。彼女が大好きな曲のカバーとオリジナル1曲からなる。オーストリアの古城とロンドンのアビーロード・スタジオの2ヵ所で録音され、前作に増してピアノの音にこだわり、微妙なタッチや音の強弱のニュアンスが最高。かつボーカルも前作のような気負った感じがなくなって、ごく自然に自由に歌っている。その背景にはアルバム発表と出前コンサートで世間に認められたという裏付けがあるようだ。

2.「星の王子さま」は、1991年の朗読CD「音楽物語 星の王子さま」、同年の薬師丸ひろ子のアルバム「Primavera」収録曲のセルフカバー。ここでは「王さまも、うぬぼれも、実業屋も」という前者の歌詞で歌われている。しなやかで変幻自在のピアノと繊細なボーカルは曲の良さを一層際立たせている。13.「突然の贈りもの」は大貫さんのアルバム「Mignonne」1978収録曲のカバー。とても自由なピアノ演奏と歌唱で、彼女がこの曲を完全に自分のものにしていることがよくわかる。

ライナーノーツになる上記2曲についての本人コメント。
星の王子さま 「薬師丸ひろ子さんが歌った。しぶる大貫妙子に頼み込んで詞をつくってもらった。なぜなら矢野は「星の王子さま」を読んだことがなかったから。」 単に知らないから頼んだというよりも、この作品について詞を書くのが如何に大変かを知らずに頼んだというニュアンスだろう。
突然の贈り物 「大貫妙子の曲を歌うということは、彼女から彼女が一番気に入っている毛布を貸してもらうようなものだ。私にとって。よだれやにおいがついてしまうことがわかっていても貸してくれる。いつ歌ってもなつかしく、心があたたかくなる。」素晴らしい紹介文ですね.......。

他の曲について。どれも曲・演奏ともに素晴らしいので個別に書き難く、曲のオリジナルについてのみ述べます。

1. 虹が出たなら [作詞作曲 宮沢和史] The Boomの初アルバム「A Peacetime Boom」1989
2. 星の王子さま
3. 夏のまぼろし [作詞作曲 鈴木祥子] 鈴木祥子 「Long Long Way Home」1990
4. 思い出の散歩道 [作詞 松本隆 作曲 馬飼野俊一] アグネス・チャン「小さな日記」1974
5. What I Meant To Say [作詞 矢野顕子 作曲 Mike Stern] マイク・スターン「Is What It Is」1994収録のインスト曲に歌詞をつけたもの
6. フォロッタージュ氏の怪物狩り [作詞 友部正人 作曲 坂本龍一] 石川セリ 「Rakuen」1985
7. 椰子の実 [作詞 島崎藤村 作曲 大中寅二] 1900年発表の詞に1936年曲を付けたもの。初演・初録音は東海林太郎。
8. 愛について [作詞作曲 友部正人] 友部正人 「6月の雨の夜、チルチルミチルは」1987
9. 機関車 [作詞作曲 小坂忠] 小坂忠(2002年没) 「ありがとう」1971
10. 恋は桃色 [作詞作曲 細野晴臣] 細野晴臣 「Hosono House」1973
11. Daddy's Baby [作詞作曲 James Taylor] James Taylor 「Walking Man」1974
12. ニューヨーク・コンフィデンシャル [作詞 安井かずみ 作曲 加藤和彦] 加藤和彦(2009年没)「あの頃、マリー・ローランサン」1983
13. 突然の贈りもの
14. いつのまにか晴れ [作詞作曲 高野寛] 高野寛 「Ring」1989
15. New Song [作詞作曲 矢野顕子] オリジナル。本人コメント「広告の仕事のために書いたのだが、当初はある人のために最初のところが書きはじめられていた。そして今や、私のための曲となった。あなたに歌うために。」

タイトルの通り、夜部屋を暗くして聴くと心に浸みこんでくる音楽。「Super Folk Songs」に勝るとも劣らない名盤。

[2025年1月作成]


 
1996年   「Tchou」 (1995/4/19発売) Lucy (1997/6/6) の頃    
NHKみんなのうた 星空のオルゴール Various  Kuko (1996)  日本コロンビア     

 

1. メトロポリタン美術館 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 淡海悟郎] 16曲目

Kuko (野口郁子): Vocal

1996年4月20日発売

1. Metropolitan Museum [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Goro Omi] 16th Track sung by Kuko (Ikuko Nogchi) in various artists from the album "NHK Minna No Uta Hoshizora No Orugoal" (NHK Songs For Everybody Music Box Under The Starry Sky" on April 20, 1996

 
大貫さんの「メトロポリタン美術館」は 1984年4月〜5月にNHKテレビ「みんなのうた」で初回放送された。清水信之編曲による大貫さんの録音は、1984年5月21日発売のシングル「宇宙みつけた」のB面としてディアハート(RVC) レーベルから発売され、1986年3月21日発売のアルバム「Comin' Soon」に収められた。「みんなのうた」の中でも特に人気がある曲で、映像はその後も現在に至るまで頻繁に再放送され、各レコード会社が発売した「みんなのうた」曲集にも収められている。その際契約の関係で大貫さんのオリジナルを使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが通例で、そのため本曲は他のアーティストによるカバーに加えてこの手の別録音が多く存在することとなった。

いままでポニーキャニオン(吉田美智子)、東芝EMI(新居昭乃)、アポロン音楽工業(井上美哉子)、キング(新倉芳美)による録音を紹介してきたが、今回は日本コロンビアからのもの。本作は1996年と他に比べて発売年が遅めであるが、「NHKみんなのうた」のアルバムは当初録音したものをずっと使い回すのが普通なため、私が調べた限りでは同社からは本作が一番古かったが、本作より古いものが出ているかもしれない。

歌い手のKukoの本名は野口郁子で作詞家でもある。アニメ、ゲーム、CMでの作品が多く、特に「ドラゴンボールZ」における一連の歌が有名。また本人名義および Waffle、Liraというグループで活動していて、アルバムも出している。

1.「メトロポリタン美術館」のボーカルは、この手の音楽に最適な癖のない声。シンセサイザーによる演奏は原曲のアレンジに忠実な感じ。編曲者の淡海悟朗は大変幅広い分野をカバーした作曲家・編曲家、キーボード奏者で、日本のシンセサイザー・プログレの草分けと言われる人。

.「メトロポリタン美術館」の「NHKみんなのうた」選集用の録音は、これでひととおり出揃った感じ。これ以降のカバーは独自アレンジによるものになってゆく。

[2025年1月作成]


 
食物連鎖  中谷美紀 (1996)  gut (For Life)    
 

1. My Best Of Love [作詞作曲 大貫妙子 編曲 坂本龍一] 5曲目

中谷美紀: Vocal
坂本龍一: Keyboards, Programming, Producer
小倉博和: Guitar
広谷順子: Back Vocal

1996年9月4日発売

1. My Best Of Love [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Ryuichi Sakamoto] 5th Track
by Miki Nakatani from the album "Shokumotsu Rensa (Food Chain)" on September 4, 1996
 
アイドル・グループを卒業した中谷美紀(1976- 当時20歳)が、フォーライフ・レコード内の坂本龍一のレーベルGut(グート)から出した初アルバムで、坂本がプロデュースと半分の作曲・大半の編曲を担当している。坂本のアルバム「Smoochy」1995の「愛してる、愛してない」(大貫さん作詞)でゲストで歌った事がきっかけだったのだろうか?相性の良い歌手を得て「Smoochy」で目指したポップ路線を前に推し進めている。通常この手のアルバムは制作者が前面に出て、歌い手は意思のない操り人形のようになってしまうのだが、本作での中谷には強い自我が感じられる。ただしそれは坂本の創造を阻害するものではなく、同志として共鳴しているようだ。そして彼女は単なる歌い手ではなく、坂本の音楽上のパートナーとなり、その関係は本作を含む3枚のアルバムに昇華してゆく。後に女優として歩んでゆくキャリアをみても、彼女が理知的で強靭な精神の持ち主であることがわかる (発売当時でなく、現在の視点からみた印象だからかもしれないけど.....)。

坂本のダークでミステリアスな音楽のなかで、大貫さんが作詞作曲した 1.「My Best Of Love」は比較的ポップな曲で、アルバムに彩りを添えている。サウンドの大半は坂本による打ち込みで、バックボーカルは自己のアルバムやシングルを出しながらスタジオ・ミュージシャンとして鳴らした広谷順子(1956-2020)。なお本曲は1997年に発売された中谷のライブ映像作品「Butterfish」でも歌われている。

他の曲について。全10曲中5曲で売野雅勇が作詞を担当していて、「Mind Circus」、「Strange Paradise」、「汚れた脚 The Silence Of Innocence」、「Where The River Flows」(いずれも作曲編曲 坂本龍一)1・2・4・6曲目 での鋭い言葉が並ぶ歌詞は坂本のメロディーと互角に対峙している。そして森俊彦の打ち込みによるヒップポップ風のリズムが内向的な曲・歌詞と歌唱に不思議にマッチしていて、深みが感じられる出来上がりになっている。なお「Mind Circus」は同年中谷が主役の一人を演じたテレビドラマ「俺たちに気をつけろ」の挿入歌、「Strange Paradise」は伊藤園「おーいお茶」のCMで使用された。

「逢びきの森で」(作詞作曲編曲 小西康陽)3曲目はアルバム中異色の曲で、いかにもピチカート・ファイブが好みそうな洒落たジャズ・チューンに仕上がった。「色彩の中へ」(作詞 高野寛 作曲 ヴィニシウス・カントゥアリア 編曲 坂本龍一)8曲目は、ムーディーなボサボヴァで、作曲者は大貫さんのアルバム「Lucy」1997や「東京日和」1997に坂本と一緒に参加している人。「Lunar Fever」 (作詞 高野寛 作曲編曲 森俊彦)は本作唯一のR&Bっぽい曲。中谷のクールなボーカルはとても雰囲気が出ていて、こんな曲も歌えるなんて意外だ。最後の曲「Sorriso Escuro」(作詞作曲 アート・リンゼイ、ヴィニシウス・カントゥアリア 日本語歌詞 売野雅勇)は、英訳すると「Dark Smile」という意味で、アート・リンゼイも坂本と親しく、大貫さんの「Lucy」1997に参加した人。ブラジル風の漂うような音楽を背景にわざと聴き取りにくくしたポルトガル語と日本語の語りが入った曲で、聴いた後に不思議な余韻が残る。

中谷・坂本コラボ3部作の1作目で、坂本がやりかった音楽を伸び伸びと展開している。

[2024年12月作成]


 
イレイザーヘッド  竹中直人 (1996)  Consipio   

 

1. 二人の星をさがそう [作詞作曲 大貫妙子 編曲 ] 7曲目

竹中直人: Vocal
高橋幸宏: Back Vocal
岸利至: Synthesizer

高橋幸宏: Producer

1996年10月18日発売

1. Futari No Hoshi Wo Sagasou (Let's Search For Our Star) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Toshiyuki Kishi] 7th track by Naoto Takenaka from the album "Eraser Head" on Ocober 18, 1996
 
「Eraser Head」は鉛筆の頭についている消しゴムの意味で、デビッド・リンチ監督の1977年の映画タイトルでもある。ここでは表紙写真から竹中の頭部の恰好を揶揄したタイトルのようだ。竹中が主役に抜擢され大評判をとった大河ドラマ「秀吉」放送中の人気絶頂期に制作・発売されたアルバムで、前作「Merci-Boku」1995と同様、コントやギャグが入っているが、前回よりも音楽の割合が多くなっていて、真面目に歌っている曲もある。

大貫さんは前回に続き楽曲を提供。1.「二人の星をさがそう」は歌詞の中に多くの星座が散りばめられたファンタスティックな歌で、アルバムの中で郡を抜いて良い出来。「僕の好きなおひざ 君の好きなピザ ビールにらっかせい もっと ぎょうざ」という言葉の遊びが楽しい。シンセ演奏と編曲を担当した岸利至(1969- )は坂本龍一のシンセサイザー・オペレーターとしてデビューし、YMOやピチカート・ファイブをはじめとする数多くのミュージシャンの作品の演奏、作曲・編曲、リミックス、プロデュースに関わった人。大貫さんはずっと後の2022年にこの曲をセルフカバーしている。彼女にとって「One Fine Day」2005年 以来久々の新曲録音で、「朝のパレット」とのカップリングで2月25日に発売された。録音に際して大貫は高橋幸宏の参加を希望し、2020年の脳腫瘍の手術後の静養が十分になるまで1年半待ったという。そして2021年10月27日の収録におけるドラム演奏が彼の最後のレコーディング参加となった(2023年1月11日没)。

その他の曲では「国分寺1976」が素晴らしい。竹中は曲名の年に当地に住んでいたようで、当時同じ中央沿線に住んだ経験から「中央線」という名曲を書いたThe Boomの宮沢和史に頼んでこの曲を作ってもらったらしい(このことは東京経済大学地域連携センターが制作した記事「『国分時1976』をめぐって」という素晴らしい記事があるので、一読をお勧めします)。曲を聴いているとアコースティックなサウンドの中に70年代当時の空気感が見事に再現されていて、当時大活躍した駒沢裕城のペダルスティールが心に染みる。竹中はいつもふざけているけど、こんな風にも歌えるんだ......。余談であるが、先日六角精児のコンサートを観るために国分寺を訪れたが、再開発された駅前は妙に洒落た感じになっていて、当時の面影を偲ぶ余地もないようだ。

あとハードロック調の「心配御無用」(作詞 竹中直人 作曲編曲 岸利至)2曲目、ボサノヴァの「おいしい水」(といってもジョビンの曲ではない)(作詞 竹中直人 作曲編曲 高橋幸宏)3曲目、ハワイアンの「ピカケに口づけ」(「ピカケ」はハワイの花)(作詞 竹中直人 作曲 竹中直人、岸利至 編曲 岸利至)4曲目、玉置浩二が作曲した「くれない東京」(作詞 森雪之丞 編曲 川中茂則)5曲目。コミカルな歌では「ヘルレイザー (低音三兄弟)」(作詞 竹中直人 作曲編曲 岸利至)9曲目の竹中、細野晴臣、青木達之(スカパラダイスオーケストラ)の低音ボーカルが最高。そして最後の曲不吉(作詞 竹中直人 作曲 竹中直人、岸利至 編曲 岸利至)11曲目が終わった後、前作でお馴染み流しのチャーリ・ボブ彦が出てきてさらっと歌ってアルバムを終える。

音楽アルバムとして十分に面白い作品。「ふたりの星をさがそう」大貫さんがセルフカバーしたけど、原曲もとてもいいよ!

