O1 John Renbourn (1966)[John Renbourn] Transatlantic TRA135


John Renbourn: Guitar
Bert Jansch: Guitar

1. Blue Bones
2. Noah And Rabbit


          

ジョン・レンボーンのソロ・デビュー盤。収録曲のほとんどがアメリカ風のブルースかフォークで、ブリティッシュ・トラッドや中世音楽的な曲はない。ジョンの若さと気迫あふれる演奏がたっぷり楽しめる。バートとジョンの共演は 2曲で、両方ともブルース調のラフな曲。本作の発売は1966年であるが、この2曲の録音自体は古く、二人の演奏の最も初期の録音と思われ、非常にラフなプレイだ。1.「Blue Bones」はスローテンポのこってりしたブルース。二人によるソロの掛け合いによる演奏で、珍しくバートのソロがたっぷり聴ける。演奏中に笑い声が聞こえるリラックスした出来上がり。2.「Noah And Rabbit」はバート得意のモダンなアルペジオ・パターンをバックにジョンが即興演奏を付けてゆく。本作以外の共演盤 P1やS3と同じホーム・レコーディングで、当時の共同生活でのジャム・セッションの様子がうかがえる。


 
O2 Box Of Love (1972) Transatlantic TRA SAM27
 
O2 Box Of Love

Bert Jansch: Guitar

1. In This Game
2. Dissatisfied Blues



 

トランスアトランティック時代のソロ作品のベスト盤。副題は「Bert Jansch Sampler」。マッチ箱のデザインをもじったジャケット・デザインが秀逸。

未発表曲を2曲収録。いずれもバートの弾き語りで、1.「In This Game」はボブ・ディラン初期の弾き語りの様なカントリーブルース。曲想はかなり暗い。2.「Dissatisfied Blues」はストレートなブルース。ここでのバートのギターはウォーキング・ベースのスタイルでとてもカッコイイ。どちらも作品としてはとても荒っぽい出来上がりで既存のソロアルバム収録曲に比べるとレベルは劣る。「Nicola」のアウトテイクというが、デモ録音のような感じがする。

近年発売のバートの再発CDには、これら2曲がボーナストラックとして収録されているものがある。
O3 Hurdy Gurdy Man (1968) Epic



Donovan : Vocal, Harmonium, Tambura
Bert Jansch : Guitar
Candie John : Bongo

Mickie Most : Producer

10. Tangier [Gyp Mills (aka Gypsy Dave)]



ドノヴァン(1946 - 、本名Donovan Phillips Leitch) はスコットランド、グラスゴー生まれで、東イングランド、ハットフィールド育ち。両親の影響で14歳からギターを弾きフォーク、ブルースを歌う。ブリティッシュ・フォーク・シーンで活動し、1965年パイ・レコードからデビュー。後エピックレコードと契約してミッキー・モストのプロデュースで、ロック、ポップ調の「Sunshine Superman」、「Mellow Yellow」 等のヒット曲を出し国際的な人気を獲得した。またブライアン・ジョーンズ(ザ・ローリング・ストーンズ) 、ザ・ビートルズ、ボブ・ディラン等と交流を深め、サイケデリック、インド、中近東と音楽の幅を拡げる。彼が弾くフィンガースタイル・ギターは、無名時代のジョン・レンバーンの演奏パートナーだったマック・マックロード(ジョンのディスコグラフィー、ソロアルバム「Attic Tapes」参照)やバート・ヤンシュ等の影響を受けていて、当時「Bert's Blues」 1966、「House Of Jansch」 1967というバートにちなんだ曲を残している。ドノバン本人によると、彼は当時バート、彼のガールフレンドだった歌手ベヴァリー・カンター(後にジョン・マーチンと結婚してマーチン姓となる女性。「It Don't Bother Me」S3の表紙写真の女性、およびジョンのディスコグラフィー、ゲスト参加作品・オムニバス等「Where The Good Times Are」参照)と3角関係にあったそうだ。