[2025年1月作成]


Living With Joy  高橋洋子 (1996)  Kitty   
 



1. 新しいシャツ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 森俊之] 1曲目

高橋洋子: Vocal
森俊之: Keyboards, Programming
古川昌義: Guitar
細木隆宏: Bass
百々政幸: Manipulation

1996年10月25日発売 アルバム「Living With Joy」
1996年10月2日発売 シングル

1. Atarashii Shatsu (New Shirt) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Toshiyuki Mori] 1st Track by Yoko Takahashi from the album "Living With Joy" on October 25, 1996


高橋洋子(1966- )は東京都出身。1987年久保田利伸のバックコーラスとしてプロデビューし、CMソングやサウンドトラックなどのセッション・シンガーとして活躍、1991年にテレビ番組主題歌・挿入歌でソロデビューを果たしている。大変歌が上手い人で、特にバラードにおける繊細な表現力は抜群。そんな彼女が一躍有名になったのは、1995年のテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のエンディングテーマ「Fly Me To The Moon」、および主題歌「残酷な天使のテーゼ」を歌ってからで、特に後者はこの分野で高い人気を誇る名曲となった。「Living With Joy」はその1年後に発表された彼女5枚目のアルバムで、本人による作詞作曲はなく、11曲中書き下ろしが4曲、残りが既存曲のカバーという構成。

1.「新しいシャツ」(アルバム「Romantique」1980 収録)は名曲と思うが、他のアーティストが取り上げたケースは意外と少ない。大貫さんの歌唱と坂本龍一のアレンジによるイメージがあまりに鮮烈で、それに新しい風を吹き込むことが難しいからだろう。本曲は原曲から16年後に制作された初めてのカバーとなる。オリジナルがスローなバラードだったのに対し、ここでは森俊之のアレンジによってリズミカルでよりポップなサウンドとなっている。特にグルーヴィーなベースラインはみっけものだ。それでも曲が持つしっとりした雰囲気を失っていないのは、ひとえに高橋のニュアンスに富んだ歌唱力にあると思う。ちなみに本曲はTBS系テレビ番組「山田邦子の幸せにしてよ」のエンディング・テーマとして使用され、アルバムに先行してシングルでも発売された。

他のカバー曲について。「Ooo Baby Baby」(作詞作曲 Smokey Robinson, Warren Moore 日本語歌詞 田久保真見 編曲 森 俊之)3曲目は、スモーキー・ロビンソンが在籍したザ・ミラクルズ1965年のヒット(全米16位)、リンダ・ロンシュタットのカバー(1978年 同7位)に日本語の歌詞を付けたもので、高橋はソウルフルに歌い上げていて、様々なスタイルに適用できる器用さを示している。「Hello Winter〜Do Space Men Pass Dead Souls On Their Way To Thr Moon?」(作詞 Traditional, Linda Grossman, 日本語歌詞 並河祥太 作曲 Traditional, John Sebastian Bach 編曲 大森俊之)4曲目は、アート・ガーファンクルの初ソロアルバム「Angel Clair」1973収録曲のカバーで、ハイチ民謡の「Hello Winter(原曲タイトルは「Feuilles-oh (葉っぱ)」)はもとはフランス語(厳密にはハイチ・クリオール語)の歌詞に日本語歌詞を付けている。「Do Space Men Pass Dead Souls On Their Way To Thr Moon?」は当時アートの奥さんだったリンダ・グロスマンがバッハ作「クリスマス・オラトリオ」のなかの1曲に歌詞をつけたもの。中米音楽とバロックのメドレーという面白い構成の曲だ。「つめたい部屋の世界地図」(作詞作曲 井上陽水 編曲 大森俊之)5曲目は井上陽水1972年(アルバム「陽水II センチメンタル」収録)のカバー。「めぐり逢い」(作詞 並河祥太 作曲 Andre Gagnon 編曲 大森俊之)7曲目はカナダ人アンドレ・ギャニオンの1983年インストルメンタル曲に日本語歌詞をつけたもの。フジテレビ系TVドラマ「Age, 35 恋しくて」のテーマソングに採用された。「シャンプー」(作詞 康珍化 作曲 山下達郎 編曲 森俊之)9曲目は、アン・ルイス1979年(アルバム「Pink Pussy Cat」収録)がオリジナル。山下達郎編曲・プロデュースの原曲も最高だったけど、ここでのカバーも凄いね。ボーナス・トラック「Fly Me To The Moon〜Night In Indigo Blue Version」(作詞作曲 Bart Howard 編曲 大森俊之)はアメリカン・スタンダードソング(私はジュリー・ロンドンの1963年バージョンが好き)のカバーであるが、上述の「新世紀エヴァンゲリオン」とは別録音のニューウェイブ風アレンジだ。

オリジナル曲では「ウェンディーの瞳」(作詞 並河祥太 作曲 松本俊明 編曲 鳥山雄司)6曲目が一番。テレビ東京系テレビ番組「情報レストラン」エンディングテーマに使用された曲で、幼い頃の純な心を失わないでという歌詞とメロディーがファンタスティックで、彼女の声質・キャラクターにピッタリ。「ウェンディー」は「ピーターパン」に出てくる女の子のことなんだろうな〜。その他のオリジナル曲も前向きな内容で、聴いていると心が洗われる感じがする。

カバー曲とオリジナル曲がうまく噛み合って、彼女の持ち味がとても生かされた作品になっていると思う。新鮮なアレンジによる大貫さんの「新しいシャツ」も聴きもの。

[2024年11月作成]


 
1997年  Lucy (1997/6/6) の頃     
Butterfish  中谷美紀 (1997)  For Life   
 


1. My Best Of Love [作詞作曲 大貫妙子] 4曲目
2. 愛してる、愛してない [作詞 大貫妙子 作曲 坂本龍一] 7曲目

中谷美紀: Vocal
小森茂生, 大島俊一: Keyboards
Ebby: Guitar
宇多川博史: Bass
小島徹也: Drums

録音: 1997年2月26日・27日 渋谷 Club Quattro
発売: 1997年5月21日(VHSビデオテープ)、2000年10月18日(DVD)


1. My Best Of Love [Words & Music: Taeko Onuki] 4th Track
2. Aishiteru, Aishitenai (I Love, I Don't Love) [Words: Taeko Onuki, Music: Ryuichi Sakamoto] 7th Track
by Miki Nakatani from the video "Butterfish" recorded on Febuary 2 and 27,1997 at Qlub Quattro Shibuya Tokyo, released on May 21,1997

アルバム「食物連鎖」1996 リリースの約半年後に行われたライブの映像作品。タイトル「Butterfish」は北西大西洋にいるマナガツオ科の魚のことで、日本でとれるエボダイ、ハワイの銀鱈の英語名でもある。VHSビデオテープと(恐らく)レーザーディスクは1997年5月、DVDは2000年10月に発売された。会場のクラブ・クアトロは、渋谷のセンター街近くにあるパルコが運営する収容人員800人のライブハウス。イントロは「食物連鎖」1996 収録の「sorrio escuro」が使用され、ジャケットにある目の超アップから始まり、中谷の全身・身体の一部をサーモグラフィー、X線、CT・MRIなど様々な方法で撮影した映像が写る。その映像の中にはオーディエンスの頭部が写り込んでいるものもあるので、ライブ当日に会場でも映し出されたもののようだ。

イントロが終わると、画面がステージに切り替わって「Strange Paradise」が始まる。バックを務めるミュージシャンは当時中堅クラスの人たちで、ソロパートを除き坂本龍一の編曲に忠実な演奏になっている。コーラス・パートで中谷と一緒に歌うハーモニーが聞こえるが、コーラス担当の人はステージにいないので、どうやっているのかな? @ 自動でコーラスを付けるエフェクターを使用(当時そんな機材があった?) A 予め録音したコーラスパートを演奏に合わせて流す B ステージでは単独だったが、ビデオ製作時にオーバーダビングした のいずれかだね。間奏でのエレキピアノ・ソロは大島俊一。ギターのEbbyはファンク・ロック・バンド、ジャガタラのオリジナル・メンバーだった人で、ステージではアコギ・エレキともにグレッチのギターのみで決めているのが印象的。曲後のオーディエンスの拍手・歓声や中谷のアナウンスは最低限で、曲間は前述の中谷の姿、波や水、植物組織や細胞などのイメージ映像が流れる構成。「汚れた脚 The Silence Of Innnocence」と坂本作品が続く。照明やカメラのカット割りなどかなり凝った造りだ。中谷はショートカット・ヘアーで現在とはイメージが異なるが、自信に満ちた眼差しは変わらずエレガントな雰囲気を漂わせている。

1.「My Best Of Love」は照明が明るくなり、中谷もにこやかに歌っている。一転して「Whrere The River Flows」は意図的な白黒画像処理になっていて、モノクロームの良さが感じられる。 「逢びきの森で」のみ坂本の作ではないジャズ曲で、間奏のアルトサックス・ソロは大島俊一。彼はキーボード奏者でありながら、サックスも吹けるマルチ・プレイヤーとして有名な人だ。かなり達者なピアノ・ソロを聞かせる小森茂生は、後に作曲・編曲家、プロデューサーとしても大成する人。ここからの曲間の映像は単語の羅列とそれを素早く読み上げる中谷のモノローグとなる。「安心 無色 男の子 水色 女の子 ピンク色 色分けされた性別 不思議 誘導される ジェンダー」という語りの後の 2.「愛してる、愛してない」はきりっとした演奏・歌唱。「Mind Circus」はコンサートの山場的なパフォーマンス。

これまでの曲はすべて「食物連鎖」からだったが、最後の曲「砂の果実」のみコンサートの時点では未発表の新曲で、約1ヵ月後の3月21日に発売されたシングル曲(その後アルバム「cure」に収録)、本ビデオが発売された5月にはヒット中だったはず。本曲のみ中谷の衣装が異なっていて、撮影も異なる感じになっている。しかしステージのセッティングは同じで、曲が終わった後に拍手が起きるので、本ライブが同じ場所で2日間に渡り行われたという記録から、本曲は他とは異なる日に撮影されたものだろう。

中谷の若々しい姿が拝めるが、現在の凛とした佇まいは当時から変わっていないようだ。

[2025年1月作成]


 
不意打ち  宮村優子 (1997)  Victor     
 

1. 彼と彼女のソネット [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 Taeko Onuki  編曲 保刈久明] 9曲目

宮村優子: Vocal
保刈久明: Computer Programming, Guitar
坂元俊介: Computer Operation
宗秀治: Bass
堀越信泰: Chorus

1997年9月22日発売

1. Kare To Kanojo No Sonnet (His And Her Sonnet) [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Creole] 9th Track by Yuko Miyamura from the album "Fuiuchi" (Sucker Punch)  September 22, 1997

  
宮村優子(1972- )は兵庫県出身の声優、女優、歌手。当初演劇を志したが、大学の頃からゲーム、アニメーション声優の仕事を始める。1995年「新世紀エヴァンゲリオン」惣流・アスカ・ラングレー役、1996年「名探偵コナン」遠山和葉役が有名。そんな彼女が1995年から1999年までの4年間、歌手として4枚のアルバムを出していて、本作はその2枚目にあたる。音程が不安定になる箇所があるなど決して上手くはないけど、声優としてのヴォイス・コントロール能力や声質の魅力を最大限に発揮している。

1.「彼と彼女のソネット」は打ち込み主体のサウンドをバックに、他の曲に比べてより神妙に歌っている。「こんなに近くにいて あなたが遠のいて行く 足音を聞いている」というパートが入っているので、原田知世版の歌詞だ。

他の曲について。「Pi・Pi・Pi」(作詞 高井健 作曲 Love Palette 編曲 米光亮)1曲目は、ファンタスティックな歌詞とメロディーの曲で、彼女のアニメ・ヴォイスの魅力炸裂の佳曲。ユーモラスな「平成偉人伝」(作詞 青島雪男 作曲 関口和之 編曲 高浪啓太郎)2曲目の作詞者は、サザンオールスターズのベース奏者関口和之の変名。英語歌「Skindo-Le-Le」(作詞 C. Amaral 作曲 J. Wagner 編曲 保刈久明)3曲目は、ブラジルのフュージョン・グループViva Brasil 1980年がオリジナルで、日本では1981年の阿川泰子(アルバム「Sunlight」収録)が有名。アメリカでは1983年Aliveのカバーが1990年代のクラブで人気が出た曲だ。宮村はこの難しい曲をちょっとエキセントリック(本人はいたって真面目だけど)に歌っており、それなりに魅力がある。

「Un Nicodeme II〜まぬけなおじさん」(作詞 北田かおる)7曲目は鈴木慶一が作曲編曲、コンピューター・プログラミングで参加。「ハワイ旅情」(作詞 みやむらゆうこ 作曲編曲 周防義和)12曲目、「だいじょうぶの笑顔」(作詞作曲 Love Palette 編曲 安部隆雄)13曲目は打ち込み主体のアルバムの中でのアコースティックな演奏が新鮮。後者では駒沢裕城のペダル・スティール・ギターを楽しめる。その他ここでは紹介しなかったが、彼女のキャラに合ったマンガタッチの面白い曲が多く入っている。

彼女は現在も活躍中。2019年配信のトヨタホームWEB CMのYouTube動画で、6秒以内に長文の宣伝文を読み切るという超難関の早口言葉に挑戦しており、その神業は圧巻!

声優のコケティッシュ・ヴォイスによる.「彼と彼女のソネット」。

[2024年12月作成]

Cure  中谷美紀 (1997)  gut (For Life) 

 

1. corpo e alma [作詞 大貫妙子 ポルトガル語訳詩 加々美ヘレナ 作曲編曲 坂本龍一] 8曲目

中谷美紀: Vocal
坂本龍一: Keyboards, Computer Programming, Producer
佐橋佳幸: Guitar
加々美淳 Samba Project II, Fumi Miyagi : Percussion, Back Vocal

1997年9月26日発売

1. corpo e alma (Body And Soul) [Words: Taeko Onuki, Portuguese Translation: Helena Kagami, Music & Arr: Ryuichi Sakamoto] 8th Track by Miki Nakatani from the album "Cure"on September 26, 1997

中谷と坂本のコラボ3部作の2番目のアルバム。前作では一部の曲で他人による作曲・編曲があったが、本作では1曲を除くすべての作曲と全部の編曲を坂本が担当している。自己レーベルでの制作かつ自身のプロデュースということで、彼が自分の裁量で自由に創ったという感じの作品だ。だからと言って中谷は坂本のアバターではなく、しっかり自分を出しており、両者の一体感が前作よりも深化しているようだ。

全体的にダークなムードが強いアルバムの中で、大貫さんが歌詞を書いた最後の曲 1.「corpo e alma」(ポルトガル語で「身も心も」という意味)は解放感があるサンバ・チューン。坂本のブラジル音楽嗜好が全開で、彼が作ったブラジル音楽風楽曲の中でベストの出来上がりになっている。大貫さんの歌詞も素晴らしく、彼女にしては珍しい官能的な内容であるが、それでも彼女らしい清冽さがしっかり保たれているのはさすが。パーカッションを担当している加々美淳は、現在ブラジル音楽のギタリスト、シンガーとして活躍、Fumi Miyagi はインターネットで資料が見つからなかったので、オリジナルの英語表記のままとした。なおクレジットには訳詞者の名前が載っているが、聴いた限りポル語の歌詞は聞き取れなかった。なお同年11月に発売されたリミックス・アルバム「Vague」に同曲の「Snooze Mix」が収められていて、そこでは大貫さんの歌詞は歌われていないけど、熱帯地方に降るスコールのようなサウンドになっていて面白い。

他の曲について。「いばらの冠」(作詞 松本隆)1曲目は、9月3日に先行発売された中谷5枚目のシングル。バッファリン(薬)のCMとフジテレビ系のバラエティ深夜番組「未来圏」で使用された。松本隆としては暗い感じの歌詞を歌う中谷の表現力が前作より増した感じがする。なお曲名に「Album Version」と付されているが、シングルと録音は同じで、アルバムのエンディングの演奏が30秒ほど長くなっているのが相違点。「天国より野蛮 〜Wilder Than Heaven〜」(作詞 売野雅勇)2曲目は5月21日発売の4枚目のシングルで、伊藤園「お〜いお茶」のCMに使用された。「砂の果実」(作詞 売野雅勇) 3曲目は3月21日に発売されたシングルで「中谷美紀 With 坂本龍一」の名義で発売された。この曲は約2ヵ月前の1月29日「坂本龍一 With Sister M」 (後にSister M は娘の坂本美雨と判明)の名義で発売されたシングル「The Other Side Of Love」(日本テレビ系ドラマ「ストーカー 逃げきれぬ愛」主題歌)の英語歌詞を別内容の日本語にしたもの。メランコリックな歌詞とメロディーの曲であるが、中谷にとって最大のヒット(オリコン10位)となった。坂本が挑戦したポップソングの到達点といえよう。「鳥籠の宇宙」 5曲目は中谷本人の作詞で、「いばらの冠」シングルのカップリングだった曲。「Superstar」(作詞 Bonnie Bramlett 作曲 Leon Russell)はカーペンターズ1969年のヒット曲(全米2位)のカバーであるが、原曲のコード進行を無視して、著しくダークな編曲を施している。

なお本CDは2枚組になっていて、2枚目は坂本作曲によるアンビエント・ミュージックのインストルメンタル「Aromascape」が収められていて、聴くとリラックスできるような音楽になっている。女性歌手のアルバムに、このようなCDを付けることが、このアルバムにおける坂本の立ち位置を象徴している。

「corpo e alma」は坂本流サンバの傑作といえる。

[2025年1月作成]


  
君の住む街にとんで行きたい/街  比屋定篤子 (1997)   Mint Age (Sony)   
 

1. 街 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 菅原弘明] シングル・カップリング

比屋定篤子:Vocal
菅原弘明: Guitar, Keyboards, Synthesizer, Percussion
名村武: Bass
寺谷誠一: Drums
浜口茂外也: Percussion