本作は彼6枚目のアルバムで、クレジット表示がなかったため、参加ミュージシャンについては長らく不明であったが、2005年発刊のドノヴァンの自伝により、バートが1曲ギターで参加していたことが確認された。私がこの事実を知ったのは、2010年代終わりから2020年代初め頃だった。10.「Tangier」はモロッコ音楽風の曲調。レコードでは彼の作詞・作曲とクレジットされたが、正しくは友人で彫刻家・作曲家のジプシー・デイブの作品。彼はドノヴァン初期の頃、マック・マックロード等と一緒に演奏していたという。使用楽器についても、レコードにはクレジットがないので不明だったが、彼の自伝により以下のとおり判明した。パーカッションは、キャンディー・ジョンという人が叩いていて、中近東で使われる打楽器ではなく、ラテン音楽のボンゴを使用している。またオルガンのような持続音は、当初推測したハーディー・ガーディーではなく、ヨーロッパで生まれ、その後インドに伝わって現地の音楽に溶け込んだハーモニウムだ。ポータブルな箱型のオルガンで、奏者は背面にあるふいごを左手で操作して空気を送り込みながら、右手で鍵盤を弾く。また、それとは別に聞こえる持続音は、インド音楽で使用されるタンブーラ (Tambura)。シタールに似た形をしていて、演奏者は縦にするか、斜めに寝かせて演奏する。この楽器はザ・ビートルズとドノヴァンがインド訪問した頃、ジョージ・ハリソンからもらったそうだ。タイトルの「タンジェ (Tnagier)」はモロッコ北部にあるジブラルタル海峡に面した港町のことで、同地の風景・有様が読経のようなモロッコ風メロディーに乗せて語られる。

短い時間であるが、間奏とエンディングに入る、弦をバチバチと跳ねるようなインパクトの強いギタープレイは、紛れもなくバートのものだ。


他の曲についても説明します。

[Side A]
1. Hurdy Gurdy Man
2. Peregrine
3. The Entertaining Of A Shy Girl
4. As I Recall It
5. Get Thy Bearings
6. Hi It's Been A Long Time
7. West Indian Lady

[Side B]
8. Jennifer Juniper
9. The River Song
10. Tangier
11. A Sunny Day
12. The Sun Is A Very Magic Fellow
13. Teas

タイトル曲の1.「Hurdy Gurdy Man」は、ビートルズと滞在したインドで書かれた曲で、スモール・フェイセズのサイケデリックな曲「Green Circle」に影響を受けているという。ドノヴァンは当初ジミ・ヘンドリックスに歌ってもらう事を考えていたが、プロデューサーに説得されて自分で歌ったとのこと。シングルカットされて、全米5位、全英4位のヒットとなった。初期のデビッド・ボウイに通じる世界で、重めのドラムスとヘヴィーなエレキギターが入る。面白いのは参加ミュージシャンの話で、上述の通りアルバムにはクレジットがなかったが、後に関係者の発言により色々な説が出た。2005年のドノヴァンの自伝によると、まずベースとアレンジはジョン・ポール・ジョーンズ、ギターはジミー・ペイジ、アラン・ホールズワース(恐らく彼にとって始めての録音)。ドラムスはクレム・クラティーニとジョン・ボーナムという。特筆すべき点としては、彼らの中に後にレッド・ツェッペリン結成メンバーが3人含まれており、ドノヴァンがこのセッションは同グループ結成のきっかけになったと話していることだ。またここでのヘヴィーでサイケな演奏は、後のヘヴィー・メタルの源になったと語っていること。2. 「Peregrine」はインド風の音楽。3.「The Entertaining Of A Shy Girl」はギターとチェロ、フルート、ベースによるバートの「Nicora」1967 S5に近い世界。4.「As I Recall It」は一転して、ホンキトンク風のピアノとホーン隊が活躍するスウィンギーな曲。5.「Get Thy Bearings」はジャズっぽいアレンジで、サックスソロがフィーチャーされる。ちなみにこの曲はキング・クリムゾンがライブでカバーしていて、後に当時の音源が発掘・発売されている。6.「Hi It's Been A Long Time」は、リズムセクション、ピアノ、オーケトラによるビートルズ風の曲。7.「West Indian Lady」は、ギロなどのパーカッションを使ったラテンリズムの曲。

B面最初の曲 8.「Jennifer Juniper」は、木管楽器をバックに歌うポップな曲で、全米26位、全英5位を記録。9.「The River Song」はギターのアルペジオとパーカッションの絡みが印象的なフォークソング。11. 「A Sunny Day」は、フルート、ギター、ベース、ドラムスによるザ・ビートルズの「The White Album」1968におけるポールの曲のような世界。12.「The Sun Is A Very Magic Fellow」もギター、フルート、ベースによる演奏で、寓話的な歌詞とメロディーは、バートが歌ってもおかしくない曲。13.「Teas」はピアノを中心に、ベース、ドラムスが加わる演奏で、後半にホーンが入る。コーラス部分の声のサイケなエフェクト処理はビートルズ的。なお、これらの曲でバックを担当するのは、ジャズ奏者のハロルド・マックネア(Harold McNair、フルートとサックス)、ジョン・キャメロン(キーボード、編曲)、ペンタングルのダニー・トンプソン(ウッドベース)、トニー・カー(ドラムス)等。