菅原弘明、小林治郎: Sound Producer

1977年10月22日発売

比屋定篤子(1971- ) は沖縄県那覇市出身。ブラジル音楽に傾倒し、東京の美術大学在学中にラテン・アメリカ研究会でボサノヴァを演奏。1994年に音楽上のパートナーとなる小林治郎と出会い、オリジナル作品による本格的な音楽活動を始め、ソニーの新人育成部門に認められて1997年6月「今宵このまま」のシングルでデビューした。「君の住む街にとんでゆきたい」(作詞 比屋定篤子 作曲 小林治郎 編曲 菅原弘明、小林治郎)はその4ヵ月後に発売された2枚目のシングルになる。彼女のディスコグラフィー(https://www.artenia.co.jp/sspe/sub44.html) で、彼女は本曲につき「小林との共作出発曲。初めて私の詞にメロディーがついて、とても嬉しかった。オリジナルを作る喜びを教えてくれた歌なのです」とコメントしている。デビュー曲がサンバ風だったのに対し本曲は3拍子のスローな曲。しかし「沖縄のサウダージ・ヴォイス」(サウダージ = 郷愁、憧憬、思慕、切なさ)と呼ばれるブラジル風なノンヴィブラートのクールな歌唱は、他の日本のフォーク歌手とは趣が異なるのが魅力。駒沢裕城のペダルスティールもいい感じで鳴っている。またシングルの3曲目に入っている「君の住む街にとんでゆきたい パラディゾ・バージョン」のバンジョ−を主体とした演奏もなかなか良い。

カップリングとして選ばれたのが、彼女が好きな大貫妙子の1.「街」 (大貫さんのアルバム「Grey Skies」1976収録)。オリジナルは細野晴臣のアレンジだったが、ここで編曲を担当した菅原弘明(1960- )は、坂本龍一や高橋幸宏のシンセイザー・プログラマーとしてキャリアをスタートし、その後キーボード奏者、作曲家、編曲家として活躍した人で、細野とは異なる独自のボサノヴァ・サウンドに仕立て上げている。

その後もアルバムやシングルを出したが、当時はあまり売れず、2001年の結婚を機会に沖縄に移り、当地で音楽活動を続ける。そして2000年代後半にクニモンド滝口に招かれて、1998年の名曲「まわれまわれ」の再録音を含む「流線形と比屋定篤子」名義でアルバム「Natural Woman」2009が発売され、再評価の機運が高まって新作の発表および 2016年には本シングル曲を含むベスト盤「昨日と違う今日〜比屋定篤子ベスト&レア」が発売された。

なお比屋定による大貫さん作品のカバーは、他にアルバム「Sunshower」1977 収録の「何もいらない」がある(前述の「Natural Woman」2009に収録)。

ブラジル音楽を愛するシンガーによる「街」のカバー。

[2025年1月作成]


1998年  Lucy (1997/6/6) 、 Attraction (1999/2/24) の頃 
恋人達の明日/昨日、今日、明日  大石恵 (1998)  Ki/oon (Sony)     
 

1. 恋人たちの明日 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 長谷川智樹] シングル曲
2. 昨日、今日、明日 [作詞 大貫妙子 作曲 Johannes Brahms 編曲 長谷川智樹] カップリング


大石恵: Vocal

1998年7月1日発売

1. Koibito Tachi No Ashita (Lover's Tomorrow) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Tomoki Hasegawa] Single
2. Kinou, Kyou, Ashita (Yesterday, Today, Tomorrow) [Words: Taeko Onuki, Music: Johannes Brahms, Arr: omoki Hasegawa] Coupling
by Megumi Oishi from the single on July 1, 1998

 
大石恵(1973- 東京都出身)は、高校生はフィギュアスケートの選手で、短大在学中にスカウトされ芸能界に入る。1994年にテレビ朝日「ニュースステーション」のお天気お姉さんとしてデビューしその美貌が評判となる。番組卒業後は女優、タレントとしてテレビドラマ、バラエティ番組、CM等で活躍したが、2000年にL'Arc〜en〜Cielのhydeと結婚して活動休止。2006年〜2007年にキャスターとして復帰したがその後は引退状態となった。

彼女は1998年に歌手デビューして3枚のシングル・ミニアルバムを出していて、本作はその1枚目になる(レーベル名「Ki/oon」は「キューン」と発音するそうだ)。1.「恋人たちの明日」は大貫さんのアルバム「Aventure」1981のカバー。過去に増田恵子(1982)、白石まるみ(1983)、堀江美都子(1984)がカバーしているが、本作はオリジナルのテクノポップと全く異なるボサノバアレンジになっている。アイデア自体は悪くないし、白石の綺麗な声を生かそうとする意図もわかるし、聴いててそれなりに気持ちが良いんだけど、ちょっと線が細いかなという気もする。

それに対してカップリングの 2.「昨日、今日、明日」は彼女のささやき系ヴォイスが上手くはまっていて、いい感じに仕上がっている。原曲はクラシックのブラームス作曲交響曲第3盤第3楽章ポコ・アレグレットのメロディーだ。それをポピュラー音楽にアレンジした最初は、1959年のフランス映画「Aimez-vous Brahms? (邦題 さよならをもう一度)」(フランソワーズ・サガンの小説を映画化したもの)で、主演のイブ・モンタンが「Quand Tu Dors Pres De Moi」(日本語で「貴女が眠るとき」)のタイトルで歌ったもの。同映画に出演していたアンソニー・パーキンス(ヒチコックの名画「サイコ」1960で有名な俳優)や歌手のダリダも歌っている。同曲はその後多くの人にカバーされたが、特筆すべきはセルジュ・ゲンスブールのプロデュースによるジェーン・バーキンの「Baby Alone In Babylone (バビロンの妖精)」1983で、新しい歌詞による独自の世界を築いている。本作も独自の日本語歌詞になっているが、このヴァージョンからインスピレーションを受けているのは明らか。大貫さんは1999年のアルバム「Attraction」でセルフカバーしている。

なおヴィジュアルで売り出した人だけあって、本シングルの発売前の5月21日に上記2曲のミュージック・ビデオを収めたDVDも発売されている。その後本人名義のアルバムは制作されなかたため、当該シングルのみで入手可能な曲となった。

[2025年1月作成]


 
Rain -陽のあたる場所- /秋はひとりぼっち/月の舟  大石恵 (1998)  Ki/oon (Sony)   

 

1. Rain −陽のあたる場所- [作詞作曲 大貫妙子 編曲 長谷川智樹] シングル

大石恵: Vocal

1998年10月21日発売

1. Rain (A Olace In The Sun) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Tomoki Hasegawa] by Megumi Oishi from the single on October 21, 1998

 
前作の3ヵ月後に発売された2枚目のシングルで、前作が8cm盤だったのに対し、本作は12cm盤で発売された。1.「Rain −陽のあたる場所- 」は大貫さんの書き下ろし。シャッフルのリズムによる明るい曲で、大石のムードにぴったりの佳曲に仕上がった。大貫さんがアルバム「Lucy」1997年に収めた曲とは同名異曲。誰かがカバーしてもよさそうなんだけど、本曲を聴くことができるのは当該シングルのみだ。

その他の曲が面白い。秋はひとぼっち[作詞作曲 G. Osborne, P.Vigrass, J. Wayne 日本語訳 山上路夫 編曲 長谷川智樹] 2曲目は、イギリスのヴィグラスとオズボーンの二人組が出したシングル「Forever Autumn (秋はひとりぼっち)」1972が原曲。ただし彼らのシングルは英米いずれもチャートインせず、日本でのみのヒットとなった。そして英米では、そのかわりにムーディー・ブルースのジャズティン・ヘイワードが歌ったカバー1978年が全米47位 全英5位の大ヒットとなった。大石のカバーはその20年後ということで、シンセサイザーで埋め尽くされたサウンドとリズムはいかにも1990年代といった感じだ。この曲を持ってきて大石に歌わせたプロデューサーのセンスに敬意を表したい。「月の舟」(作詞 長谷川智樹、大津美紀 作曲編曲 長谷川智樹)3曲目はアコースティックなサウンドが素敵な曲だ。

大石はその後1999年にもう1枚シングル(4曲入りミニアルバム)を出していて、大貫さんとの関わりはないけど、ムーンライダースのかしぶち哲郎がプロデュースしているだけあって、これも面白い作品になっている。

大貫さんの知られざる佳曲。

[2025年1月作成]


  
Listen To The Music  槇原敬之 (1998)  Sony Music  




 

2. 海と少年 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 槇原敬之] 2曲目

槇原敬之: Vocal, Back Vocal, Keyboards
橋本茂樹: Synthesist
小倉博和: Guitar

槇原敬之: Producer

1998年10月28日発売


写真下: 初回発売分に付いたCDケース・カバー

2. Umi To Shonen (The Sea And The Boy) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Noriyuki Makihara] 2nd Track by Noriyuki Makihara from the album "Listen To The Music" on October 28, 1998

 
槇原敬之(1969-  大阪府出身)が1998年に出した9枚目のアルバムで、初のカバー作品集。ジャンルや知名度などおかまいなしに、好きな曲を選んで、自らのプロデュース・編曲で作りあげ、持前のハイトーン・ヴォイスで女性歌手やオフコースの曲を歌いこなしている。

2.「海と少年」は大貫さんのアルバム「Mignonne」1978収録曲からで、1986年の矢野顕子に次ぐ2番目のカバー。原曲よりもグルーヴを効かせた槇原らしいポップなサウンドが心地良い。 ちなみに翌年1999年6月20日放送の音楽番組「ミュージック・フェア」で槇原敬之、矢野顕子、大貫さんの共演が実現し、本曲、「ピーターラビットと私」、矢野の「David」(本アルバム収録)を3人で代わる代わる歌う映像が残っている(当該番組では、その他に各自ソロで槇原「Hungry Spider」、矢野「ひとりぼっちはやめた」、大貫さん「四季」を歌ったそうだ)。

その他の曲について。 全曲につき編曲 槇原敬之

1. 蒼い月の夜〜Lady In Blue〜[作詞作曲 Lou] 1994: 1991年〜1992年に活動したバンド「Lazy Lou's Boogie」のボーカリスト Louが出した3枚目のシングル「泣いたり笑ったり忙しい君に」のB面曲。
2. 海と少年
3. 秋の気配 [作詞作曲 小田和正] 1977: オフコース11枚目のシングルで、アルバム「Junktion」収録。
4. Rain [作詞作曲 大江千里] 1988: 7枚目のアルバム「1234」収録。槇原はこの曲について「男性シンガーソングライターの祖として尊敬している気持ちと、この曲の構成の素晴らしさに敬服」と述べている。
5. ミス・ブランニュー・デイ [作詞作曲 桑田佳祐] 1984: サザンオールスターズ20枚目のシングル。
6. 君に、胸キュン [作詞 松本隆 作曲 Y.M.O.] 1983:イエローマジック・オーケストラ7枚目のシングルで、アルバム「浮気なぼくら」に収録。カネボウ化粧品のCMソングに採用されヒットした。
7. David [作詞作曲 矢野顕子] 1986: 矢野顕子のアルバム「峠の我が家」から。フジテレビ系列ドラマ「やっぱり猫が好き」のテーマソング。ここでのブラジル音楽風アレンジは素晴らしい。
8. 朧月夜 [作詞 高野辰之 作曲 岡野貞一] 1914: 文部省唱歌。アイリッシュ・チューン風の編曲が曲に合っている。
9. 春よ来い [作詞作曲 松任谷由美] 1994: 松任谷由美 26枚目のシングル。アルバム「The Dancing Sun」収録で、同名のNHK連続テレビ小説の主題歌となり大ヒットした。
10. Monkey Magic [作詞 奈良橋洋子 作曲 タケカワユキヒデ] 1978: ゴダイゴ8枚目のシングル。日本テレビ系ドラマ「西遊記の」テーマ曲。本アルバム唯一の英語曲で、意外と英語が上手い。
11. 空と君のあいだに [作詞作曲 中島みゆき] 1994: 中島みゆき 31枚目のシングル(アルバム「予感」に収録)。日本テレビ系ドラマ「家なき子」の主題歌で、彼女最大のヒット曲。
12. 月の舟 [作詞 森雪之丞 作曲 中崎英也] 1988: 三貴「ブティックJoy」 CMソングに採用。オリエンタル調のメロディーが魅力的な佳曲。

素晴らしい曲を理屈抜きで楽しめるアルバムだ。

[2025年1月作成]

 
1999年  Attraction (1999/2/24) の頃 
Dawn Pink  坂本美雨 (1999)  WEA Japan  
 




1. I'll Believe The Look In Your Eyes [作詞 大貫妙子 作曲 川村結花 編曲 坂本龍一 コーラス・アレンジ 大貫妙子] 3曲目
2. The Letter After The Wound [作詞 坂本美雨 作曲編曲 坂本龍一 コーラス・アレンジ 大貫妙子] 2曲目


坂本美雨: Vocal
坂本龍一: Keyoboards, Computer Programming
Jeff Galub: Guitar (1)
大貫妙子: Chorus

写真上: アルバム 1999年9月29日発売
写真下: シングル 2000年2月9日発売

1. I'll Believe The Look In Your Eyes [Words: Taeko Onuki, Music: Yuka Kawamura, Arr: Ryuichi Sakamorto, Chorus Arr: Taeko Onuki] 3rd Track
2. The Letter After The Wond [Words: Miu Sakamoto, Music & Arr: Ryuchi Sakamorto, Chorus Arr: Taeko Onuki] 2nd Track
by Miu Sakamoto from the album "Dawn Pink" on September 29, 1999

 
坂本美雨(1980- 以下「美雨」) は坂本龍一(以下「教授」)、矢野顕子(以下「矢野」)の間に生まれた娘。 9歳で家族とニューヨークに移住し現地の高校を卒業する。1997年16歳で教授の「The Other Side Of Love」1997でデビュー(Sister M という覆面名だったが後に美雨と判明)。東京とニューヨークを行き来しながら音楽活動し、1998年11月にミニアルバム「Aquascape」を発表。その後1999年5月に映画鉄道員(ぽっぽや)」(高倉健主演)の同名の主題歌を出し、4ヵ月後の9月(本人19歳の時)に発売されたアルバムが本作だ。そこには「Aquascape」に収められた曲4曲のリミックス(うち2曲の歌の録り直し)が収められている。超有名・有能な親の元に生まれたため、彼らのサポートを受けたアルバムの制作などのメリットを享受したが、「親の七光り」とみなされる苦労も多かっただろう。

そんな彼女が持って生まれた素質として挙げられるのは「声」だ。とても素直で綺麗な声で、ヨーロッパのトラディショナルに合う神秘的な深みがある。声量はないのでシャウトする場面はなく、呟き系の歌声になるけど、日本語、英語の発音、ヴォイス・プロダクションが大変美しいので、じっくり聴く込むと心が洗われるような気がする。その半面、声質や歌い回しに矢野のような癖がなく、そのためインパクトに欠ける点もある。

全11曲のうち6曲につき美雨が作詞していて、その歌詞は抽象的で教授やLune Sea (後にX Japanに加入)のSugizoが作る音楽の作風に合っている。大貫さんが歌詞を提供した1.「I'll Believe The Look In Your Eyes」は、それらのなかでは比較的具体的な内容で、教授がつけたメロディーと編曲もわかりやすく聴きやすい曲になっている。彼女のホームページのディスコグラフィーで、本アルバムの各曲につき本人がコメントしており、本曲について以下引用する。

「大貫さんに、人類愛のような大きなものでなくもっと個人的な愛をテーマに、と言われてメールで自分の体験を大まかにつたえ、それを元に大貫さんが書いてくださった詞です。恋愛に関する詞は自分で書くのはまだ未知の域なのでまだ自分が歌うとは思っていなく、大貫さんの詩を最初に読んだ時は戸惑いもありましたが、実際こういう気持ちはあるんだし飛び込んでみような、と思えた途端歌に勢いが出ておもしろかったです」

作曲の川村結花は当時は主にシンガー・アンド・ソングライターとして活動、後にスマップの「夜空ノムコウ」1998で作曲家としてブレイクした。なお本曲は翌年2月に同アルバム収録の「in aquascape」(作詞 坂本美雨 作曲編曲 坂本龍一)11曲目とカップリングでシングルカットされた。

他の曲について。「ひとりごと」(作詞作曲 矢野顕子 編曲 坂本龍一)1曲目 は矢野がアグネス・チャンに提供した曲(アルバム「美しい日々」1979収録)で、「ごはんができたよ」1980でセルフカバー、その後何度も再録音され彼女の代表曲となった作品だ。ここでは矢野が曲の提供とサイドボーカル(これが素晴らしい)、教授が編曲と演奏で彼女をやさしく包み込んでいて、当時すでに別居していた二人が一人娘のために注いだ家族愛がひしひしと感じられる名曲にして名演。この曲の数ある録音(カバーを含む)のなかで、これが一番好きだ。コメントで坂本のことを「教授」、矢野のことを「矢野さん」と言っている彼女のコメントが面白い。「awakening」(作詞 Arto Linsay 作曲編曲 坂本龍一)4曲目は教授の音楽仲間アート・リンゼイが美雨の日本語詞を基に英語で作詞したもの。現地育ちという事で、英語の発音と表現力は完璧で、曲の雰囲気にもぴったり合っている。「Child Of Snow」(作詞 Jeffrey Cohen 作曲編曲 坂本龍一)5曲目は上述の「鉄道員(ぽっぽや)」の英語バージョン。アイリッシュ・チューンを想起させるひんやりとした感触が最高。「Internal」(作詞 坂本美雨 作曲 Sugizo) 6曲目は、素直な歌声と演奏が気持ち良い佳曲。「Dawn」(作詞 矢野顕子、坂本美雨 作曲 矢野顕子 編曲 Jeff Bova)10曲目は矢野らしいメロディーが面白い曲で、教授や矢野のニューヨークの音楽仲間ジェフ・ボヴァが担当しているため、少し毛色が違ったサウンドになっている。