様々なタイプの音楽が詰まった万華鏡のようなアルバムだ。

[2023年8月作成]

[2023年8月追記]
ドノヴァンの自伝による情報が入りましたので、書き改めました。Jansch様ありがとうございました。

[2023年8月再び追記]
曲「Hardy Gurdy Man」の参加者につき、以上のように書き改めましたが、実際のところジョン・ポール・ジョーンズは揺るぎなしとして、他のミュージシャンについては関係者の証言により諸説あります。自伝におけるドノヴァンの言及についても、少々出来過ぎの感があり、本人の思い込みまたは脚色の可能性が無きにしも非ずと思われます。録音セッション時に残された記録が残っていない以上、真相は「藪の中」というところですかね。


O4 People On The Highway (1992)[Pentangle] Demon TDEMCD 12

O3 People On The Highway

O3a Travelling Song (Single)

Bert Jansch: Guitar, Vocal (1,2)
John Renbourn: Guitar, Vocal (3)
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums

1. Travelling Song (1968)   S30 P3 P9 P13 O5
2. I Saw An Angel (1969)
3. Cold Mountain (1969)  P9





注) 下の写真は「Travelling Songのオリジナル・シングル盤のラベル


トランスアトランティック・レーベル作品のベスト盤。「The Pentangle」 1968 P2 より4曲、「Sweet Child」 1968 P3 より5曲、「Basket Of Light」 1969 P4 より4曲、「Reflection」 1971 P6 より4曲収録されている。いろんなレーベルから発売された数ある彼らのベスト・アルバムの中でも、LP未収録であったシングル盤3曲が収録された最初の作品という意味で価値のあるアルバムだ。

1.「Travelling Song」は、デビューアルバム「The Pentangle」 1968 P2 に先がけて発売された最初のシングル盤で、交通事故で亡くなったバートの友人を悼んで作られたもの。といってもリズムはアップテンポで酒を飲んでハイになった心境が歌われる。バートのリードとジャッキーのハーモニー・ボーカル、バートとジョンのギターの絡みも良い出来。バックで流れるストリングスが面白く、シングル盤としてポップなサウンドで受けを狙ったらしい。ただし特にヒットはしなかった様だ。1996年本曲の演奏の映像が O5で発掘された。2.「I Saw An Angel」はシングル「Once I Had A Sweetheart」(「Basket Of Light」 1969 P4 に収録) のB面として1969年 5月に発売された。サウンド的にペンタングルというよりもバートのソロアルバム「Birthday Blues」1969 S6 のものに近い。リードボーカルはバートで、ジャッキーのハミングが遠くで聞こえる。3.「Cold Mountain」は1969年10月にリリースされ、彼らの初めてかつ唯一のヒットとなった「Light Flight」(「Basket Of Light」 1969 P4 に収録) のB面として録音された。ワンテイクで録音されたそうで、当時のステージ・レパートリーであったのであろう。ジョン主体のアップテンポの軽快なアメリカン・ソングで、短く荒っぽいが、なかなか面白い曲。

本作品が廃盤となった後、1.はサンクチュアリ発売のベスト盤「Light Flight (Anthology)」で、2.3.は「Basket Of Light」の再発盤のボーナルトラックに収録され、2007年に発売されたペンタングルのボックスセット「The Time Has Come 1967-1973」 P10 に、これら3曲が収められた。


O5 John Renbourn Rare Performance 1965-1995 (1996)  [Pentangle] TAMT-00012

O4 John Renbourn Rare Performance

Bert Jansch: Guitar, Vocal (2)
John Renbourn: Guitar
Jacqui McShee: Vocal (2,3)
Danny Thompson: Bass (2,3,4)
Terry Cox: Drums (2,3,4)

1. Bert & John Rehearsing (Bells) *  P2 P3 P13
2. Travelling Song   S30 P3 P9 P13 O4 
3. Let No Man Steal Your Thyme  P2 P3 P9 P13 P20 P21 P21
4. In Time *    P3 P3 P8 P20


ステファン・グロスマン・ギター・ワークショップからの素敵な贈り物。日本版はギターファンおなじみの TAMT-TAB ギタースクールのコンビから発売された。ジョン・レンボーンのデビュー当時1965年の映像や、ブルースから中世音楽へ傾倒する過渡期にある1974年の未発表作品の演奏等、ギブソン J50を弾くジョンの姿を拝めるだけでもファンにとっては感涙もの。それに加えて本ビデオのもうひとつの目玉は、公式発売としては本邦初公開のペンタングルのテレビ映像だった。

1.「Bert & John Rehearsing」は、ペンタングルのファーストアルバム 1968 P2 に収録されたインスト曲「Bells」のメロディーをアパートの一室で弾いているもの。このデンマークの白黒テレビ映像が解説の通り1965年のものであるとすると、「Bert And John」P1 の頃の撮影となり、この曲が当時既に彼らのレパートリーであったことになる。狭い一室で前屈みになって演奏に没頭する二人の若々しい姿と、その間に座って顔もあげずに雑誌のクロスワードパズルをしている金髪の女性の退屈そうな姿がとても印象的。そのしらけた(?) 自由な感じは当時のボヘミアン・カルチャーを表現している。演奏は途中で終わってしまうが、当時の雰囲気を十分に楽しめるタイムマシーンのように貴重な映像。

2.3.は1968年5月14日収録の BBC テレビ番組「Degrees Of Folk」からの白黒映像。狭いスタジオのなかで聴衆に囲まれて、少し窮屈そうに演奏している。高めの椅子に腰掛けて歌うジャッキーの派手で長い付睫毛とミニスカートが、いかにも60年代後半のファッションといった感じで懐かしさを感じる。それにしてもジャッキーもバートも歌う時の表情がクール。ジョンは目を閉じて一心不乱にJ50 を弾きまくっているし、テリーはリラックス、唯一ダニーだけが身体をベースに打ち付けるような派手な動きを見せる。2.「Travelling Song」は1968年のシングル盤作品でオリジナルLP未収録曲。スタジオ録音は前述のとおり O4に収録された他、ボックスセット「The Time Hs Come」 2007 P10 にも収められた。3.「Let No Man Steal Your Thyme」はファンお馴染みの作品で、間奏部分がスタジオ録音よりもフリーな感じで面白い。ダニーのアルコ(弓弾き)奏法によるウッドベースの重低音がシンセサイザーのような素晴らしい効果をあげている。

4.「In Time」は1971年の BBC のスタジオライブで、これだけがカラー作品。インストものでジャッキーは写っていない。ジョンの吸うタバコの煙がもうもうと漂うなか、よりクールでジャージーな演奏が聴ける。ジョンはセミホロウのエレキ・ギター(ギブソンES-335)を使用、バートはオーディトリウム・タイプのアコギにピックアップを付けて、エレキっぽい音を出している。演奏面ではダニーのベースソロがアグレッシブで最高にかっこいい。ちなみにこれは P8の12.と同一演奏である。とするとP8に収録されている同日の他のセッション曲、「Train Song」「Hunting Song」「Light Flight」「House Carpenter」「I’ve Got A Feeling」についても、ビデオテープがBBCの倉庫に眠っていることになる。いつかそれらの映像が正式発売されることを切に望む。

[2007年追記]
これらの映像をインターネットで観ることができます 

[2023年11月 追記]
1. 「Bert & John Rehearsing (Bells)」のソースとなったデンマークのテレビ番組映像 「Folksangere」の記事を「その他音源・映像」の部にアップしました。上述の記事では 「このデンマークの白黒テレビ映像が解説の通り1965年のものであるとすると、「Bert And John」P1 の頃の撮影となり、この曲が当時既に彼らのレパートリーであったことになる」と書きましたが、正しくは1967年で、「Bells」が収録されたペンタングルのファーストアルバムP1の発売年1968年に符合します。


O6 Captured Live (1972) [Pentangle]  Intense Vision INT005



Bert Jansch: Guitar, Banjo (3), Dulcimer (5), Vocal
John Renbourn: Guitar
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Vocal

1. Will The Circle Be Unbroken [Trad.]  P6 P9 P11 P11 P20
2. No Love Is Sorrow   P7 P8 P10
3. Wedding Dress   [Trad.]  P6 P20
4. Reflection  P6 P10 P11 P11
5. Willy O'Winsbury [Trad.]  P7 P10 P18 P22 O27
6. People On The Highway   P7 P8 P20 P21 P21 P22
収録時間: 約30分


以前海賊盤ビデオで出回っていた映像が、2003年DVDにて正式発売された。1996年発売のペンタングル初の公式映像 (O5 参照) がわずか 3曲のみだったので、まとまったものとしては初めてだ。1972年6月10日ベルギーのテレビ局RTBFへの出演とのことで、「Reflection」 1971 P6、と「Salomon's Seal」 1972 P7 といった後期アルバムからの曲が演奏されている。当時はかなり多くのテレビ番組に出演したはずで、本作の様な映像作品が将来発掘されることを期待したい。