当時教授のもとでアルバムを制作した中谷美紀は自我を感じさせる歌唱だったのに対し、美雨は教授やSugizoが創り出した音の海の中でのびのびと漂っているような趣がある。アルバムのクレジットを見る限り、教授と矢野の威光に隠れて本人の存在感が霞んでいるように見えるが、実際聴いてみると本人の持ち味がそれなりに発揮されていて、なかなか良い仕上がりになっていると思う。

[2025年1月作成]


 
私生活  中谷美紀 (1999)  WEA Japan 

 


1. 夏に恋する女たち [作詞作曲 大貫妙子 編曲 前田和彦 星野英和 坂本龍一] 7曲目

中谷美紀: Vocal
坂本龍一: Keyboards, Producer


写真上: 「私生活」 1999年11月10日発売
写真下: 「MIKI」 2001年11月12日発売

1. Natsu Ni Koisuru Onna Tachi (Women In Love In Summer) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Kazuhiko Maeda, Hidekazu Hoshino, Ryuichi Sakamoto] 7th Track by Miki Nakatani from the album "Shiseikatsu" (Private Life) on November 10, 1999

 
中谷美紀と坂本龍一による3部作最後のアルバムで、その後2000年と2001年に2枚のシングルを出した後にコラボは終了し、その彼女は音楽活動から身を引いて女優業に専念する。前作に比べて中谷の作詞が4曲に増えた一方、音楽面では坂本カラーがより前面に出るなど、両者ともやり切った感がある。彼女が歌を止めたのは、これ以上の作品は出来ないと思ったからではないかな。

いままでのアルバムと異なり、書き下ろしは少なく、前作からの2年間に発売されたシングル2枚のリミックス、別バージョンや既発表曲のカバー、そしてアンビエント(環境音楽)風なサウンドをバックにしたモノローグなどの作品が多くを占めている。また編曲面でも坂本以外に、彼のチルドレンとも呼べる若手のクリエイター達が参加している点もあげられる。

大貫さんのカバー 1.「夏に恋する女たち」は1983年に発売されたシングル(アルバム「Signifie」収録)で、同名のTBS系テレビドラマの主題曲だった曲。ここでは打ち込みのシンセサイザー主体の思い切ったアレンジが施されていて、そのチープなサウンドをバックにしたボーカルが意外なほどいい感じで、とても面白い出来上がりとなった。坂本と一緒にアレンジを担当している前田和彦は、坂本のラジオ番組にデモを投稿して認められた人で、大貫さんの曲も入っている長谷川恵里のアルバム「Flavor」2002の全編でアレンジを担当している。なおアルバムのクレジットには明記されていないが、彼もシンセサイザーなどで演奏に加わっているものと思われる。もう一人の星野英和についてはインターネットで資料がみつからなかった。ちなみに2001年11月にワーナーから出たベスト盤「MIKI」には、ドラムスを強調した同曲の「Drum Mix」が収録されている。

他の曲について。「フロンティア」 (作詞 中谷美紀 作曲編曲 坂本龍一)1曲目は、1998年11月に発売された坂本美雨のアルバム「Aquascape」に収録された英語歌詞の「awakening」に新たな日本語歌詞をつけたもので、バックトラックもリミックスしたものを使用している。本曲は7月にシングルで発売されているが、エンディングにおけるギターソロなどでリミックス違いがある。本曲は中谷が主演した日本テレビ系ドラマ「女医」の主題歌となった。なお「all this time」 (作詞 jcfs 作曲編曲 坂本龍一)12曲目は、同曲に英語歌詞(坂本美雨のものとは異なる)を付けたもので、アレンジも異なる別バージョン。「雨だれ」(作詞 中谷美紀 作曲編曲 坂本龍一)2曲目は、坂本のアルバム「BTTB」1998に収録された「Opus」に歌詞を付けたもの。「Temptation」(作詞 中谷美紀 作曲 Gabriel Faure 編曲 鷲見音右衛門文宏、星野英和、坂本龍一)3曲目は、私にとって子供の頃観たアパレル・メーカーのCMが印象的だったフォーレの「ペレアスとメイザンド」に中谷が詩を付けたもので、シンセの編曲によりクラシック曲のイメージがかなり変わっている。

「クロニック・ラブ」(作詞 中谷美紀 作曲編曲 坂本龍一)5曲目は、坂本の「Bellet Mecanique」(アルバム「未来派野郎」1986収録)に歌詞をつけたもので、これも中谷主演のTBS系ドラマ「ケイゾク」の主題歌。1990年2月に発売されたシングルとはシンセの音が異なるリミックスになっている。「フェティッシュ」(作詞 売野雅勇 作曲編曲 坂本龍一)9曲目は本作唯一の売野の作詞で、シングル「クロニック・ラブ」のカップリングと異なり、メロディー楽器を少なくして主にリズムを強調したリミックスになっている。

過去2作品と同様、歌唱から感じられる中谷の自我は健在で、歌詞を多く書いている分、より強く出ているように思える。その分、より自分の好みを押し出した坂本とのバランスがとれているようだ。そんなアルバムの中で、大貫さんの「夏に恋する女たち」は、他の抽象的な内容の曲とは異なる光を放っている。

[2025年2月作成]


 
2001年  ensemble (2000/6/21) note (2002/2/20) の頃 
Amii-Phonic  尾崎亜美 (2001)  For Life
 



1. Sweet Breath [作詞 尾崎亜美 作曲 大貫妙子 編曲 尾崎亜美] 9曲目

尾崎亜美: Vocal, Keyboards
是永巧一: Electric Guitar, Acoustic Guitar
小原礼: Bass
山本秀夫: Drums
浜口茂外也: Percussion
橋本茂昭: Programming
大貫妙子: Chorus

2001年8月22日発売

1. Sweet Breath [Words: Ami Ozaki, Music: Taeko Onuki, Arr: Ami Ozaki] 9th track by Ami Ozaki from the album "Amii-Phonic" on August 22, 2001

私にとっての尾崎亜美(1957- )は、松任谷正隆が編曲を担当したデビュー作「Shady」1976と「Mind Drops」1977そしてシングル盤の「マイ・ピュア・レディ」1977だった。その陰影の濃い音楽が好きだったのだが、実際の彼女はもっと明るい人だという記事を読んだ記憶が当時ある。その後の彼女の作品は聴いていなかったので、デビュー25周年を記念して豪華なゲストを招いて制作された本アルバムを聴いた時は、予想していたとはいえ、力強いロックな歌唱に驚かされた。

大貫さんが作曲した1.「Sweet Breath」は10ccの「I'm Not In Love」1975 のようなイントロから始まる。しっとりした内容の歌詞で、大貫さんのメロディーもそれにそったものになっているが、アルバムの中では地味な感じになった。曲中とエンディングで大貫さんのバックボーカルが聞こえる。曲自体は決して悪くないんだけど、歌い手と曲にミスマッチがある印象は否めない。初期の尾崎亜美のイメージだったらしっくりきたんじゃないかな。この曲の出来については両者とも満足しなかったようで、ゲストの写真がコラージュされたアルバム表紙のイラストに大貫さんの姿がないのはそのためなんだろう。

他のゲストは、細野晴臣、奥田民生、福山雅治、Sing Like Talking、宇崎竜童、鈴木茂、真矢、デーモン小暮、杏里、高橋幸宏という豪華な面々で、プロデュースは尾崎本人と旦那の小原礼。1.「北京ダック」(作詞作曲 細野晴臣 編曲 尾崎亜美、小原礼)1曲目は「Tropical Dandy」1975のカバーで、細野とのデュエットが最高。細野にとっても25年後のセルフカバーということだね。ちなみに本曲はアルバム最後に「おまけバージョン」として尾崎一人の歌唱による別録音が収められているが、昔のSP盤をラジオで聞いているようなノイズ処理が施されていて、スウィングジャズ・ギター主体の古風なサウンドによく合っている。2.「Melody Junk」 (作詞 尾崎亜美、作曲 奥田民生、編曲 Amigos) 2曲目は、ギターに奥田、ドラムスに沼澤尚を迎えたゴキゲンなロックで、奥田のサイドボーカルが入る。「風のライオン」(作詞作曲編曲 尾崎亜美)3曲目は「Natural Agency」1991収録曲のセルフカバーで、福山は歌以外にハーモニカを吹いている。4.「Friendship 自然の法則」(作詞 藤田千章 作曲編曲 尾崎亜美)4曲目は前向きで明るい曲で、佐藤竹善(Sing Like Talking) とのデュエットが素晴らしい。

「Camping Boogie-Woogie」(作詞 尾崎亜美 作曲 宇崎竜童 編曲 小原礼)5曲目はブギウギ・ロックで、宇崎とのデュエットがユーモラスで楽しい。「ゆっくり踊るベアーのような夜を往く」(作詞 鈴木慶一 作曲編曲 小原礼)6曲目はLuna Seaのドラマー、真矢の乾いたドラムサウンドが最高のロック。逆回転エフェクトによるヘンテコなギターソロは鈴木茂だ。「Window Of Nature」(作詞作曲編曲 尾崎亜美)8曲目はブラジル音楽風のサウンドで、デーモン閣下とのデュエット・ボーカルがかっこいい。「Forgive Yourself」(作詞作曲編曲 尾崎亜美)9曲目の杏里とのデュエットは、二人の声質の相性の良さが際立っている。「New Life」(作詞 高橋幸宏 作曲 尾崎亜美 編曲 小原礼)10曲目は高橋のボーカルとドラムスが堪能できる。「手をつないでいて」(作詞作曲編曲 尾崎亜美)11曲目は本アルバムの中で唯一ゲストなしの曲。

要するに、大貫さんの「Sweet Breath」が悪いんじゃなくで、他の曲が良すぎたということだね。

[2025年3月作成]


 
夢 /風の道 /この広い空の下  岩崎宏美 (2001)  テイチク 



 

1. 風の道 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 古川昌義] シングル「夢」 2曲目

岩崎宏美: Vocal

2001年9月21日発売

1. Kaze No Michi (The Wind Road) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Masayoshi Furukawa] 2nd Track by Hiromi Iwasaki from the single "Yume" (Dream) on September 21, 2001
 
岩崎宏美(1958-  東京都出身)が2001年に出したシングル「夢」の2曲目に大貫さんの「風の道」(オリジナルはラジのアルバム「Quatre」1979、大貫さんのセルフカバーは「Cliche」1982に収録)が入っている。坂本龍一編曲によるラジと大貫さんのひんやりとした透明感のあるサウンドに比べて、素直で暖かい感じの音作り・歌唱になっている。なお本曲はアルバム未収録。

その他の曲について
タイトル曲の「夢」(作詞作曲 さだまさし 編曲 古川昌義)1曲目は、もとはさだの「第2回まさしんぐWorldコンサート」(1985/1/31〜2/23 東京・大阪・名古屋で計6回公演)の「軽井沢ホテル」という劇中の曲として作られたもので、主演女優は岩崎と十勝花子のダブルキャストで、前者の場合は岩崎、後者の場合さだが歌った(YouTubeで十勝花子が演じる舞台の映像を観ることができる)。なお同曲はさだ本人により「軽井沢ホテル」とのカップリングで同年3月にシングル盤が発売された。岩崎の録音はその16年後のカバーにあたり、2003年のアルバム「Dear Friends」にはボーカルを録り直したものが収録された。「この広い空の下」(作詞 阿久悠 作曲 馬飼野講康二 編曲 古川昌義)3曲目は、岩崎のファースト・アルバム「あおぞら」1975収録曲の新録音。

当時は喉のポリープや他の難病に悩まされ活動を抑えていた時期にあたり、本作には彼女の回復と再生を願う気持ちが込められているようだ。

[2025年1月作成]

 
Mood  八代亜紀 (2001)  日本コロムビア 

 

1. あなたとふたり [作詞 大貫妙子 作曲 平沢敦士 編曲 平沢敦士、佐々木康綱] 6曲目

八代亜紀: Vocal
進藤陽悟: Piano
里見紀子、高橋亜聖: Violin
蒲谷克典: Cello
成谷仁志: Viola

八代亜紀、川村昌司: Producer

2001年11月21日発売

1. Anata To Futari (Two With You) [Words: Taeko Onuki, Music: Atsushi Hirasawa, Arr: Atsushi Hirasawa, Yasutsuna Sasaki] 6th Track by Aki Yashior from the album "Mood" on Novemebrt 21, 2001

 
八代亜紀(1950-2023)に関する私の最初の記憶は、日本テレビ系列の歌謡番組「全日本歌謡選手権」だ。1970年代は歌手への登竜門としてのオーディション番組が流行っていたが、この番組はアイドル歌手向けではなく、下積みのプロ歌手が人生を賭けて背水の陣で挑戦する厳しいものだった。作曲家や歌手などの審査員の目に叶って10週勝ち抜いてグランドチャンピオンになった人が、メジャーデビューのチャンスを得ることができ、彼女の他に五木ひろし、中条きよし、山本譲二、天童よしみなどが本番組から世に出た。彼女の出演は1972年で、テレビを観ていた私は無名だった彼女の歌声・表情をはっきり覚えていて、それほど強烈な印象だったということだ。私は演歌は聴かないので、その後の彼女についてはテレビ番組やCM等で見聞きする程度となったが、2010年代以降に出されたジャズのアルバムを聴いて「上手い人だな」という印象は持っていた。

そんな彼女がCMの仕事で知り合った音楽プロデューサーの川村昌司と組んで制作したアルバムが本作「Mood」だ。彼の奥さんが八代の付き人だった関係もあって、家族的な付き合いの中で好きなように制作したようだ。当時の彼女は演歌がメインで、本格的なジャズのアルバムも出していない頃であり、そんな時期にソウル、クラブ・ミュージック、ボサノバ、ジャズ、クラシックなどに挑戦し、その過激な内容に彼女のファンは違和感を感じたはずで、キワモノと見做され売れなかったものと思われる。その後2010年にオンディマンドCDの発売、2013年のネット配信開始を経て再評価が進み、2024年11月の「レコードの日」に2枚組LPとして再発された。なおCDは稀少盤として中古市場で高値を呼んでいる。

1.「あなたとふたり」はストリング・カルテットとピアノをバックにした演奏。大貫さんの歌詞とこの編成での演奏ということで、ピュア・アコースティックを連想するが、作曲者の平沢敦士(アルバム・クレジットの「厚士」は漢字の間違い)のニューウェイブ的音楽性により、かなり趣が異なる感じになっているが、情感溢れる素晴らしい歌唱が新しい魅力を生み出している。なお本曲は2013年に出たジャズ、ポップス曲を集めたコンピレーション・アルバム「Mr. Something Blue 〜Aki's Jazzy Selection〜」に収められた。

その他の曲について。「愛を信じたい (MOOD Ver.)」(作詞 秋元康 作曲 中崎英也 編曲 佐々木康綱)1曲目は1991年発売のシングルの再録音で、ここではシンセサイザーと打ち込みを中心としたソウルフルなアレンジをバックにした八代のボーカルが素晴らしい。プロデューサーよると、レコーディングは目黒区の自宅近辺にあるスタジオ(世田谷区深沢)で、通常の仕事の帰りに立ち寄って行ったとのことなので、於日本として、一方バックコーラスは別途ニューヨークで録音されたもの。「イン・ザ・スターライト」(作詞 森雪之丞 作曲 南佳孝 編曲 Be The Voice) 2曲目は南得意のラテン調シティ・ポップで、鈴木茂がリズムギターで参加している。「Fly Me To The Moon」(作詞作曲 Bert Howard)3曲目、「Sweet Love」(作詞作曲 Ray Haden) 9曲目のアレンジを担当したレイ・ヘイドンは当時イギリスのソウル、アシッド・ジャズ界で活躍していた人で、これらのバックトラックはロンドンでの録音だ。前者は八代が好きなジュリー・ロンドンの歌唱で迫りながら、アレンジはヒップポップ、ラップという斬新な内容で、良く出来ていると思う。後者はクラブ・ミュージックそのもので、エフェクト処理がされた八代の歌声は現地のものとしか思えないグルーヴがある。

「おいしい水」(作詞 藤井千夏 作曲 平沢敦士 編曲 Singha's) 4曲目は、シンセと打ち込みによるジャパニーズ・ソウル。「Fusigi」(作詞 一倉宏 作曲編曲 鈴木智文)5曲目はクールなボサノバで、八代さんはこんな風にも歌えるんだ....うーん凄い。「Unchained Melody」(作詞 Hy Zaret 作曲 Alex North 編曲 長谷川智樹)7曲目は1955年の古い曲で、ライチャス・ブラザース1965年が定番。ここでは古風なサウンドとシンセをミックスしたアレンジで、本アルバムのなかでは比較的おとなしい感じ。「舟歌」(作詞 阿久悠 作曲 浜圭介 編曲 D.J. Boca-Parma, Kenn Nagai) 8曲目はご存知の名曲を外人DJがクラブ風にアレンジしたもの。一聴して「何これ?」と思う人が多いと思うが、私はとても良く出来ていると思う。

「Don't Cry」(作詞作曲編曲 EBBY)11曲目はファンクロック・バンド、ジャガタラのギタリストだったEBBYの曲で、J-Pop ソウルの佳曲。「生まれ変わる朝」(作詞 Aki Yashiro 作曲編曲 長谷川智樹)12曲目は本人が書いた本音じみた歌詞と彼女の歌を優しく包むクラシカルなサウンドが心に浸みる。最後の「Aki's Holy Night」(作詞 かの香織 作曲編曲 大沢誉志幸)13曲目は、その後八代さんのクリスマス・コンサートで必ず歌われたというジャズ・チューン。大沢本人がギター、佐山雅弘がピアノ、村上秀一がドラムスで参加している。

すべての曲において八代さんのボーカルが本当に素晴らしく、多様性が認められる前の時代に出た早過ぎた名作といえよう。当時この作品がもっと認められて、その結果いろんなスタイルで歌ってくれていたらよかったのに心から思う。ちなみにプロデューサーの川村昌司のインスタグラムに、レコード会社から配布された見本盤を関係者に渡す模様を記した「八代亜紀さんMOOD行脚」というシリーズ投稿があって、とても面白い内容なのでお勧め。

[2025年2月作成]


2002年  note (2002/2/20) の頃  
Smooth Le Gout Avec Piano  Smooth Ace (2002)  Toshiba EMI 

 

3. 新しいシャツ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 Team Smooth Ace コーラス・アレンジ Smooth Ace] 3曲目

重住ひろこ: Vocal
岡村玄、平慎也、李眞姫: Chorus
富樫春生: Piano

2002年5月22日発売

3. Atarashii Shatsu (The New Shirt) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Team Smooth Ace, Chorus Arr: Smooth Ace] 3rd Track by Smooth Ace from the album "Smooth Le Gout Avec Piano" on May 22, 2002

スムースエースは岡村玄と重住ひろこを中心としたア・カペラ・ヴォーカル・グループで、1990年の大学サークルから始まり、平慎也、李眞姫を加えた4人組で 2001年に東芝EMIからCDデビューを果たし、佐藤博、小曽根真(ピアノ)、渡邊香津美、鈴木茂、徳武弘文(ギター)、小原礼、岡沢章、細野晴臣、高水健司(ベース)、林立夫(ドラムス)、浜口茂外也(パーカッション)などの豪華なバック陣でアルバムを制作した。本作はカバー作品集で、色違いのジャケット、オリジナル作品からなる「Smooth La Musique Avec Piano」と同じ日に発売された。ベースが入った1曲を除きすべて富樫春生(ジャズ・ピアニスト、セッション・ミュージシャン)のピアノのみによる演奏。しかも間奏ソロなしの伴奏に徹して、それ以外の音をコーラスがカバーしているのが特徴。重住がひろこが大半のリードボーカルを担当しており、一部で李眞姫の声が聞こえる。男性は主にコーラスの役割を担い、女性ボーカルとデュエットで2曲歌っている。富樫の無駄のない美しいピアノをバックとした歌唱はシンプルかつストレートで、原曲の魅力を余すところなく伝え、コーラスはハミング、日本語の他に原曲にない英語のフレーズを歌って曲に彩りを与えている。

3.「新しいシャツ」は2回目のカバーで、大貫さんの「Romatique」1980がオリジナル。澄み切った空気の中で透明感に満ちたピアノとコーラスをバックとしたボーカルが若々しい(発売当時重住は30歳)。原曲の間奏部分の大村憲司のギターソロでは、コーラス隊が英語のフレーズを歌っている。しかしその意味がわかるようにはせず、器楽的に聞こえるようミキシング処理をしているところがミソ。

他の曲について (全曲につき 編曲 Team Smooth Ace コーラス・アレンジ Smooth Ace)。
1. 卒業写真 (作詞作曲 荒井由美) ハイファイセットの「卒業写真」1975、同年に作者のセルフカバー「Cobalt Hour」。  
2. 未来予想図 II (作詞作曲 吉田美和) Dream Come Trueの「Love Goes On...」1989、吉田が高校生の時に作曲したもの。
3. 新しいシャツ
4. You Go Your Way (作詞 小山内舞 作曲 豊島吉宏) Chemistry シングル 2001。 ケミストリーは川畑要、堂珍嘉邦からなるヴォーカルデュオ。
5. もう恋なんてしない (作詞作曲 槇原敬之) 槇原敬之5枚目のシングル 1992で、日本テレビ系「子供が寝たあとで」主題歌。
6. Ride On Time (作詞作曲 山下達郎) 山下達郎 1980年のシングル、アルバムで、日立マクセル・カセットテープのCM曲。この曲のみグルーヴ感を強調するため、小原礼のベースを加えている。凝りに凝ったコーラス・アレンジが素晴らしい。
7. Tsunami (作詞作曲 桑田佳祐) サザンオールスターズ44枚目のシングル。
8. 抱きしめたい (作詞作曲 桜井和寿) Mr.Children 2枚目のシングル、アルバム「Kind Of Love」1992収録。
9. Anniversary〜無限にCalling You (作詞作曲 松任谷由美) ユーミン23枚目のシングル、アルバム「Love Wars」1989。KDD企業イメージソングとして使用。
10. 長い間(作詞作曲 玉城千春) Kiroroのデビューシングル(インディーズは1996、メジャーは1998)。
11. 駅(作詞作曲 竹内まりや) 中森明菜のアルバム「Crimson」1986が初出で、1987年のシングルでセルフカバー。
12. X'mas Day In The Next Life (作詞 鈴木慶一 作曲 高橋幸宏)高橋幸宏 1990年のシングル。

4人組によるグループは2004年に平、李の二人が脱退。その後は、2006年に結婚した岡村と重住の夫婦デュオ、および重住のソロで活動を続けている。

静かな夜に聴くと、心に染みこんでくるアルバム。大貫さんの曲の数あるカバーのなかでも出色の出来だと思う。.

[2025年2月作成]


 
Hawaiian Munch  山弦 (2002)  Universal 
 

1. 蜃気楼の街 [作曲 大貫妙子 編曲 山弦] (Instrumental) 5曲目

佐橋佳幸: Nylon String Guitar
小倉博和: Nylon String Guitar

2002年6月21日発売

1. Shinkiro No Machi (The Mirage City) [Music: Taeko Onuki, Arr: Yamagen] (Instrumental) 5th track by Yamagen from the album "Hawaian Munch" on June 21, 2002

 
山弦は佐橋佳幸(1961- )と小倉博和(1960- )の二人のスーパーギタリストによるユニットで、1990年セッションで出会い、1998年に初めてのアルバム「Joy Ride」を出した。エレクトリック、アコースティックの両方をこなす人達で、ふたりと大貫さんとのセッションワークは1990年の「New Moon」を最初として、その後もコンサート、レコーディングに頻繁に参加している。そして2001年に山弦の曲「祇園の恋」と「Harvest」(上述の「Joy Ride」収録)に大貫さんが歌詞を付けて各「あなたを思うと」、「シアワセを探して」という曲名で2001年にシングルを発売し、その直後に「大貫山弦妙子 tabo 2001tour」を行った。その際にアンコールとして演奏されたのが「蜃気楼の街」のインストルメンタルで、それは翌年ハワイ・オアフ島でレコーディングされたカバー曲アルバム「Hawaiian Munch」に収録された。ナイロン弦ギター2台による繊細な演奏で、歌無しながら聴いていてじ〜んと心に響く。

本アルバムはウクレレによる1曲を除き、全曲アコースティック・ギター2本のみによる演奏で、オルタネイト・ベースによるフィンガースタイルを使わないスタイルで他のフィンガースタイル・ギタリスト達のデュエットと一線を画している。歌伴で使われるリズム、オブリガード、ソロを発展させてインストルメンタルに仕上げた感じだ。以下曲目・作曲者・オリジナル・アーティスト(または主要アーティスト)と発表年および注記。

1. Moon River [Henry Manchini] Henry Manchini & Orchestra 1961: 映画「Breakfast At Tiffany's (ティファニーで朝食を)」のサウンドトラックで、映画では主演のオードリー・ヘップバーンが歌い、アンディ・ウィリアムス1962のカバーが有名。ナイロン弦ギターによる演奏。
2. Yeh Yeh [Roger Grant, Pat Patrick, Jon Hendricks] @Mongo Sabtamaria 1963: もとはラテンのインスト曲だったが、Aボーカリーズのジョン・ヘンドリックスが歌詞を付けてランバート・ヘンドリックス&ロスによるジャズ・カバー1963 、Bさらにイギリスのジョージ・フェイムのロック・カバー1964 で全英1位、全米21位の大ヒットを記録した。ここでの演奏の乗りはAに近い。
3. On Broadway [Barry Mann, Cynthia Weil, Jerry Leber, Mike Stoller] The Drifters 1963: バリー・マンとシンシア・ウェイルが作った曲にリーバー・アンド・ストーラーが改良を加えて完成させたもので、ザ・ドリフターズで全米9位のヒットとなった。ちなみに改良以前のザ・クッキーズによるデモ・バージョンを聴くことができ、両者を比較するとおもしろい。またジョージ・ベンソンによるカバー1978 全米7位も必聴。
4. Kona [山弦] 山弦2000: アルバム「High Life」収録曲のセルフカバーで、ウクレレ2台による演奏。
5. 蜃気楼の街
6. Never My Love [Don Addrisi, Dick Addrisi] The Association 1967: アドリシ・ブラザースの作曲で、全米2位の大ヒットを記録。ギターの胴を叩いてパーカッションのような音を出している。
7. Jeux Interdits [Unknown] Romance Anonimo (愛のロマンス)というスペインのギター曲: ルネ・クレマン監督の映画「Jeux Interdits (禁じられた遊び)」1952で使用されたナルシソ・イエペスのギター演奏が有名。ここでは2台のギターでブラジル音楽の味付けがされていて、とても面白い出来あがり。
8. Don't Give Up On Us [Tony Macaulay] David Soul 1976: 日本でも放送されたテレビ番組「刑事スタスキー・アンド・ハッチ」のハッチ役、またはクリント・イーストウッド主演の映画「Magnum Force (ダーティー・ハリー2)」の悪い警官役で有名なデビッド・ソウルのヒット曲(全米1位)

好きな曲への敬意を払いながら楽しんで演奏しているのがわかる。なかでも大貫さんの「蜃気楼の街」への思い入れたっぷりの演奏は素晴らしい。

[2025年3月作成]




  
Clarify Soul  MIO (2002)  SME (Sony) 
 

1. 好きのかたち [作詞 大貫妙子 作曲編曲 佐橋佳幸] 7曲目

MIO: Vocal
佐橋佳幸: Acoustic Guitar, Sound Produce

2002年10月23日発売

1. Suki No Katachi (Shape Of Love) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Yoshiyuki Sahashi] 7th track by MIO ftom the album "Clarify Soul" on October 23, 2002

 
MIOについては、同名のシンガーが複数いてインターネットの情報が錯綜しているため、調査が難しかった。まずソニーミュージックのオフィシャルサイトに1999年から2001年までのディスコグラフィーがあったが、プロフィールやニュースはブランクだった。次にWikipediaの「MIO(シンガーソングライター)」を見ると、「R&Bシンガーソングライター、東京都原宿出身」とあり、アルバム3枚、シングル9枚とDVD1枚が載っていたが、それ以上の情報はなし。「MIO 原宿出身」で検索すると「井上ミオ (@mio3034)」のインスタグラムに行き当たり、そこには「メジャーアーティストを経て経営者へ (中略) 2011年から自由な音楽会社経営と、2017年から目黒近郊で発酵系朝挽き焼き鳥店(朝挽き鶏炭火焼き牡丹)を経営」とあった。そしてそのお店が目黒線の不動前駅にあり、クリエイティブな内容で高評価を受けていることがわかった。さらにそのインスタグラムにはYouTubeの「QOL channel」のアドレスが付いていて、彼女が家族や仲間たちとYouTube、FMラジオ番組をやっていた。さらに「MIO 牡丹 ブログ」の検索で「MIO〜リスペクトワールド」というブログを見つけることができた。そこには彼女が1973年生まれであること、自作の詩の発表や、バリ島ウブドにおにぎり屋をオープンしたこと、音楽活動について 2022年に21年振りにワンマンライブをやったことなどが書かれていた。ということで、アルバム・シングルの発表は2001年までだけど、現在は焼き鳥屋を経営しながらブログ、ラジオ、YouTubeなどで発信を続けていることがわかった。

本アルバムのタイトル「Clarify Soul」は「魂を明らかにする」という意味で、3枚目で最後のアルバムになる。ソウルフルなボーカルが魅力的な人で、ボーナストラック2曲を除く全10曲のうち6曲で河野圭、2曲で佐橋佳幸が編曲を担当している。1.「好きのかたち」は佐橋のアコギのみの伴奏によるシンプルなサウンド。大貫さんのピュアな歌詞を歌うMIOの歌はスローテンポでありながらもしっかりグルーヴしていて、アルバムの真ん中に配置されて変化と彩りを与える存在になっている。

その他の曲では佐橋編曲のもうひとつ「ひとりの歌」(作詞 朝水彼方 作曲編曲 佐橋佳幸)3曲目が良いね。シュガーベイブを彷彿させるサウンドで、聴いてるとニヤニヤしてしまう。「Seeds 〜ひまわりの種」(作詞 Shifo 作曲 Shifo, HIBINO GEnKI 編曲 河野圭」1曲目と「あなたに会いたい」(作詞 森浩美 作曲 長部正和 編曲 河野圭)5曲目は各シングルカットされ、「全国のFMチャートを賑わせた」と帯にある。「Clarify Soul」(作詞 MIO 作曲 森俊之 編曲 河野圭)は当時29歳だった本人の思いが籠められた歌詞と寄り添うソウルフルなサウンドが印象的な佳曲。「琥珀色の地球」(作詞 松本隆 作曲 平井夏美 編曲 阿部潤)9曲目は松田聖子1986年の作品(アルバム「Supreme」収録)のカバーで、ピアノとウッドベースのみによる伴奏。「Mother's Eternity」(作詞 町田俊行 作曲 亀井登志夫 編曲 河野圭)10曲目は、フジテレビ系ドラマ「怪談百物語」(竹中直人主演)のテーマ曲になった。最後の2曲は以前に出したシングル曲のリミッックスで、ボーナス・トラックとして収められている。

大貫さんの歌詞を佐橋佳幸の作曲とアコギ一本の伴奏で楽しめる。

[2015年2月作成]


  
ア・カペラ・ウィンターカヴァーソング集〜うぶごえ音泉 Baby Boo (2002)  Waner Music Japan 

 

7. 春の手紙 [作詞作曲 大貫妙子 ア・カペラ・アレンジ 瀬川忍, Aqua] 7曲目

瀬川忍(シノブ): Vocal (Top Tenor)
水野裕介(ユースケ): Vocal (Tenor)
櫻井貴之 (チェリー): Vocal (Leed Tenor)
若松健治 (ケン): Vocal (Baritone)
藤森祐輔 (ユウ): Vocal (Bass)
桝田和宏 (Kazz): Vocal (Voice Percussion)

西垣哲二(Aquanotes), Baby Boo: Sound Producer

2002年11月13日発売

7. Haru No Tegami (The Letter On Spring) [Words & Music: Taeko Onuki, A Cappella Arr: Shinobu, Aqua] 7th track by Baby Boo from the album "A Cappella Winter Song Covers Ubugoe Onsen (Birth Voice of Sound Fountain) "on November 13, 2002