1.「Will The Circle Be Unbroken」は、楽器のセッティングのシーンから始まる。シンプルなPA機材の設置が時代を感じさせる。聴衆のいないスタジオライブで、バートのギターはマーチン000-28タイプにピックアップを付けてしているためエレキ・ギターに近い音。ジョンはお馴染みの J50以外に、ギブソン製ホロウ・ボディのエレクトリック・ギターを使用している。

2.「No Love Is Sorrow」でアップになるバートの顔にびっくり。何とあご髭をもじゃもじゃに生やしているのだ。通常の彼のイメージと全く異なり、ロック・ドラマーのカーマイン・アピスにそっくり!曲中でジョンがお馴染みのギブソン J50でリードギターのソロをとるが、いまひとつ生気がない。

3.「Wedding Dress」ではバートがバンジョーを弾く。4.「Reflection」のイントロのダニーのソロがかっこいい。全身をぶつけるようにして弾く彼のアクションはメンバー中一番派手。ダニー以外のメンバーは全員椅子にすわって演奏しているためか。ジャッキーによると、立って歌うと緊張して足が震えて駄目とのこと。途中テリーのドラム・ソロが入るが、画面をわざと歪めて少しサイケデリックな処理をしているところが当時流行という感じで、今観ると微笑ましい。収録時ジョンはかなり酒を飲んでいたとの事で、この曲の後半部分になるとイスに座っているのがやっとという感じ。ずっとうつむいたままでタバコをふかし、時たまギターをいじり、ワウワウペダルを踏んでいるが、音が出ていない。ジャッキーが歌いながら「しようがない人ね~」とチラチラ睨んでいるのが生々しい。そのため後半のインスト部分はバートのギター演奏でカバーしている。

ジョンとテリーが抜けた3人で演奏される 5.「Willy O'Winsbury」では珍しくバートがダルシマーを弾いている。歌うジャッキーの超アップが少し異様。歌っている時の動きの少ないクールな表情が何とも印象的。余談であるが1995年バートとジャッキーの来日時、私は香港に住んでいたため、コンサートに行って彼女の歌う姿を拝むことができずとても残念であった。6.「People On The Highway」はバートとジャッキーのデュエット。ここではジョンは完全にダウンしたようで一切画面に写っていない。ジョンを除いた4人で演奏に集中しようとする意気込みが感じられ、それなりにリリカルな雰囲気の演奏となった、ジャッキーとバートが互いに見つめ合いながら、ほんのちょっとだけ微笑むところが良い! 
 
当時、ジョンやバートの泥酔や遅刻という事件は日常茶飯事だったようで、ロック・バンドとしてのハード・スケジュールとストレスのためクレイジーでギスギスした状況がうかがえる。各メンバーの異常に淡々とした表情と妙にクールな雰囲気の理由がわかるような気がする。演奏としては特筆すべきものはない。ともかくこの映像はペンタングル末期の姿を生々しくとらえており、ファンにとって貴重なドキュメントとなった。

[追記] 2007年に発売されたペンタングルのボックスセット「The Time Has Come 1967-1973」 P10で、本作と同じ音源の3.4.6.が収録された。音質的には、CDのほうがずっと良い。

[追記 2018年1月] ペンタングルのボックスセット「The Albums」 2017 P11のブックレットにある年表に、本映像の収録日がありましたので、その旨修正しました。

[2022年2月追記]
2010年代末よりストリーミング・サービスから「The Sessions Live American Radio Broadcast」などのタイトルで配信されているライブ音源は、本映像のものからです。


O7 When I Leave Berlin(1974) [Wizz Jones] Village Thing






Wizz Jones: Vocal, Guitar
Bert Jansch : Guitar

1. Freudian Slip


1972年5月録音

注) 左上の写真がオリジナル・ジャケット
   左下の写真は再発CD「The Village Thing Tapes」

 

         

ブリティッシュ・フォーク黎明期からの友人で「最も有名な無名シンガー」として玄人筋の評価の高いウィズ・ジョーンズが、バートや奥さんのサンディー・ジョーンズが在籍するバンド、レイジー・ファーマー等のサポートにより制作したアルバムで、ジョン・レンボーンがプロデュースした「Right Now」1972 に続く5作目のソロアルバムだ。その中の1曲 1.「Freudian Slip」にバートが参加している。オブリガードや間奏部分等、バート特有の音使いがハッキリ聞こえる演奏で、2本のギターの絡みはグルーヴ感に溢れ良い出来。

一方本作自体はなかなかCD化されず、中古LPの流通数も少なく入手困難だった。まずは1992年に発売されたベスト盤 CD「The Village Thing Tapes」(本作から6曲収録)でこの曲を入手。2度ほどインターネット市場に出品されたが、すぐに売れてしまい買い逃してしまった。1枚位オリジナルがなくてもいいや、と半分開き直っていたところ、レコードコレクターズ誌2006年1月号に、新宿のレコード店 Vinyl Japanによる世界初CD化の広告が掲載され、早速買いに行きました。