ベイビー・ブーは1996年結成のコーラスグループで、2002年にメジャーCDデビュー。当初6人組でスタートし現在は5人で活動を続けている。本アルバムは2枚目(カバーアルバムとしては最初)の作品で、冬にちなんだ曲をカバーしたもの。翌年12月に第2弾として「ア・カペラ・ウィンターカヴァーソング集〜うぶごえ音泉2」を出している。アルバムの資料にはメンバーの名前がなく、CDジャケットのクレジット欄にも記載がないが、その代わりに男性6人の写真があるため、上記のメンバーであることが特定できた。それは2004年のヴォイス・パーカッション担当KAZZの脱退(グループがパーカッションやシンセサイザーを伴奏に付けることの選択を迫られたための脱退で、その後の彼はヴォイス・パーカッションの世界を追及し続けている)を除いてメンバー交替がないことからわかるように、彼らが一体であることを表しているようだ。

本アルバムはボーナス・トラックを除きすべて冬にまつわる曲で、楽器を使わず人の声だけで作られている。冷たい空気に包まれた静かな夜に聴いていると、ア・カペラのピュアな歌声が浸み入ってきて、心が透明になるような気がする音楽だ。7.「春の手紙」のオリジナルは、大貫さんが1993年に出したシングルで、TBS系ドラマ「家裁の人」の主題歌として使用され、2005年のアルバム「One Fine Day」に山弦の伴奏による新録音で収録された。ここでは来る春に向けての心情が素晴らしいコーラス・アレンジで歌われている。バックのリズムはどう聞いてもパーカッションか打ち込みにしか思えないけど、これはKAZZ(桝田和宏)のヴォイス・パーカッション。彼のパフォーマンスをYouTubeで観たが正に超人的だった。なお後年彼らがこの曲を歌う映像がYouTubeに投稿され、そこからリードボーカルはチェリー(櫻井貴之)であることがわかった。アレンジはメンバーの瀬川忍とAquaとあるが、後者は当時ベイビー・ブーをサポートしていたAquanotesという西垣哲二を筆頭とする集団のようだ。

他の曲について(特記ない場合は 編曲 瀬川忍, Aqua)
1.「Merry Christmas Mr. Lawrence」 [作曲 坂本龍一] 映画「戦場のメリークリスマス」1983のために作曲された超名曲をハミングとスキャットのみでアレンジした。クリエイティブなアレンジが最高で、オリジナルがもつ精神を見事に伝えている。
2. 「めぐる季節」[作詞作曲 小田和正] オフコース1976年9枚目のシングルで。同年のアルバム「Song Of Love」収録。
3. 「氷の世界」[作詞作曲 井上陽水] 1973年のアルバム・タイトル曲で、ヴォイス・バーカッションとベースでファンキーなリズムを表現している。
4.「クリームシチュー (The Stew)」 [作詞 糸井重里 作曲 矢野顕子] 矢野のアルバム「Oui Oui」1997収録。ここでは軽快な曲のリズムを変更する大胆なアレンジを施している。
5.「風」 [作詞 北山修 作曲 端田宣彦 編曲 浅田祐介, Aqua] はしだのりひことシューベルツによる1969年のフォークブームの名曲。本作のなかでは最もア・カペラらしいアレンジ。
6.「さらばシベリア鉄道」 [作詞 松本隆 作曲 大瀧詠一] 太田裕美1980年がオリジナルで、大瀧のセルフカバーは「A Long Vacation」1981に収められた。
7.「春の手紙」
8.「Little Christmas」 [作詞作曲 若松健治 編曲 瀬川忍] この曲のみメンバーが作曲したオリジナル。ア・カペラ・コーラスがぴったりはまった佳曲。
9.「歩いて帰ろう」初回限定盤のみに収められたボーナス・トラックで、斉藤和義1994年の代表曲のカバーでフジテレビ系の子供番組「ポンキッキーズ」のテーマ曲に使用された。この曲のみ明るい感じのドゥワップで冬っぽくないけど、ボーナス・トラックということで......。

クリエイティブなア・カペラが堪能できる逸品。素晴らしいアレンジによる「春の手紙」が楽しめる。

[2025年3月作成]


Livre  norinha (2002)  On The Decki 
 

1. 海と少年 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 佐藤五魚] 6曲目

norinha: Vocal, Fender Rhodes
佐藤五魚: Programming, Keyboards

2002年11月20日発売

1. Umi To Shonen (The Sea And The Boy) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Go Sato] 6th track by norinha from the album "Livre" on November 20, 2002

 
norinha (ノリーニャ、本名 五十嵐典子)は東京生まれ。ホテルのラウンジや結婚式でピアノを弾きながらデモテープを作成し、2002年にインディ・レーベルからCDデビューを果たし、3枚のミニアルバムを制作した。その後はライブ活動を行いながら他アーティストのアルバムやライブにピアニスト、ボーカリストとして参加したり、ヒップポップ・バンドのキーボード奏者として活動した。現在は演奏活動以外に目黒区祐天寺でピアノ教室を開催している。

本作は彼女のデビュー作で、帯のキャッチフレーズ「ボサノバ発、クラブジャズ経由、J-Pop行」にあるとおり、ブラジル音楽にジャズとJ-ポップを取り入れたサウンドを展開している。ブラジル音楽への傾倒が強く、7曲中2曲は英語、2曲は日本語とポルトガル語が混じった歌詞。アルバムタイトルはポルトガル語で「自由」という意味で、彼女の芸名も南米風だ。バンドが参加した本格的なサンバリズムの2曲を除き、キーボードと打ち込みによる音作りで、編曲と演奏担当の佐藤五魚は村上秀一との仕事が多かった人。

1.「海と少年」は大貫さんのアルバム「Mignonne」1978収録曲のカバーで、矢野顕子1986年、槇原敬之1998年に次ぐ3番目となる。打ち込みによる軽快なリズムのアレンジであるが、アルバムの中ではブラジル臭さが薄めで、J-ポップというかクラブ寄りのサウンドを意識した作りになっている。

他の曲について(以下 編曲はnorinha、佐藤五魚)。「ラジオの恋人」(作詞 こだまかおり 作曲 norinha) 2曲目、「O meu Brasil」 (作詞 norinha, こだまさおり 作曲 norinha) 5曲目は、ギター、ベース、パーカッションが加わったバンド編成による本格的なブラジリアン・ジャズの曲で、彼女のボーカルやピアノソロが活き活きしていて本来の音楽性が発揮されていると思う。私はカルロス・ジョビン、デオダード、ナラ・レオン等のブラジル音楽が大好きなんだけど、そんな私が聴いても良い出来だと思う。ただしこれらが日本で受けるか否かは別問題だけどね。「Tea For Two」(作詞 Irving Caesar 作曲 Vincent Youmans)3曲目は1924年の曲で、ドリスデイ1950年のカバーが有名なスタンダード・ソングのボサノバ・カバー。 「毎日がパーティーみたい」(作詞 norinha, こだまさおり 作曲 norinha) 4曲目は J-ポップ寄りの曲だ。「citrus」(作詞作曲 norinha 補作詞 深井由美子)は英語歌詞による落ち着いた感じのボサノバ。

日本人によるブラジル音楽としてかなりの出来だと思うが、今は忘れ去られてしまったのが残念だ。

[2025年2月作成]


ウサギチャンスーパースター !! Vol. 0001  Various Artists (2002)  USAGI-CHANG 

 

1. メトロポリタン美術館 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 エイプリルズ] 14曲目

[エイプリルズ]
イグチミホ: Vocal, Synthesizer
イマイケンタロウ: Vocal, Performer (All Sound Works)
ナカムラタツヤ: Guitar
シミズケイスケ: Bass
ショトクジュウキ: Drums

鈴木アキラ: Producer

2002年11月21日発売

1. Metropolitan Museum [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Aprils] 14th track by Aprils from the album "Usagi-Chan Superstar !! Vol. 0001" (Various Artists) on November 21, 2002

  
大貫さんの「メトロポリタン美術館」は 1984年4月〜5月にNHKテレビ「みんなのうた」で初回放送された。清水信之編曲による大貫さんの録音は、1984年5月21日発売のシングル「宇宙みつけた」のB面としてディアハート(RVC) レーベルから発売され、1986年3月21日発売のアルバム「Comin' Soon」に収められた。「みんなのうた」の中でも特に人気がある曲で、映像はその後も現在に至るまで頻繁に再放送され、各レコード会社が発売した「みんなのうた」曲集にも収められている。その際契約の関係で大貫さんのオリジナルを使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが通例で、そのため本曲は他のアーティストによるカバーに加えてこの手の別録音が多く存在することとなった。

本作は上記のような原曲の再現でなく、独自のアレンジを施したバージョンの最初にあたる。渋谷系アーティストの鈴木アキラが設立したインディ・レーベルUSAGI-CHANG RECORDSが制作したエレクトロ・ガールズ・ポップのコンピレーション・アルバムで、全17曲打ち込みによるシンセサイザーをメインとしたサウンドをバックに女の子達が歌う。初期のテレビゲームにあったようなシンセのチープなサウンドを逆手にとったような音作りで、超高速の派手な曲やフランス語で歌うコケティッシュな曲など、いろいろ入っている。

そのなかで「メトロポリタン美術館」はシンセサイザーと生楽器を組み合わせた演奏。ザ・エイプリルズはイマイケンタロウとイグチミホによる男女のボーカルが主体のバンドで、アルバム制作とコンサートの他にゲームやテレビ番組、CM音楽なども手掛け、現在も元気に活動している。イントロは同じメロディーであるが、すぐに打ち込みのシンセサイザーの細かなリズム音が鳴り始め、イマイケンタロウの声が「M E T R O P O L I T A N」のスペルを語り、独自の世界が広がってゆく。イグチミホのボーカルもサウンドエフェクトを効かせた部分もあり少しニューウェイブな感じ。

エレクトロポップによる「メトロポリタン美術館」のカバーのはしり。

[2025年2月作成]


 
flavor  長谷川恵里 (2002)  Inter  
 

1. 彼と彼女のソネット [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 大貫妙子 編曲 前田和彦] 11曲目


長谷川恵里: Vocal, Chorus
前田和彦: All Instruments, Edits

前田和彦: Producer

2002年12月11日発売

1. Kare To Kanojyo No Sonnet (His And Her Sonnet) [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Kazuhiko Maeda] 11th Track by Eri Hasegawa from the album "flavor"  December 11, 2002
 
長谷川恵里についてはインターネットに資料がなくプロフィールは不明。2001年にインディ・レーベルからシングル3枚を出し、翌年本アルバムを発売後に表舞台から姿を消したという事だけしかわからない。プロデュースと全16曲の編曲および大半の演奏を担当した前田和彦は、1996年に坂本龍一のラジオ番組に投稿した楽曲が評価され、その後インディーの世界で活躍する作曲・編曲家、プロデューサー、エンジニアになった人。

アルバムは @Active Side (7曲) APops Side (3曲) B Relaxing Side (6曲)の3部構成からなり、ラッパーをフューチャーした曲もあるヒップポップ・サウンドのアクティブ・サイドのイメージが強烈で、後の部がかすんでしまっている。個人的にはヒップポップ系は得手ではないので、それらの打ち込み主体のサウンドを聴くのはつらいところがあるが、ポップスとリラクシングの部になるとソウルフルで聴き易く面白い曲が出てくるので、最後まで聴かずに途中で止めちゃう人がいることを考えると、ちょっと損な構成だなと思う。要するに彼女はソウル音楽をベースに何でも歌える人だったけど、いろいろ詰め込み過ぎたため、イメージを絞りきれず、結果売れなかったのではないかと思う。

本人作詞、前田和彦作曲による曲が大半を占める中で、1.「彼と彼女のソネット」は「Relaxing Side」の冒頭を飾るカバー曲。アレンジが凝っていて、本来のコード進行を無視した音使いにより一風変わったサウンドになっている。本人は真面目に綺麗に歌っているので、聴いていてちょっと不思議な感じになる。でもその試みはあまり成功したとは思えず、同曲のカバーのなかでは最も異質な感じになった。

他の曲では、ポップスの部の「とどけ君の空色へ」(作詞 長谷川恵里 作曲 小東義典 編曲 小東義典 前田和彦)8曲目が読売テレビ「あさリラ!」のオープニング・テーマ、「Growin' UP」(作詞 瀬田千恵子、長谷川恵里 作曲 前田和彦 編曲 前田和彦 小東義典)9曲目が日本テレビ「ウェークアップ!」のエンディング・テーマに採用されたそうだ。比較的アコースティックなサウンドのリラクシング・サイドにも「空白の時」(作詞 政谷剛史 作曲 政谷剛史、前田和彦 編曲 前田和彦、小東義典)12曲目などいい曲がある。そして最後の曲は、坂本九1963年の大ヒット曲のカバー「見上げてごらん夜の星を」(作詞 永六輔 作曲 いずみたく 編曲 前田和彦)16曲目。

今では忘れ去られた存在の歌手による、最も変わったサウンドの「彼と彼女のソネット」。

[2025年1月作成]


  
2003年  note (2002/2/20)  One Fine Day (2005/2/16)の頃   
Treasure The World  有里知花 (2003)  Virgin (東芝EMI)  

 




10. あなたに会いに行こう [作詞 大貫妙子 作曲 宮沢和史 編曲 高野寛] 10曲目 

有里知花: Vocal
斉藤哲也: Acoustic Piano
高野寛: Guitars, Chorus, Producer
鈴木正人: Bass, Organ
沢田周一: Drums
柳田謙二: Percussion

写真上: アルバム 2003年9月3日発売
写真下: シングル 2003年6月25日発売

10. Anatani Ai Ni Yukou (I'll Come To see You) [Words: Taeko Onuki, Music: Kazufumi Miyazawa, Arr: Hiroshi Takano] 10th track by Chika Yuri from the album "Treasure The World" on September 3, 2003

有里知花(1981- )は神奈川県生まれ。母親の宮前ユキ(2014年没)はカントリー歌手として有名だったが、日本におけるハワイアン音楽の浸透に貢献した人でもあった。そんな親の元で育った彼女はハワイとの縁が深く、2001年同地で出したシングル「I Cry」がローカル・ヒットし、その後「hana」のシングル、アルバムで日本デビューした。英語の歌唱が大変上手い人で、英語の歌詞による曲、英語の歌詞が混じった日本語の曲が多く、無国籍な雰囲気がある。

彼女が2003年の日本ASEAN交流年(1967年設立の東南アジア諸国連合と日本の交流30周年を記念して当時の小泉首相の提唱により行われ、日本側は国際交流基金が企画担当を務めた)のイベントひとつとして開催された「J ASEAN Pops」のイメージソングとして歌ったのが10.「あなたに会いに行こう」だ。大貫さんによる国境を超えた出会いを描いた歌詞、宮沢和史による特定の国でないアジアを感じさせるメロディーによるスケールの大きな曲、高野寛の編曲と有里知花の歌唱により融和と協力を象徴する名曲となった。

まずシングルが先行発売され、次いで曲が収められたアルバム「Treaure The World」が発売された。さらに同曲はASEAN各国で母国語の歌詞が付けられて、その国の著名シンガーによって歌われた。さらに10月22日ジャカルタ、26日バンコク、そして12月21日横浜で各国の歌手が参加したジョイントコンサートが開催され、そのフィナーレで同曲が歌われた。そのうちNHK衛星放送による12月21日横浜パシフィコでの映像を観ることができた。それは約10分にわたり各国の歌手達がこの歌を母国語で歌い継ぐ素晴らしいパフォーマンスだった。以下参加歌手を登場順にリストアップした。

@ 有理知花(日本): イントロダクション(語り)
A 宮沢和史(日本): スキャット (ガットギターを弾きながら)
B Dick Lee (ディック・リー、 シンガポール): 英語(ピアノを弾きながら)
C 有理知花(日本): 「あなたに会いに行こう」
D Briohny Smyth (ブライオニー、タイ)
E Tanya Chua 蔡健雅(タニア・チェア、シンガポール): 中国語
F Alexandra Bounxouei (アレクサンドラ・ブンスアイ、ラオス)
G Jolina Magdangal (ジョリーナ・マグダンガル、フィリピン)
H Koh Mr. Saxman (コウ・ミスター・サックスマン、 タイ) :アルトサックス・ソロ
I Preap Sovath (プリアップ・ソヴァット、 カンボジア)
J Lay Phyu (レービュー、 ミャンマー): Iron Cross のボーカリスト
K Lam Truong (ラムチューン、ベトナム)
L Lo Ryder (ローライダー、ブルネイ)
M Hans Anwar (ハンス・アンワル、ブルネイ)
N AB Three (AB スリー、インドネシア)
O Siti Nurhaliza (シティ・ヌルハリザ、 マレーシア)