O8  Easy (1974) [Ralph McTell] Reprise K54103






Ralph McTell: Vocal, Guitar,
Bert Jansch: Guitar
John Kongos: Backing Vocal
Danny Thompson: Bass
Gerry Conway: Drums
Lynsey Scott: Violin


1. Run Johnny Run



注) 下の写真: Kicking Mule Recordsから発売されたアメリカ盤の表紙


ブリティッシュ・フォークの重鎮、ラルフ・マクテルのソロアルバムに1曲だけゲスト参加。ミディアム・テンポの賑やかな曲で、ラルフの伴奏ギターとボーカルにバートお馴染みのタッチのギターがギンギンに絡んでいて良い出来。アルバム自体はダニー・トンプソンとトニー・ビスコンティがプロデュースしており、バートの「Moonshine」 S8 の雰囲気に近い。なお本作は後にキッキング・ミュール・レーベルより LPで発売された。


O9 Three Chord Trick (1993) Charisma CDVM9024








Bert Jansch: Guitar
Rod Clements: Bass,
Irene Hume, Brian Hume, Ian Vardy: Backing Vocals

Ralph McTell: Producer, Rod Clements: Liner Notes

1. In The Bleak Midwinter [Holst, Rossetti]  S10 S36-4

1974 年10月30日録音

            
注) 下の写真はオリジナル・シングル盤のラベル。「不思議の国のアリス」をベースとしたイラストが面白い。


カリスマ・レーベル時代のベスト盤。カードゲームをもじったジャッケット・デザインがとても良い。「L. A. Turnaround」 1974 S9 より5曲、「Santa Barbara Honeymoon 」 1975 S11より4曲、「Rare Conundrum」 1976 S13 より5曲、「Avocet」 1979 S15 より1曲が収録されている。ちなみに本作の題名は、ロンドンのフォーク・シーンを風刺的に歌った「Rare Conundrum」収録曲のタイトルからとったもの。

本作品にはシングルとして発売され、その後長くLP、CD化されていなかった曲が収録された。1.「In The Bleak Midwinter」は、クリスマス・ソングとして有名な歌で、これは 1974年にシングル盤で発表されたもの。最近はクリスマスソングをフィンガースタイル・ギターにアレンジすることが流行っていて、マーチン・シンプソンをはじめ、多くのギタリストがカバーしている。本作品のライナーノーツを担当しているロッド・クレメンツによると、これがバートとの初めてのレコーディングだったそうだ。重厚なコーラスをバックにして厳かに歌われ、なかなかの出来。


O10 Fingerstyle Guitar (1993)  TAB TAMT-00002





副題 : New Dimensions & Explorations 

Bert Jansch: Guitar, Vocal

1. One For Joe  S9 S9 S10 S11 S18 S23 S36-4 O13
(2.Blackwaterside)



注)2.はO16が初出なので、ここでは括弧書きで表示しました。



ステファン・グロスマン・ギター・ワークショップ制作によるフィンガースタイル・ギタリストのオムニバス映像集の第1弾。全17曲収録されており、ピーター・フィンガー、レオ・コッケ、エイドリアン・レッグ、ウッディ・マン、ヨーマ・コウコウネン、ジョン・フェイ、ブラッド・ジョーンズウィル・アッカーマンという、そうそうたる人達の映像が収められている。過去映像の寄せ集めのため撮影時期はまちまちで、著作権の問題のためか、残念ながら収録時期および場所は明らかにされなかった。

バートの演奏は2曲収録。1.「One For Joe」は小さなライブハウス(パブ)で少人数を前にした弾き語りの演奏。使用ギターはヤマハ。カメラは彼のアップ中心でギターもわずかしか写らない。彼の顔がテレビ画面いっぱいになる超アップもあって、ギタリストをとらえた映像としては少し異様で、少し太り気味であまり健康そうでない顔が印象的。本映像の出所は、デンマークで製作された1975年のテレビ番組「Plush And Good Music」とのことで、本ビデオには収録されていないが、ラルフ・マクテルのギターが加わった「Moonshine」も同じ番組で放送された。なおこの演奏シーンは、2003年頃に「Fire Guitarer」という番組で再放送されたらしい (映像の部を参照ください)。

もう一曲の2.「Blackwaterside」は、ビデオ作品「Conundrum In Concert」 O16 に収録されているものと同じものなので、1980年オハイオ州におけるライブということになる。同曲は彼のギター・アレンジの傑作で、前述のビデオを持っていない人にとっては、とてもおいしい映像。ビデオケース裏面のバートの写真は「A Rare Conundrum」 1976 S13 のレコードのアメリカ版ジャケットに使用されたものと同じ。

[2011年9月追記]
1.「One For Joe」の出所について書き加えました。


O11 A Man And His Songs (The Guitar Artistry Of Bert Jansch) (2011) Rounder Vestapol 13125
 


Bert Jansch : Guitar, Vocal
Rod Clements : Bass (5,6), Mandolin (7)
Pick Withers: Drums (5,6,7)

1. When A teardrops Fall (Fade Out) S11 S11
2. Blackwaterside S4 S18 S18 S25 S27 S33 S36-4 S36-5 S36-6 P21 O16 O42
3. Untitled Instrumental
4. Build Another Band (Fade Out) S10 S11 S11 O43
5. Candy Man [Traditional]  S13 S36-7
6. Looking For A Home (Fade Out)  S13
7. The Curragh Of Kildare [Traditional] S13 S18 S27 S29 


収録: 1~2: 1974年10月26日 George Square Hall, Edinburgh University
     4~7: 1975~1976年頃 ロンドン(恐らく)

注: ジャケット写真はO16と同じ


2011年5月に発売された「Conundrum In Concert」 O16の再発盤「The Guitar Artistry Of Bert Jansch」に、ボーナストラックとして収録された映像。クレジットには、1985年のドキュメンタリー「A Man And His Songs」とあり、コリン・ハーパー著「Dazzling Stranger」(2000 Bloomsbury Publishing Plc.)によると、これはオランダのテレビ局が製作したもので、同国のみで放送されたものだそうだ。1975年頃に製作されたはずの映像が、何故1985年に放送されたのかは不明。

番組はインタビューから始まり、バートはジョン・レンボーンとの出会い、ペンタングルの結成について語り、「最初のギグはフェスティバル・ホールで、売り切れになって凄かったよ」(このコンサートの模様は「Sweey Child」1968 P3 で聴くことができる)、「音楽が新鮮でなくなった(Stale) ので解散した」と語っている。1.「When A Teardrops Fall」は、アルバム「Santa Barbara Honeymoon」 1975 S11 からの曲で、小さなホールでのライブ映像。バートにしては珍しく、ピックを使用したコードストロークによる演奏だ。画面がとても暗く、観にくいが音は良い。曲の途中でエディンバラの街の景色とコンサート会場の外観、そして入り口に貼られたコンサートのポスターが映り、エディンバラ大学構内にあるジョージ・スクウェア・ホールが会場であることがわかる。またポスターには「10月26日 土曜日」の表示があり、そこから1974年の録音であることが特定できた。途中でインタビューが再開し、曲はフェイドアウトしてしまう。残念な感じもするが、ドキュメンタリー番組なのでしようがないか。バートはコンサート中に、「大きなTofee Apple(リンゴを串に刺して砂糖に浸したもの)を食べている娘がいて、(ステージの)椅子に座るなり彼女と目が合ってしまった。彼女は大変当惑して隠れようとしていたよ」と語り、実際にリンゴを食べる女の子の様子が画面に映し出され、面白いエピソードになっている(今彼女は何をしているのかな?)。またこのコンサートでPAのトラブルのため開演が遅れた話になり、このような問題はよく発生し、マイク無しで大きな声で歌うこともあると言う。500人位の場所ならば、オーディエンスが静かだったら問題ないそうだが、PA付きのほうが安心して落ち着くし、オーディエンスにより強く伝えられると答えている。2.「Blackwaterside」は、イントロが終わるところで、ギター演奏をとちったため、少し苦笑気味に歌い出す。その後もギターとボーカルが合わなくなり、ストップする部分もあるが、バートは全くに気にせず悠々と演奏を続ける。とちる箇所はあっても、スケールの大きな演奏は素晴らしく、ギターも良く録れているのでお勧めだ。
 
次にバートの日常生活についての話になる。彼の家は、ロンドン中心部から南西に位置するプットニー(Putney)にあり、バートはここでの生活につき、「I sit here and play guitar during the day usually or go out and meet few friends. Putney is like a village on the middle of London. If I cross the bridge to the other side it's very rare - it's about once a month, unless I'm actually working」と語っている。その家の前でバートは牛乳が入ったグラスを持ち、ここで地元のUnigate Milkのコマーシャルが製作されたエピソードを語る。そしてビールの話になり、地元で作られるエール「Real Ale」が大好きだと話している(イギリスは各地に個性的な「地ビール」があり、それを飲むのが庶民の楽しみのひとつになっている)。そして彼が仲間達と一緒に地元のパブ「Bricklayer's Arms」(32 Waterman Street, London) に行き、ラルフ・マクテル等とダーツに興じるシーンとなる。その背景で流れるギターによるインストルメンタルは、ここでしか聴けないものだ。