IJでR&B調、KLMでラップ調になるなど、高野寛による柔軟でしなやかで飽きさせることのないアレンジ、その後も各国で代表的な歌手であり続けた人達の思いが籠った歌唱は感動的。ちなみに上記以外にブライオニーCとアレクサンドラFが、それぞれ別のコンサートで有里と歌った映像も残っている。

なお宮沢のメロディーも日本語以外の歌詞を載せた公式録音が少なくても二つ存在する。シンガポールの鬼才ディック・リーBが作詞した英語と中国語のバージョンで、前者は有里知花の上記シングル「Treasure The World」に同じタイトルで収録された(アルバムには入っていない)。歌われている歌詞の内容は大貫さんの歌詞の訳ではなく、同じ精神で書かれた別のものになっている。後者は同じく有里の歌で「珍愛這世界」というサブタイトルの配信で聴くことができるが、当初どういう形でリリースされたかについての情報は見つからなかった。また本曲は2004年の台湾のテレビドラマ「100% Senorita (千金百分百)」で日本語バージョンが挿入歌として使用されたので、同地でも知られた曲になっている。

その他の曲について。
1.砂浜ラブレター [作詞 Kenneth Makuakane 徳田憲治 作曲 Kenneth Makuakane 編曲 Tsukada]
2. Such A Beautiful Feeling [作詞作曲 Eric Justin Kaz 編曲 黒沢秀樹]
3. Thank You -Oceans Of Love- [作詞作曲 Kenneth Makuakane 編曲 山本隆二]
4. 懐かしのキャシィ・ブラウン [作詞作曲 荒木一郎 編曲 小倉博和]
5. If Not For You [作詞 Dick Lee 作曲 宮沢和史 編曲 冨田恵一]
6. 浜辺(skit)
7. それぞれの浜辺で同じ月を見ている [作詞 GAKU-MC 有里知花 作曲 高野寛 有里知花 編曲 高野寛]
8. 風にたくして [作詞作曲 有里知花 編曲 高野寛]
9. 地平線の向こうへ [作詞 有里知花 作曲 佐藤竹善 編曲 黒沢秀樹]
10. あなたに会いに行こう
11. TSUNAMI [作詞作曲 桑田佳祐 編曲 小倉博和]

英語の曲は2, 3, 5の3曲で、1,9は歌詞のなかに英語の部分がある。1, 3 の作者は上記のハワイでヒットした「I Cry」を手掛けた人。2の作者はアメリカ人のシンガー・ソングライターで、リンダ・リンシュタットやボニー・レイットが歌った「Love Has No Pride」が代表作。本曲は彼がメンバーだったグループ、アメリカン・フライヤーのセルフタイトル・アルバム1976に入っていた。4は荒木一郎1976年のカバーで、ハワイの香りが漂うアメリカン・ポップス。5は冨田ラボの冨田恵一が編曲と演奏を担当した極上の音楽。6はウクレレと本人のスキャットによる45秒の断片。7, 8は本人による作詞作曲で高野寛が制作に関わり、7に入っているGAKU-MCのラップが面白い。9.の佐藤竹善はSing Like Talkingのフロントマン。ボーナストラックの11は、山弦の小倉博和による南国風のアレンジが面白いサザンの曲。ということで、どの曲も良い出来だと思う。

有里はその後少ないながらもアルバム発表とコンサート活動を続けていたが、2015年以降の記録は見つからなかった。海外と日本の市場の狭間のなかで無国籍な持ち味を生かしきれず、歌手としてのステータスを固めきれなかったのではないかと思う。近年のYouTubeへの投稿から海外(アジア)のファンが今もいるようだ。

埋もれさせるにはもったいない名曲・名作。

[2025年3月作成]


2004年  note (2002/2/20)  One Fine Day (2005/2/16)の頃   
空に星があるように  井上芳雄 (2004)  ビクターエンタテイメント  
 

1. 黒のクレール [作詞作曲 大貫妙子 編曲 羽岡佳] 1曲目

井上芳雄: Vocal

2004年8月11日発売

1, Kuro No Claire (Black Claire) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Kei Haneoka] 1st Track by Yoshio Inoue from the album "Sora Ni Hoshi Ga Aru Yoni" (Like There Are Stars In The Sky) on Augst 11, 2004

ミュージカル界の頂点に立つ井上芳雄(1979- 福岡県出身)25歳の時の作品。彼のデビューは東京藝術大学声楽科在学中の2000年で本作はアルバムとしては2枚目。数多くの舞台、コンサート、映画、テレビに出演し、声優や司会などマルチな活躍をしている彼であるが、当時は「ミュージカル界のプリンス」と言われながらメディアへの露出はまだ少なかった頃。2曲のオリジナル以外は、日本のポップスの名曲を男女・時代に関係なく選んでいて、自分が好きな曲を歌っているのがよくわかる。女性受けする甘い顔と声のため、私は少し斜に構えて聴いてみたが、曲に対する敬意に満ちた誠実な歌唱が心に響いてきて実に良いのだ。

冒頭曲1.「黒のクレール」は大貫さんのアルバム「Cliche」1981のカバー。羽岡佳の編曲はストリングスとピアノを中心としたクラシカルなサウンドで、井上は素直に伸びやかに歌っている。この人は男女を超越した声色を持っていて、聴いていて歌の内容が目に浮かぶのは、ミュージカル・シンガーとしての特質だろう。ミュージシャンのクレジットはなし。

他の曲は以下のとおり(曲名 作詞 作曲 編曲、オリジナルと発表年)

1. 黒のクレール
2. 木綿のハンカチーフ: 松本隆 筒美京平 羽岡佳、 太田裕美 1975
3. 花鳥風月: Satomi 服部隆之 服部隆之 (オリジナル)
4. 空に星があるように: 荒木一郎 荒木一郎 服部隆之、 荒木一郎 1966
5. 上を向いて歩こう: 永六輔 中村八大 羽岡佳、 坂本九 1961
6. 胸の振り子:サトウハチロー 服部良一 服部隆之、 霧島昇 1947
7. 琥珀色の地球: 松本隆 平井夏美 花岡佳、 松田聖子 1986
8. 恋のバカンス: 岩谷時子 宮川泰 服部隆之、ザ・ピーナッツ 1963
9. You Are The Top: 三谷幸喜 井上陽水/平井夏美 上柴はじめ、 舞台劇 「You Are The Top 〜 今宵の君」 2002
10. 伝えたい・・・ありがとう: 井上芳雄 羽岡佳 羽岡佳 (オリジナル)

2.「木綿のハンカチーフ」は「エー?」という選曲だけど、意外にいい感じ。3.「花鳥風月」は軽やかなボサノヴァ曲。彼の声は聴く人の心を癒す魅力があるね。4.「空に星があるように」、5.「上を向いて歩こう」は彼のパーソナリティーにぴったり。6.「胸の振り子」は日本のポップスの父、服部良一の名曲で編曲者の隆之は彼の孫。7.「琥珀色の地球」は松田聖子の代表曲で、本アルバムにはボーナスとして当曲のライブ映像を収めたDVDが付いていて、井上の若々しい姿を観ることができる。

8.「恋のバカンス」も面白い選曲で、ここではザ・ピーナッツのハーモニーを多重録音でこなしている。9.「You Are The Top」は三谷幸喜作・演出のロマンティック・コメディーの劇中歌。市村正親、浅野和之、戸田恵子主演によるDVDが発売されている。陽水本人のヴァージョンは2002年のアルバム「カシス」に収録。本アルバムの中では最もミュージカル風の曲だ。10.「伝えたい・・・ありがとう」は井上本人の作詞によるオリジナル。

[2025年4月作成]


 
Calore  鈴木慶江 (2004)  EMI Classic  
 

1. 美しい人よ La Violetera [作詞 Eduardo Montesinos 日本語歌詞 大貫妙子 作曲 Jose Padilla Sanchez 編曲 三宅一徳] 4曲目

鈴木慶江: Vocal
三宅一徳: Keyboards
田代耕一郎: Guitar
篠崎正嗣: Strings
三沢またろう: Percussion

2004年11月10日発売

1. Utsukushii Hito Yo La Violetera (The Beautiful One) [Words: Eduardo Montesinos, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Music: Jose Padilla Sanchez] 4th track by Norie Suzuki from the album "Calore" on November 10, 2004

  
鈴木慶江(1973- )は神奈川県出身のソプラノ歌手。東京藝術大学やイタリアの大学で声楽を学び、2007年以降は日本で活動する。ソロリサイタルを主にテレビやラジオへの出演、CM、社会貢献活動など幅広い活動をしている。「Calore」(イタリア語で「情熱」という意味)は3枚目のアルバムで、クラシックにとどまらず、ポピュラー、トラディショナルにも取り組んだ意欲作で、大貫さんの「美しい人よ」のカバーが入っている。

「美しい人よ」はスペインの古い歌に大貫さんが日本語の歌詞をつけたもの。原曲の「La Violetera」(邦題「花売り娘」)は1914年ホセ・パディラの作曲。エデュアルド・モンテシノスの歌詞は春のマドリードでスミレを売る娘たちを描いたもの。1920年代のハバネラのリズムによるラケル・メラのバージョンが最初のヒットで、チャップリンが映画「City Lights」1931で取り上げて有名になった。その後多くの人がカバーしたが、1987年のナナ・ムスクーリの録音が絶妙なアレンジと透き通る歌声で曲の美しさを最大限に引き出し決定版となった。それは本当に惚れ惚れする素晴らしさだ。

大貫さんは1994年にシングル盤で発売。日本語歌詞は原曲の春のイメージのみを引き継いだ全く異なる内容であるが、彼女らしい気品が香り立つ逸品になっている。ハープ奏者の浅川朋之のアレンジによる、ナナのヴァージョンに磨きをかけた感じのハープやストリングスの調べと、大貫さんの凛とした歌声が本当に最高。なお本曲はJR東海のCMに使用され、1995年のアルバム「Tchou」には別録音が収められた。

本作はこの曲の最初のカバーになる。鈴木のソプラノ・ヴォイスがいい味を出している。一般的にソプラノ歌手の歌声は頭にキンキンくるケースが多いけど、彼女の声には優しい丸みがあって、高い声には珍しい癒しがあるのだ。確かにクラシック風なんだけど堅苦しさはなく、歌う人の思いが豊かな声に乗せて広がってゆくような感覚があって、聴いていてそれなりに心地良い。自由な精神を持っている人なんじゃないかなと思う。アレンジを担当した三宅一徳は多様なジャンルの音楽をこなす作曲家、編曲家、キーボード奏者で、大貫さんのシングル・バージョンをベースとした音作りになっている。なおライナーノーツで鈴木は本曲につき以下のようにコメントしている。

偶然に出会った心地よいメロディー 歌っていた時 ニースの青い海 モナコの爽やかな空 あるいはポジターノの海岸線の風が 私の周りに広がっていました

他の曲について(特記ない場合: 編曲 三宅一徳)
「Mal di Luna 月光(ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番より)」(作詞 Rinaldi Giuseppe 作曲 Ludiwig van Beethoven) 1曲目 歌詞がついたバージョンがあるとは知らなかった。何か聴いていて不思議な感じ。
「Reverie 夢」(作曲 Debussy) 2曲目はハミングによる歌唱。本当に美しいメロディーで、神々しい感じ。
「Air on G String - Du bist wie eine Blume G線上のアリア〜君は花のごとく」(作詞 Heinrich Heine 作曲 J.S. Bach 編曲 奥居史生) 3曲目 ハイネによるこの詩は通常シューマン作曲で歌われるが、ここではバッハの曲に合わせている。他に例がないようで、本作のためのアレンジかな?
「Scarborough Fair」(Traditional) 6曲目 ポール・サイモンがアレンジしたアルペジオとケルト音楽調の伴奏を合わせたアレンジ、そして透き通った歌唱が美しい。
「Traumerrei from "Kinderszenen" Op.15 トロイメライ〜「子供の情景」作品15より」 (作詞 伊藤美佐子 作曲 Robert Shumann) 7曲目 シューマンの名曲にドイツ語の歌詞をつけたもの。
「Winter from "Four Seasons" 冬〜「四季」より」(作詞 鈴木慶江 作曲 Antonio Lucio Vicaldi) 8曲目 鈴木本人がイタリア語の歌詞をつけている。
「星めぐりの歌」(作詞作曲 宮沢賢治)9曲目 賢治の作品「双子の星」や「銀河鉄道の夜」に出てくる歌。他の作品に比べて異質な印象があるが、聴いてみるとアルバムの世界観にしっくり合っている。
「Ave Maria アヴェ・マリア」(作詞 Walter Scott ドイツ語訳 Adam Storck) 10曲目 心が洗われる曲。

ソプラノ歌手による美しい「美しい人よ」。

[2025年2月作成]


   
2005年  One Fine Day (2005/2/16)の頃    
The Note Of My Nineteen Years 竹井詩織里 (2005)   Tent House
 

2. 蜃気楼の街 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 Dr. Terauchi, Pierrot Le Fou] 2曲目

竹井詩織里: Vocal
増崎孝司: Guitar
小野塚晃: Keyboards
勝田一樹: Sax
村田浩一: Back Vocal

2005年1月9日発売

2. Shin-Kiro No Machi (The Mirage Town) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Dr. Terauchi, Pierrot Le Fou] 2nd track by Shiori Takei from the album "The Note Of Nineteen Years" on January 9, 2005

 
竹井詩織里(1985- )は大阪府生まれで兵庫県育ち。立命館大学在学中の2003年にCDデビューし、アルバム3枚、ミニアルバム4枚、シングル9枚、ベストアルバム1枚を出したが、卒業して一般企業に就職した2008年に引退した。一部の曲での作詞、ルックスと声の良さと安定した歌唱力により熱心なファンがついたようだが、大々的には売れなかった。代表曲は「名探偵コナン」のエンディング・テーマに採用された「世界 止めて」2005。

彼女はメジャーから作品を発表しながら、マイナー・レーベルからもアルバムを出していて、「私がxx歳のうちに残しておきたいもの」というコンセプトで制作したカバーソング・ミニアルバムのシリーズで、18歳から20歳まで3作のうちの2作目にあたり、彼女の20歳の誕生日(2月6日)の少し前に発売された。バックを務めるミュージシャンは、ディメンションというフュージョン・バンドで、自己名義のアルバムの他にいろんな歌手のバックを担当していた人達だ。編曲者は変名になっていて、うち「Pierrot Le Fou」はジャン・リュック・ゴダール監督の「気狂いピエロ」1965 のことかな。

2.「蜃気楼の街」はオリジナルよりもテンポが速く、ダンサブルなフュージョン・サウンドになっていて、サックスやギターソロが入るとても面白いアレンジ。ドラムスのクレジットがないが打ち込みのようだ。

他の曲について (特記ない場合は 編曲 Dr. Terauchi, Pierrot Le Fou)

1.「Honesty」 (作詞作曲 Billy Joel 編曲 小林哲) ビリー・ジョエル 1979年の名作。これは意表をつくボサノバ・アレンジ
3.「My Favorite Things」 (作詞 Oscar Hammerstein II 作曲 Rochard Rogers) 1959年のミュージカル「Sound Of Music」からで、1965年の映画ではジュリー・アンドリュースが歌った。ここではピリッとしたジャズ・ワルツのアレンジ。
4.「Baby One More Time」(作詞作曲 Max Martin) ご存知ブリトニー・スピアーズ1998年のデビュー曲。アコギ一本のみのバックがユニーク。
5.「My Happy Ending」(作詞作曲 Clif Magness, Avril Lavigne) アヴリル・ラヴィーン 2004年のヒット曲で、ロック調のアレンジ。
6.「Baby It's You」(作詞 Mack David, Luther Dixson 作曲 Burt Bacharach) オリジナルはザ・シュレルズ1961だが、ザ・ビートルズ1963、スミス 1969のカバーも名高い。ここではスミスでのアレンジを発展させてガレージ・ロック風に仕上げた。この曲のみベース、ドラム奏者が入った生バンド・サウンドになっている。

洋楽カバーのアルバムは一般にはあまり受けないと思うけど、彼女の英語はとてもきれいで、凝ったアレンジも面白い。生活感が感じられるライナーの写真と一緒に本人の思い入れがたくさん入っていて、自分自身とコアなファンを対象にしたものと推測される。その中で唯一の日本語曲「蜃気楼の街」が違和感なく溶け込んでいるのは、この曲がもつ無国籍な味わいからくるのだろう。