次に、ロンドンの音楽事務所またはスタジオでのライブのシーンに切り替わる。バートは4.「Build Another Band」を始める前の曲の紹介で、「自分も多くのバンドを結成しては解散してきた。フェアポート・コンヴェンションのように多くのメンバー・チェンジをしたものもあれば、ペンタングルのように不動だったものもある」と語っている。本気モードで弾き語るバートの背後の壁面には「L.A. Turnaround」 1974 S9 のジャケットが架けてある。この曲も途中にインタビューのシーンが入り、フェイドアウトしてしまう。新しいバンドの話になり、元リンデスファーンのロッド・クレメンツ、セッション・ドラマーのピック・ウィザース(後に彼はダイアー・ストレイツに加入して大成功する)、マイク・ピゴーがメンバーで、2ヶ月間リハーサル、レコーディングをしているが、ライブはまだしていないと語っている。ここで「Santa Barbara Honeymoon」 S11 に収録されたバンド・バージョンの「Build Another Band」が少し流れる。マイク・ピゴーを除く3人で演奏される 5.「Candy Man」のスタジオ録音は、オランダ発売の「Poor Mouth」 S12に収録されたが、イギリスで発売された「Rare Conundrum」S13 1977 ではカットされ、 22年後のCD再発時にボーナストラックとして収録されたレパートリーだ。その曲を演奏していることから、このインタビューおよびスタジオライブが、アルバム「Poor Mouth」 S12 1976発売前の1975年頃に収録されたものとわかる。リハーサルに立ち会っているかのようなリラックスした演奏で、ピック・ウィザースは静か目にレゲエのリズムを叩いている。スタジオトークの後、6.「Looking For A Home」が演奏され、この頃はまだ若々しいロッド・クレメンツが楽しそうにベースを弾いている。この曲でのバートのギターはコード・ストロークによる演奏。この曲はフェイドアウトとなり、またインタビューに戻り、これからの音楽についての話で、「自分の音楽は極めて個人的で、書く事はすべて本当にあったこと、自分の人生・経験によるもので、嘘はつかない。それらが何なのかは自分だけが知っていて、解釈はリスナーに任せ、自分から説明する必要はない」と語っている。7.「The Curragh Of Kildare」でのバートのボーカルは気合が入っていて良い感じで、ロッドはマンドリンを弾いている。

1970年代後半の姿が拝めるお宝映像だ。

[2011年9月作成]

[2022年11月追記]
今回観た映像の資料には、「1976年オランダで放送されたテレビ番組」とあった。また4~7の収録場所は、「プットネイ(Putney)にあるラルフ・マクテルの自宅」とのこと。


O12 Blidt Forsvinder Natten (1977) [Erik Grip] ExLibris 20.020




Erik Grip: Guitar, Vocal
Bert Jansch: Guitar
Martin Jenkins: Violin

Peter Abrahamsen: Producer

1. Langt Inde I Morgenen [Peter Abrahamsen, Erik Grip]



1976年にデンマークの ExLiblisレーベルで「Poor Mouth」 S12 を製作したバートが、同レーベルのオーナーであるピーター・アブラハムセンがプロデュースしたレコードにゲスト参加したもの。1963年のデビュー以来20枚以上のアルバムを発表したデンマークでは著名なシンガー・アンド・ソングライター、エリック・グリップ (1947- ) の作品にマーチン・ジェンキンスと一緒に1曲付き合っている。この作品の存在を知ったのは、コリン・ハーパー著「Dazzling Stranger」の脚注だった。そこには作品名が明記されていなかったため、インターネットで検索したところ、ほとんどの資料がデンマーク語で全然読めずに参りました。何とかバート参加の作品を推定し、オンライン市場で探してやっと見つけた次第。

1.「Langt Inde I Morgenen」のエリックの演奏はかなり達者で、バートのギターとよくブレンドしている。ギターとマーチン・ジェンキンスのバイオリンのサウンドは後の作品「Avocet」 S15 に収録された曲「Kittiwake」に少し似ている。デンマーク語で歌っているため何の意味かさっぱりわからないが美しいメロディーでいい出来だと思う。間奏部分では、珍しくバートによるギターソロがフィーチャーされ、なかなかいい味を出している。

地元デンマークでは、90年代に他のソロ作品と一緒に1枚のCDとして再発売されたらしい。興味がある方はオンライン・ショップで探してみるといいでしょう。