[2025年3月作成]


蜃気楼の街  Reggae Disco Rockers (2004)  Flower  
 




1. 蜃気楼の街 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 Reggae Disco Rockers] 1曲目
2. 蜃気楼の街 (Inst.) [作詞作曲 大貫妙子 編曲 Reggae Disco Rockers] 6曲目

有坂美香: Vocal
高宮紀徹: DJ, Programming
小林洋太: Bass
西内徹: Sax
太田靖雄: Trumpet

写真上: シングル CD (2005年3月30日発売)
写真下: シングル Record

1. Shin-Kiro No Machi (The Mirage Town) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Raggae Disco Rockers] 1st track
2. Shin-Kiro No Machi (The Mirage Town) (Instrumental) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Raggae Disco Rockers] 6th track 
by Raggae Disco Rockers from the single "Shin-Kiro No Machi (The Mirage Twon)" on March 30, 2005
レゲエ・ディスコ・ロッカーズは、1994年DJの高宮紀徹を中心に結成されたレゲエ・ユニット。オリジナルや古今東西の名曲のレゲエ・カバーで日本におけるラヴァーズ・ロックの代表的存在。本作は5作目のシングルCD(ミニアルバム)で、オリジナルの他に以前に出した曲のセルフカバーやインストルメンタル・バージョンなどは入っている。

1.「蜃気楼の街」はシュガーベイブのアルバム「Songs」1975に入っている大貫さん初期の名曲のカバー。ここでのブラスをフィーチャーしたレゲエ・アレンジはとても自然な感じで、大貫さんの楽曲カバーの中でもオリジナリティーと出来の良さで上位に位置するものだ。ふくよかな声で歌う有坂美香(1974- 神奈川県出身)は米国でボーカルを学び、帰国後アニメソング等を歌っていたが、2004年にレゲエ・ディスコ・ロッカーズに加入。また「機動戦士ガンダム Seed Destiny」第2期のエンディングテーマ「Life Goes On」2005の大ヒットで有名になる。また様々なアーティストのアルバムにボーカリストとしてフィーチャーされ、自己名義のアルバムも出している。2.「蜃気楼の街 (Inst.)」はボーカル抜きのカラオケ・バージョンであるが、聴くだけでも十分心地良く、曲として十分鑑賞可能な内容になっている。

CDシングルには全7曲収録で、インストルメンタルの「Bond Street」3曲目は1997年、「Bless You」5曲目は1999年のシングルのセルフカバーで、「Rainbow」3曲目は少し前に出したシングル・レコードのバージョンからYOYO-Cのラップを抜いた有坂のソロバージョン。「Wedding」6曲目は川崎のクラブ・チッタにおけるライブ録音。どれもレゲエを耳に心地良く発展させたラヴァーズ・ロックのサウンドになっている。

なお同時期に45回転のシングル・レコードも発売されていて、A面が「蜃気楼の街」、B面が「蜃気楼の街 (version) 」となっているが、B面はCDシングル6曲目のインスト・バージョンと同じものだ。

「蜃気楼の街」の気持ち良いレゲエ・アレンジ。

[2025年3月作成]


Rembrandt Sky 藤田恵美 With 森亀橋 (2005)  Leafage(ポニーキャニオン)  





 

5. スプマンテの恋 [作詞 大貫妙子 作曲 佐橋佳幸 編曲 森亀橋] 5曲目

藤田恵美: Vocal
森俊之: E. Piano, Cemballo
佐橋佳幸: E. Guitar, E. Sitar
亀田誠治: E. Bass
河村 カースケ 智康: Drums
山本拓夫: A. Flute
数原晋: Flugelhone

写真上: 日本盤 2005年11月2日発売
写真下: アジア各国盤 (英語版) 2005年発売

5. Spumante No Koi (Spumante Love) [Words: Taeko Onuki, Music: Yoshiyuki Sahashi, Arr: Mori-Kame-Bashi] 5th track by Emi Fujita with Mori-Kame-Bashi (Emi With MKB) from the album "Rembrandt Sky" on November 2, 2005

 
森亀橋は、プレイヤー、作曲・編曲家、プロデューサーの森俊之、亀田誠治、佐橋佳幸からなるユニットで、ドラムスの川村カースケ智康を加えて不定期にコンサート等を行っている。彼らが2005年に藤田恵美とタイアップして制作したアルバム。

藤田恵美(1963- 東京都出身)は、子役から始めて13歳で演歌歌手としてデビューしたがすぐに辞めて、しばらくアマチュア歌手としてカントリーを歌っていた。1991年にギタリストの藤田隆二と結婚して二人で「Le Couple」を結成しアルバムとシングルを出す。最大のヒット曲は1997年の「ひだまりの詩」。グループは2005年に活動休止して、2007年の離婚後はソロとして活動。2001年が最初のアコースティックなサウンドによる欧米曲のカバーアルバム「camomile」シリーズが日本・東南アジア各国で好評を博し、その延長線上で制作されたのが本作だ。森・亀田・佐橋が各4曲づつ作曲を担当(ただし亀田については1曲のみ奥さんの下成佐登子が作曲)し、藤田は3曲作詞している。シンセサイザーやプログラミングを最低限にしたバンドサウンドと藤田の暖かみのあるボーカルとがうまく噛み合い、生み出された爽やかな感じのラブソングは聴いていて心地よい。

大貫さんが作詞した5.「スプマンテの恋」はなかでも飛び切りお洒落な感じの曲で、トリコロールの服(3つの色の組み合わせ)、コクトーの猫、スプマンテ(発泡性ワイン)、ガウディーの椅子といった言葉がポンポン飛び出してくる。大貫さんの数多い歌詞の中でもその軽やかさで、筆頭に挙げられる作品だと思う。藤田のボーカルはこんな感じの曲にぴったりで、佐橋が弾くエレクトリック・シタールの音色もいいね。

他の曲も、みなとても良い出来であるが、あえてひとつといえば1.「風のくちぶえ」かな。作詞者のAlvin Woodstockはリリー・フランキーの変名(彼はアルバム帯に「私は彼女の歌声に、音楽という言葉を超えたはるか、美しいものを感じる」という賛辞を送っている)。俳優、文筆家(脚本、小説、エッセイ)、画家(イラスト、絵本)、音楽(作詞、作曲、演奏)などマルチな才能を発揮する才人が書いた歌詞が素晴らしい。

なお本作は、アジア各国での販売のために、同じバッキングトラックを使用した英語盤が同時並行で制作された。訳詞でなく英語詩で、欧米の著名作詞家に依頼したもの。日本盤と曲順が異なるので、対照表は以下のとおり。

1. 風のくちぶえ[作詞 Elvis Woodstock 作曲 森俊之] → 7. More Than Ever Before [作詞 Marica Aderwall]
2. 海よりも虹よりも[作詞 宮沢和史 作曲 亀田誠治] → 5. Unbelievable [作詞 Samuel Waermo]
3. eternity [作詞 佐藤純子、下成佐登子、作曲 下成佐登子] → 1. Somewhere [作詞 Terry Cox]
4. 秋のスイカ [作詞 藤田恵美 作曲 森俊之] → 3. Every Single Day [作詞 Mark Goldenberg]
5. スプマンテの恋 → 6. Lucky Day [作詞 Mark Goldenberg]
6. Rembrandt Sky [作詞 藤田恵美 作曲 佐橋佳幸] → 2. Love Let Go [作詞 Randy Goodrum]
7. 東京で会いましょう [作詞 宮原芽映 作曲 佐橋佳幸] → 9. Tokyo Lover [作詞 Esther Suganuma]
8. 200x [作詞 藤田恵美 作曲 森俊之] → 10. 200x [作詞 Esther Suganuma]
9. 真夜中のペットショップ [作詞 谷口崇 作曲 亀田誠治] → 8. Window Shopping [作詞 Alan O'Day]
10. 今がよければ [作詞 宮原芽映 作曲 佐橋佳幸] → 4. To Daydream With You [Chris Farren]
11. 夏のリクイエム [作詞 湯川れい子 作曲 佐橋佳幸] → 11. My Summer Love [作詞 Alan O'Day]
12. 影法師 [作詞 伊藤俊吾 作曲 亀田誠治] → 12. Ten Million Tears [作詞 Randy Goodrum]

藤田の英語の歌唱はとても自然な感じで、それでいて西洋人にはない繊細さがあって、とてもいい感じ。東南アジア諸国で受けたのも道理で、香港でゴールドディスク、マレーシアでダブル・プラティナディスクを獲得したという。

大貫さんの歌詞のなかでも、洗練された軽やかさにおいて筆頭に挙げられる作品。

[2025年4月作成]


   
2006年  One Fine Day (2005/2/16)  UTAU (2010/11/10) の頃  
Listen Or Love  jenny01 (2006)  インペリアル(テイチクエンタテインメント) 
 

1. 都会 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 太宰百合] 1曲目

NAOKO: Vocal
太宰百合: Acoustic Piano, Electric Piano
西嶋徹: Bass
藤井摂: Drums
藤田明夫: Soprano Sax
Arvin Homa Aya: Chorus

須永辰緒 (Sunaga t experience): Producer

2006年10月4日発売

1. Tokai (City) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yuri Dazai] 1st Track by jenny01 form the album "Listen Or Love" on October 4, 2006

 
jenny01はNAOKO(ボーカル 浅草出身)をメインとしたユニットで、着せ替えフランス人形の製造番号01というコンセプトで命名された。彼女のフランス訛り風のウィスパリング・ヴォイスがチャーム・ポイントで、ライブでは人形のように頻繁に服を着替えたという。1999年に結成し、インディーズから4枚のミニアルバムを出した後にメジャーデビューした。本作はメジャー3枚目のミニアルバムで、その後活動が途絶えるが、2023年にNAOKOがjenny01を復活させ、ライブを行ってシングルを出した。彼女は現在浅草で宝飾業に従事しているとのこと。ウィキペディアによると、jenny01はロックバンドでギター、ベース、ドラムスのサポートメンバーがいると書かれているが、本アルバムに関しては曲毎に異なるミュージシャンがバックをやっていて、グループ的な要素はなく "jenny01 = NAOKO"となっている。

1.「都会」(大貫さんのアルバム「Sunshower」1977収録曲のカバー)は、「レコード番長」と呼ばれ「Sunaga t experence」の名義でアルバムを出しているDJ、音楽プロデューサーの須永辰緒が制作に携わり、ジャズをベースに幅広い音楽性をもつピアニストの太宰百合が編曲し若手のジャズプレイヤーと演奏することで、当時流行りの打ち込みに頼らないライブなサウンドに仕上がっている。NAOKOのコケティッシュなボーカルは、大貫さんの少し退廃的なボーカルとは異なる面で都会の雰囲気を醸し出していて、個性的でとてもいい感じだ。

「都会」とブラジリアン・ジャズの「New Season」(作詞 NAOKO, inco saito 作曲編曲 尾方伯朗)5曲目以外は打ち込み中心のポップ・サウンド。ダンスミュージック音楽ユニット Studio Apartmentの作曲家・編曲家の阿部登がプロデュースした「rain, rain」(作詞 NAOKO 作曲編曲 阿部登)2曲目はブラジル、「Melody」(作詞 NAOKO 作曲編曲 阿部登)3曲目はハウス・ナンバー。「砂漠の絨毯」(作詞 NAOKO 作曲 奥山みなこ 編曲 高宮永徹、中村新史)4曲目の編曲者は、Reggae Disco Rockersの高宮紀徹の兄だ。

なお最後の2曲「My First Recipe」と「Monologue」は2005年発表のアルバム「Ladymade」に収録された曲のリミックス。

数ある「都会」のカバーの中でも筆頭に挙げられる存在。

[2025年3月作成]


 
2007年  One Fine Day (2005/2/16)  UTAU (2010/11/10) の頃  
nami The Good Day's J-Pop  高田なみ (2007)  プリズム(コロムビア) 


6. 小さなワルツ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 木住野佳子] 6曲目

高田なみ: Vocal
木住野佳子: Piano
Chris Silverstain: Bass
藤井摂: Drums

2007年4月18日発売

1. Chisana Waltz (The Little Waltz) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yoshiko Kishino] 6th track by Nami Takata from the album "nami The Good Day's J-Pop" on Arril 18, 2007

 
高田なみは富山県出身。2002年にStep To Heavenのボーカリストとしてアルバム「Wish You Were Here」を出した後の2007年に発表した初ソロアルバムが本作で、1970年代〜1990年代のJ-ポップの名曲をカバーしたもの。ブラジリアン・ジャズ風のサウンドをバックに歌う彼女のボーカルは素直で優しく、理屈抜きに聴くことで心を和ませてくれる。編曲担当は、ジャズ・ピアニストの木住野佳子と幅広い音楽をカバーするギタリストの竹中俊二。

6.「小さなワルツ」はブラジルで録音された大貫さんのアルバム「Tchou」1995からのカバーで、大貫さんにはボサノバ調の名曲がたくさんあるのに地味な曲を選んだね。オリジナルのオスカール・カストロ・ネヴィスの編曲があまりに素晴らしいので、カバーするのは不利かなと思ったが、ピアノトリオによるシンプルなジャズワルツのアレンジで、それなりの味を出している。高田さんのボーカルは、大貫さんのようなクールさはなく、ブラジル音楽を歌う歌手のなかでは暖かみが感じられる。ベーシストは1985年から日本で活躍するアメリカ人で、ドラムスはjenny01のアルバムにも参加していた若手ミュージシャンだ。

他の曲について(曲名、作詞作曲編曲、オリジナル・アーティスト、オリジナル発表年の順番で表示)。もともとボサノバ調の曲が多いが、斬新なアレンジのものもある。

1. 夏の恋人(作詞作曲 山下達郎 編曲 木住野佳子) 竹内まりや 1978: デビューアルバム「Beginnings」に入っていた曲で、当初から山下が竹内に入れ込んでいたことがわかる作品。山下の編曲と竹内のボーカルが最高だったが、ここでのサロン・ジャズ風の演奏もなかなかいいね。
2. あの日に帰りたい(作詞作曲 荒井由美 編曲 竹中俊二)荒井由美 1975: 説明不要の名曲。オリジナルではハイファイセットの山本潤子によるスキャットから始まるが、ここではブラスによるアレンジになっており、その代わりにエンディングのダブルテンポでスキャットが再現され、そのバックに流れるピアノソロがいかしている。
3. Down Town (作詞 伊藤銀次 作曲 山下達郎 編曲 木住野佳子) シュガーベイブ 1975:これも名曲。ここではストリングス付きのワルツ・アレンジが施されていて、そのアイデアを楽しみながら聴くべし。
4. 友だち (作詞 岩里祐穂 作曲 上田知華 編曲 竹中俊二) 今井美樹 1995:アルバム「Love Of Life」収録。本カバーのほうがより大人っぽくていい感じ。
5. 水色の雨(作詞作曲 八神純子 編曲 竹中俊二) 八神純子 1978: 大ヒット曲のサンバ・アレンジ。八神の伸びのあるボーカルとは異なる優しい感じの歌声。
6. 小さなワルツ
7. あなたに出逢えてよかった(作詞作曲 平松愛理 編曲 木住野佳子) 平松愛理 1991: アルバム「redeem」収録。OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)「三毛猫ホームズの幽霊城主」(原作: 赤川次郎)の主題歌に採用された曲。ここでも落ち着いた感じのアレンジで高田の声質・キャラによく合っている。木住野のエレキピアノが心地よい。
8. マイ・ピュア・レディ (作詞作曲 尾崎亜美 編曲 竹中俊二) 尾崎亜美 1977: 資生堂CMに採用された尾崎最大のヒット曲。ここでは原曲にほぼ近いアレンジと歌唱。
9. 少女 (作詞作曲 五輪真弓 編曲 木住野佳子)五輪眞弓 1972: 同タイトルのアルバム収録された初期の名曲のカバーで、ブラジル臭さはなく、ピアノとストリングスをバックにしっとりと歌っている。
10. 夢で逢えたら (作詞作曲 大瀧詠一 編曲 竹中俊二)吉田美奈子1976: アルバム「Flapper」1976収録。大変面白いボサノバ・アレンジで本アルバム発売当時話題になった。エレキギターの演奏が洒落ている。

高田はその後もシンガー・アンド・ソングライターとしてマイペースで音楽活動を続けている。変わった仕事としては教養ネット番組の解説者に対する聞き手役というものもある。

カバーアルバムと言って侮ることなかれ! いい曲をいい演奏で楽しめる。大貫さんの珍しい曲のカバーも聴けるぞ。

[2025年3月作成]